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寺嶋由芙×姫乃たまが語る、それぞれのアイドル活動 寺嶋「ファンには幸せになってほしい」

2015年10月05日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』(C)blueprint

 地下アイドル兼ライターとして活躍する姫乃たまが、初の単著『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』を9月22日に発売した。


 リアルサウンドでは本書の発売を記念し、書き下ろしコンテンツである寺嶋由芙と姫乃たまの対談記事を掲載する。インディーズ期間を経て、メジャーシーンに駆け上がった寺嶋由芙と、いまも“地下”に生きる姫乃たまが、おたがいのアイドル活動について語り合う。


参考:姫乃たまのユニット作『僕とジョルジュ』が放つ異彩 底なし沼のような“怪作”を読み解く


■「私たちが初めてステージに立った時って、ちょうどアイドルシーンの過渡期だった気がする」(姫乃)


姫乃:由芙ちゃんとの出会いは、たしか……。


寺嶋:新大久保で……地下アイドルのレコ発だよね?


姫乃:そうだ、そうだ! そうでした。


寺嶋:私はちょうどアイドル活動がやりたいと思い始めた頃で、ある作曲家さんに連れていってもらってて。姫乃ちゃんはほかの子より断然、歌がうまくてステージも上手だったから、まず印象に残ったんだよね。


姫乃:わぁ……なんだかすみません。


寺嶋:その後に会ったのはたぶん「勝ち抜け! ピスタチーオ」じゃないかな。(注:観客の投票によって順位が決まる月一開催のアイドルライブ。「たまご組」から始まって、勝ち上がっていくと「ひよこ組」「ピスタチーオ組」と、最後はなぜか豆になるのが不思議。「ピスタチーオ組」で3ヵ月連続優勝すると、賞金10万円がもらえます)


姫乃:そうだよね。由芙ちゃんのステージにものすごく感動して、つい作曲家さんに「天使みたいですね」って言っちゃったよ。


寺嶋:いやいや、私の方は「あの時のあの子だ!ってドキドキしたよ。当時の姫乃ちゃんはすでに“売れている人”だったから。


姫乃:その私がいつからこうなっちゃったんだろう……(苦笑)。というのは置いておいて、いまはメジャーにいる由芙ちゃんも、最初は駆け出しのアイドルが沢山いるところから始まったんだよね。


寺嶋:そう。「ピスタチーオ」に出ていた時は、アニソンを知らないとヤバい!とも痛感して、平野綾さんの『Godknows…』とか練習したんだよ。


姫乃:『Godknows…』! (笑)これすごい地下あるあるだよね。中川翔子の『空色デイズ』もそうなんだけど、場が盛り上がるっていう理由で歌わざるを得ないという。ところで、由芙ちゃんがアイドルを始めたのっていつ頃なんですか?


寺嶋:10年。私が大学1回生で、姫乃ちゃんが高校3年生か。


姫乃:同級生にはライブアイドルっていた?


寺嶋:いなかったなぁ。


姫乃:うちは高校の同級生に何人かいたんだよね、みんな隠れて活動してたけど。


寺嶋:オーディションもないし、曲も、オケさえ持っていけばステージに立てるから。みんな趣味感覚で始められたのかな。


姫乃:それがAKBのブレイクをきっかけに、グループアイドルが続々と派生することになって。


寺嶋:当時はAKBにインスパイアされたようなグループアイドルより、“手作りアイドル”みたいな人が多かった気がするなぁ。私たちがアイドルを始めたくらいの時期から、何に属さなくても、形にはまっていなくても、アイドルを名乗れるようにはなったね。


姫乃:そう思えば、私たちが初めてステージに立った時って、ちょうどアイドルシーンの過渡期だった気がする。AKBがブレイクした後も、オケで歌うことに対して嫌な顔をするライブハウスは多かったけど、それも変わっていったね。


寺嶋:ロック系のライブハウスでは一部のスタッフから「アイドル? ハァ?」みたいに言われたし。当時に比べればライブハウスも社会も、優しくなったなぁ。


姫乃:由芙ちゃんはそんな下積み時代からBiS加入・脱退、そしてインディーズでのソロ活動を経て今年メジャーデビューしたけど、デビューはどう決まっていったの?


寺嶋:いや、突然(笑)。知らされるのも結構ギリギリのタイミングで。


姫乃:地下の頃からずっとメジャーを目指していたんだよね?


寺嶋:いや、全然。


姫乃:あれっ、そうなの?


寺嶋:うん。BiSを脱退してインディーズになってからの1年がすごく楽しかったから、絶対にメジャーにいきたいとは思ってなかった。それに流通がユニバーサルミュージックというのはインディーズの時から変わらないから、対外的な変化も正直なくて。ファンも感じていると思うんだけど、メジャーデビューした時に「大きくステップアップしたぞ!」というテンションを出し切れなかったりもして(笑)。


姫乃:(笑)。でも私は「ピスタチーオ」で観た時から、この子はここにとどまる人じゃないな、と感じていたよ。地下って、部活の延長線とかみたいな感じで活動してる子もすごく多いし。


寺嶋:「昼は保育士なんです」とかね。


姫乃:そうそう「銀行員なんです」とか。趣味としてコスプレが好きで、できたらちょっと歌いたいな、みたいな人。由芙ちゃんは、その中で圧倒的に上昇志向があるように見えた。


寺嶋:ずっと、これを仕事にしたいとは思ってたから。


姫乃:それはすごい! 


寺嶋:並行していろんなオーディションも受けて、そのうちの1個が決まってBiSに入ったんだよね。


姫乃:もうだって、由芙ちゃんと私じゃあどう見ても心構えが違うもん。由芙ちゃんが高跳びしているバーを私はくぐってる。しかもリンボーダンスで、みたいな。


寺嶋(笑)。


■「“ファンの皆さん”って呼ぶのは照れちゃう。おこがましい感じもして」(寺嶋)


寺嶋:当時に比べると、最近はヲタ同士のコミュニティーが広がっている感じがする。あと、一見オタクっぽくない人も増えたかも。以前のヲタクは、ファッションも含めて楽しんでいる人が多かったけど。


姫乃:「寺嶋由芙命!」みたいな法被を着てね。


寺嶋:そうそう(笑)。いなくなったよね? 由芙Tシャツを着てはいながらも、そのまま街を歩けそうな格好のお客さんが増えた。あと近年、雑誌のアイドル特集みたいなやつも増えた気がするし、アイドルがより一般化してきたんだなぁって。


姫乃:ああ、わかる。当時にはあった、駆け出しのアイドルが集まってるライブの雰囲気って、いまはもうないよね。それって私の活動形態が変わってきたからそう感じるのか、アイドルシーン全体がそうなっているのか、どうなんだろう。


寺嶋:でも、ライトなヲタクは確実に増えてる。


姫乃:確かに! 


寺嶋:「身も心も」みたいなヲタクが少なくなってきたんだよ。


姫乃:うんうん。そう言えば由芙ちゃんはファンのことのヲタクって結構バシっと呼ぶけど、それって、なにか理由があるの?


寺嶋:ああ、たとえばBiSだと“研究員さん”、PASSPO☆さんだと“パッセンジャー”みたいなグループごとの呼び名があるよね。私、自分のファンは“ゆふぃすと”って……優しく呼びたい時だけ使ってるんだけど(笑)。やっぱりいまの規模で「ゆふぃすとの皆さん」みたいに言っても、何のこっちゃの人が多いかと。


姫乃:へえ、意外だ……。そういう実感があるの?


寺嶋:うん、わからないと思う。それに、“ファンの皆さん”って呼ぶのは照れちゃうんだ。おこがましい感じもして。


姫乃:それ、わかります! 


寺嶋:それでヲタクって呼んでるの。


姫乃:なるほど。私は昔、ヲタクって呼んだら「ヲタクじゃない!」って怒っちゃうファンがいたから、呼べなくなっちゃって。5、6年前は、まだ00年代のヲタクのイメージを引きずっている人が多かったのかなと思うんだけど。


寺嶋:私も当時は呼べなかったよ。


姫乃:あ、やっぱりそうなのね?


寺嶋:いまは逆に「ヲタクの俺カッコイイ」みたいな人がたくさん出てきたから、心境が変わってきて。


姫乃:うんうん。由芙ちゃんって、自分で地下アイドルを名乗っていた時期はあるんだっけ?


寺嶋:うーん、一応、地下アイドルではあったんだけど、姫乃ちゃんみたいに堂々と地下アイドルを標榜するよりは、全然まだ知られていないので……みたいに謙遜して言うための肩書きとして。ヲタクの中には、気を遣って「ライブアイドル」ってキレイめに呼んでくれる人もいるんだけど。


姫乃:ああ(笑)。ヲタクがヲタクって呼ばれて怒るのと一緒で、「私は地下アイドルじゃないから!」って怒る人がいるからね。


寺嶋:いるいる! 


姫乃:もうさ、本当は地下アイドルなんて一言で説明できないから、私が原稿とかで「いやあ、売れていないアイドルで……」とかってお茶を濁して説明してると、猛烈に怒ってくるんですよ。「売れてな……くない!」って(笑)。あと「◯◯アーティスト」みたいにアイドルじゃなくてアーティストだって自称する人もいて、その辺また根が深い。


寺嶋:根が深い(笑)。あの現場って、個人のこだわりが発揮される場所でもあるよね。


■「自分のファンには人として幸せになってほしい」(寺嶋)


姫乃:グッズ制作とか、自分でやりたくならないんですか?


寺嶋:いや、センスがないから。やりたいという気持ちもないから、信頼できる人にお任せ。私がつくるダサいものじゃなく、ちゃんとしたのをヲタクに着せてあげたい(笑)。


姫乃:わかる! じゃあ雑誌に載ったりしたときに、ロゴが気に食わないとか、キャプションが気に食わないとか、そういうのもない?


寺嶋:全然ない。


姫乃:うう、私いちいち気にしちゃう。それならメジャーの方がいいですよね。


寺嶋:いやいや(笑)。文章のニュアンスとかはすごい気になるよ。言ってないことが書かれてることもあるから。でもソロになってからは、チェックさせてもらえるようになって心配なくなったな。


姫乃:なるほど。ち、ちなみに私がインディーズからメジャーになる時に、一番気になるのは、ギャラの取り分が減っちゃうことなんだけど……。


寺嶋:私はあんまりそこ気にしてない! いま自分がいくら貯金してるのかもわからないし(笑)。ダメだよね?


姫乃:ひょあああ、私なんか円単位で把握してるのに! 


寺嶋:(笑)。何かを選ぶとか決断することが苦手なの。だから信頼できるスタッフさんに全部任せたいんだよね。


姫乃:いやもう私はとことん全部計算しますよ。原価から何から、関係者のマージンまで……! 


寺嶋:それはインディーズに向いてると思う!(笑)。


姫乃:でも、これが確かに事務所に入れなくてメジャーになれない大きな理由のひとつだと思うんだよねぇ……。


寺嶋:それだけ色々できるんだったら、全然いいと思う。私はそれが変な心労になってしまうんだよ。あと私は“接触”が大好きなんだけど、そこでのトラブルで悩んじゃうアイドルさんも多いよね。


姫乃:ああ、めちゃくちゃ多い。


寺嶋:ファンが説教厨、みたいなのも。


姫乃:説教厨! 由芙ちゃんの周りにはいる?


寺嶋:いないなぁ。

姫乃:うちにもいない。でも説教厨って遍在してるのに、お互い奇跡的だね。


寺嶋:うん、私もあまりにもファンに恵まれているから、ふと「あのヲタクは元気かなぁ」とか考えちゃうし、自分のファンには人として幸せになってほしいし。


姫乃:でも結婚されると、そこそこ傷つくんだよね。


寺嶋:それそれ! 私のヲタク同士はまだないと思うんだけど。


姫乃:えっ! ヲタク同士とかすんごい傷つく……(笑)。


寺嶋:うち、カップルは何組か誕生してるよ! そうやってみんな私を置いていくのね……なんて寂しくもなるけど(笑)。楽しそうにしてくれるのは嬉しいよね。あと、ひとりで活動してたヲタクが、現場で声をかけてもらって友達の輪に入った瞬間は嬉しい! 


姫乃:わかる! ああ改めて、地下からこんなにクリーンに上がっていく子って由芙ちゃんしかいないよなぁ。


寺嶋:昔もいまも本当に、ステージに出られること自体がとても嬉しいよ。その気持ちを忘れずにやっていきたい。


姫乃:じーん。


寺嶋:当時の人がいまもきてくれていたりするんだ。


姫乃:それ、とても嬉しいよね~。


寺嶋:そう。姫乃ちゃんのことも推している人。


姫乃:私たち、たまに推しがかぶってるんだよね。ほんとうに不思議! 

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(リアルサウンド編集部)