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芳根京子と志尊淳が演じる、理想のカップル 『先輩と彼女』に見る若手俳優の躍進とは

2015年10月08日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)「先輩と彼女」製作委員会 (C)南波あつこ/講談社

 全民放ゴールデンタイムのドラマ枠の低調ぶりが取りざたされた今年の夏クールが終わり、『表参道高校合唱部!』は今年の1月クールに放映されていた『まっしろ』を辛うじて上回る平均視聴率5.92%という低調な数字のまま幕を下ろした。


参考:芳根京子は大女優の器か? 隠れた名作『表参道高校合唱部!』に見る可能性


 とはいえ、やや力任せな終盤の展開でありながらも、これまで合唱で歌われてきた名曲が再び登場し、劇中曲として作られた「愛の歌」を合唱する大団円を迎える最終回は、今年を代表するテレビドラマとして相応しい最高のフィナーレであった。


 そして、青春ドラマに欠かせない恋愛要素を期待した視聴者の誰もが、ヒロイン香川真琴を演じた芳根京子と、夏目快人を演じた志尊淳とのラストに妙にそわそわとした気持ちになったのである。中庭でお互いに向き合って想いを伝え合った二人が、キスをすると思いきや、恒例の“10秒ジャンプ”で照れ隠しをする真琴。快人が真琴の腕を掴んでいざ二人の顔が近付いたところで、シーンが切り替わってしまう。もちろん物語の展開上、ここで二人がキスをしたというのが最も納得のいく解釈であるが、若いファンからしてみれば、気が気でないところであろう。


 そんな“オモコー”カップルの二人が、再び映画で共演したのであるから、オモコーに熱中した視聴者は、劇場に足を運ばないわけにはいかない。『先輩と彼女』というシンプルなタイトルのその映画は、もう10年前に連載の終了した少女漫画を原作にした映画である。


 少女漫画原作の映画は、ここ数年急増している。2000年代に入ってから矢沢あいの『NANA』の実写映画化が成功したことが大きな転換期となり、また人気のある若手役者を揃えることで、口コミ力のある若い女性客を映画館に集めることに成功しているのだ。今年に入ってからも、年末からヒットを続けていた『アオハライド』に始まり、『ストロボエッジ』といった高校生青春モノから、『娚の一生』のような20代以上をターゲットにした作品や、『海街diary』のような変り種までと幅広い。


 しかしながら、近年映画化されている高校生が主人公の少女漫画映画は、どれも連載が続いている作品ばかりで、連載当時読んでいた世代はもう20代半ばになっている『先輩と彼女』は、映画化するには少し挑戦的な試みであるようにも思える。しかし、たった2巻で100万部以上を発行したこの漫画の強さは伊達ではない。昨年映画化された『クローバー』は全24巻で860万部の大ヒット作なのだから、1巻辺りの発行部数はそれを大きく上回っているのである。


 今回メガフォンを執った池田千尋監督は東京藝大出身の女性監督で、インディーズ系女性監督の中で最も期待できる存在である。意外なことに、少女漫画映画ブームであり、女性監督が増えてきた昨今でも、このふたつの要素が重なることはそう多くはない。思い浮かぶところでも、3年前に公開された福山桜子の『愛を歌うより俺に溺れろ!』と、昨年夏に公開された日向朝子の『好きっていいなよ。』くらいであろうか。映画としての演出の巧さは男女問わず個人差があれど、女性主人公の心情や、微妙な所作を描かなくてはいけない点で、男性よりも女性監督の方が丁寧に少女漫画を扱えており、圧倒的に優れているという印象を受ける。


 そしてやはり注目すべきはヒロインを演じる芳根京子であろう。ほぼ原作の扉絵に則したオープニングから始まるこの映画は、もう前半から芳根ワールドに包まれる。原作にはなかった猫と会話をする登場シーン。髪を茶色く染めて、膝上丈のスカートで『表参道高校合唱部!』とは違った雰囲気の高校生を演じているかと思えば、豊かな表情のバリエーションと台詞の強弱の付け方が冴え渡る。中でも縁日のシークエンスは途方もないほど魅力を発揮しており、手前に風車が並んでいるフレームに登場した芳根は、画面の左から右に駆け抜けながら息を吹きかけて風車を回転させていくのである。そして相手役の志尊淳にあんず飴をねだるまでの明るさと、そのあんず飴を落としてしまったときの表情のコントラストの変化が、帽子を目深にかぶっていても容易に判る。


 よくよく考えてみれば、撮影は本作の方が『表参道高校合唱部!』よりも前であるのだから、多少は見劣りする部分もあるだろうかと思っていたが、まったくもってその心配は必要がなかった。池田演出によってもたらされる、シネマスコープ画面を存分に活かした距離感の表現や、おとなしめのカメラワークすべてが、彼女の演技を引き立てる、理想的な青春映画のパッケージを構築している。


 また興味深い点は、前述した通り『表参道高校合唱部!』でのメインカップルを演じる芳根京子と志尊淳の二人が再びメインカップルとして再共演したところであろう。主人公の恋敵を演じる小島梨里杏も、“オモコー”で真琴をイジめるクラスメイト・風香を演じており、メインキャスト3名がそのまま引き継がれているのである。昨年の秋に『ごめんね青春!』で共演した黒島結菜、小関裕太、富山えり子の3人が青春映画『あしたになれば。』で共演した前例があるように、若手俳優の需要と供給のバランスが今ひとつ合っていなのかもしれないが、実力のある若手がその実力をさらに伸ばす機会を与えられるのは素晴らしいことであるし、短いスパンで同じカップリングを異なる物語で観れるというのも、何だか50年代頃の日本映画のスターシステムを見ているようでワクワクするものだ。


 再び芳根京子の相手役を務める志尊淳は、城田優らを輩出したワタナベエンターテインメントの俳優集団D-BOYSのメンバーで、今年の冬まで放映していたスーパー戦隊シリーズ『烈車戦隊トッキュウジャー』で主演のトッキュウ1号を演じていた(ここで小島梨里杏がトッキュウ3号を演じていたことを思い出すと、なおさら若手俳優の狭さを感じてしまうのだが)。身長は178cmだから平均よりやや高いくらいで、高身長の部類に入るのだろうか。カップルの理想の身長差が15cmとよく言われているが、159cmの芳根京子と並んでも、それほど違和感のある身長差ではない。何より、顔の造形の優秀さは言うまでもなく、見た目以上に可愛らしい声が印象的で、一度聞いたら忘れられない声をしている。


 芳根と志尊、両者とも特徴的な声質を持ち、柔らかい空気感を放つので、どちらかの個性を潰し合うこともなく、会話のシーンにおいても非常にバランスが良いカップリングに思える。この三ヶ月見てきた安心感も相まって、自然体な演技を見せる二人の共演シーンは、とても心地良い時間が流れる。年末から始まる今年の映画賞で、二人とも高い評価を受けるに違いない。いや、むしろ高い評価を受けるべきだ。


 それにしても、“オモコー”では突っ走る芳根を応援し、優しい言葉で暖かく見守るポジションだった志尊が、今回の映画では突っ走る芳根を「バカだな」と笑いながらも、時折ときめかせるような仕草を狙い撃ちしてくる、見事なツンデレを見せる。もちろん、お預けになっていたキスシーンも用意されている上、“オモコー”のクライマックスと同様に二人の後ろを回り込むようなカメラワークで既視感があるのだから、ドキドキ感が増す。安定した芳根演技に対して、キャラクターの変化を楽しむのなら志尊淳の演技からも目が離せないのである。これは志尊ファンが急増するであろうし、男子高校生たちは彼の真似をしようと教室の窓辺を取り合うことであろう。(久保田和馬)