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罵りや暴力、妻から夫への「DV」が話題――それでも「深刻な被害者の多くは女性」

2015年10月07日 10:31  弁護士ドットコム

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「罵倒されても蹴られても…妻からのDV、口閉ざす夫たち」。こんなタイトルの記事が9月中旬、朝日新聞のウェブサイトに掲載され、ネットで話題になった。記事の内容は、「夫」が被害者となったDV(ドメスティック・バイオレンス)の現状を紹介するものだ。


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記事では、「バカがうつる」と妻に自宅を追い出され、別居しながら養育費を支払う男性や、「稼ぎが悪い」と妻に罵られ、蹴られるなどの暴力を2年受け続けた男性が取り上げられた。この男性は、その後、2年越しの裁判を経て離婚が成立したという。



男性の場合、被害を他人に相談しないケースが多く、被害が明らかになりにくい現実があるという。記事では、被害を受けた男性が「プライドが邪魔をして、相談もできない」と話していた。



記事についてツイッターでは、「DVって男→女っていうパターンしかないとどっかで思い込んでた」、「絶対結婚なんかしない…婦女子は怖い」と驚きの声が投稿されていた。一方、「男性が加害者のDVばかり報じてきたマスコミの責任もある」といった意見もあった。



一般的に、DVと聞くと、男性が加害者で女性が被害者というイメージがあるが、男性が被害者の場合でも、離婚の理由になるのだろうか。また、DV被害における男女の違いについて、どう考えればいいのか。打越さく良弁護士に聞いた。



●性別によって、立証の程度が変わるわけではない


「裁判実務上、被害者や加害者の性別によって、DVの立証の程度が変わるということはないでしょう。



離婚事由(民法770条1項5号『その他婚姻を継続し難い重大な事由』)としても、慰謝料の請求原因としても、暴力を裏付ける証拠(診断書、怪我の写真)があるかどうか、暴力の程度等によって認定され、評価されます」



打越弁護士は、DV防止法に基づいた対応についても指摘する。



「DV防止法(前文)は、DVを『配偶者からの暴力』として、加害者・被害者の性別をニュートラルにしており、妻から暴力を受けた男性の被害者も救済を受けられます。



たとえば、夫も、証拠があり、『その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれ』等の要件が立証できるのであれば、保護命令(同法10条)の申し立てることができます」



●DV防止法は、男性を想定しているのか


DV防止法は、男性のDV被害についても、当然想定していたということだろうか。



「そうとは言い切れないのではないでしょうか。



DV防止法は、国連など国内外で、人身売買など女性に対する暴力のひとつの形態として、DV救済の必要性が認識されたことを背景に制定されました。



その前文は、DVが『犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害』であると位置づけた上、次のように指摘しています。



『配偶者からの暴力の被害者は、多くの場合女性であり、経済的自立が困難である女性に対して配偶者が暴力を加えることは、個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げとなっている』



そのような状況を改善し、『人権の擁護と男女平等の実現』を図るために、DV防止法は制定されました」



●DV被害者は圧倒的に女性が多い


そうした、「配偶者からの暴力の被害者は、多くの場合女性」という状況は変わってきているのだろうか。



「残念ながら、状況は今も変わっていません。



私が出会うDV被害者の大多数が女性です。DVが離婚事由や慰謝料事由にあたると認めた公表裁判例を多数読みこみましたが、被害者は妻ばかりでした。



警察庁は毎年配偶者からの暴行、傷害、殺人の検挙件数を公表していますが、2014年の調査結果でも、被害者の9割は女性です。深刻な被害は女性に集中しています。



また、内閣府の2014年度の調査でも、『DVの被害経験がある』という回答者の割合は、配偶者の場合、男性が約16%に対して女性が約24%。交際相手の場合、男性の約10%に対し、女性が19%で、いずれも女性が高い割合を示しています。



DV被害で『命の危険を感じた』という回答も、男性が約15%であるのに対し、女性が29%と、かなり差があります」



打越弁護士はこのように指摘していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
打越 さく良(うちこし・さくら)弁護士
離婚、DV、親子など家族の問題、セクハラ、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野を専門とする。第二東京弁護士会所属、日弁連両性の平等委員会・家事法制委員会委員。夫婦別姓訴訟弁護団事務局長。
事務所名:さかきばら法律事務所
事務所URL:http://sakakibara-law.com/