いよいよ来週開催される、FIA世界耐久選手権(WEC)第6戦富士ラウンド。トヨタ、アウディ、ポルシェによるワークスチームの対決に注目が集まるが、出走するドライバーも実にハイレベルである。
トヨタは2台6人のドライバーをエントリーしている。そのラインアップを見渡してみると、F1経験者が多いのが分かる。まず1号車は、アンソニー・デイビッドソン、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴のトリオだ。
デイビッドソンはミナルディでF1デビュー(2002年ハンガリーGP)。以降、BARホンダのリザーブドライバーを務め、2005年のマレーシアGPでは、体調不良で欠場した佐藤琢磨に変わってステアリングを握っている。また、2007年と2008年は佐藤琢磨と共にスーパーアグリのマシンを駆り、07年のカナダGPでは小動物にぶつかってしまいピットインを余儀なくされたものの、それまでは表彰台の可能性すら感じさせるレースを展開していた。
ブエミは2009年~2011年までトロロッソに在籍。55レースを戦い、15戦で入賞を果たす堅実な走りを見せた。また、フォーミュラEの第1シーズンではe.ダムス・ルノーに在籍して3勝を挙げ、シーズン最多勝を記録。ネルソン・ピケJr.と最終戦までタイトルを争い、僅か1ポイント差で涙を呑んだというのも記憶に新しいところだ。
中嶋一貴は言わずと知れた2012年のフォーミュラ・ニッポン、そして昨年のスーパーフォーミュラ王者。今年も欠場した1戦以外は全て2位以内という活躍で、タイトルを争っている。当然彼も2007年から2009年までウイリアムズよりF1に参戦しており、5回の入賞を記録している。
トヨタ2号車のラインアップも粒ぞろいである。アレクサンダー・ブルツは1997年にベネトンでF1デビュー。初完走を果たしたイギリスGP(自身のF1出走3戦目)で3位という離れ業を演じた。その後も、2005年にマクラーレンでサンマリノGPにスポット参戦した際も3位表彰台を確保するなど、スーパーサブ的な活躍が印象的だ。
ステファン・サラザンは様々なカテゴリーのレースに参戦したオールマイティ・ドライバー。F1への参戦は1999年ブラジルGPの1戦のみだが、2002年からはFIA世界ラリー選手権(WRC)に参戦し、2007年からはLMSをプジョーのドライバーとして戦い、2012年のル・マンでWECのトヨタ・レーシングに初参加。翌年以降は同チームのレギュラードライバーに就任している。また、フォーミュラEの第1シーズンにも参戦。サーキット/ラリー、スプリント/耐久、ガソリン車/EVと、車種・カテゴリーに問わず、実に幅広いカテゴリーで活躍を続けている。
マイク・コンウェイはホンダF1のテストドライブを務め、その後は活躍の場をインディカーに。2009~2014年の間に4勝を挙げた。WECは2013年にLMP2を走り、2014年からトヨタ・レーシングに加入して現在に至っている。
このように、トヨタはF1に馴染みの深いドライバーを集めているのに対し、アウディはF1色が薄い。6人のドライバーラインアップ中、アンドレ・ロッテラーが2014年のベルギーGPでケータハムから参戦、ルーカス・ディ・グラッシが2010年にヴァージン・レーシングでフル参戦していた程度で、その他のドライバーはF1参戦経験がない。その代わり、日本のスーパーGTで実績を残しているドライバーが多いのだ。前出のロッテラー(2006年と2009年にGT500クラスチャンピオン)に加え、ブノワ・トレルイエ(2008年GT500クラスでチャンピオン)、ロイック・デュバル(2010年にGT500クラスチャンピオン)と3人のスーパーGTチャンピオンを擁していて、オリバー・ジャービスも昨年はスーパーGTにフル参戦している。
GT経験のないドライバーも、マルセル・ファスラーは2010年からアウディに加入し実績を残してきた上、前出のディ・グラッシもGP2で年間ランキング2位-3位-3位となってF1昇格を果たし、フォーミュラEの初代勝者ともなった人物である。華のあるF1の世界とは縁遠くとも、いずれも腕に覚えのある、実に強力の布陣だと言えよう。
昨年からWECに参戦するポルシェは、F1経験組とポルシェに縁のある組み合わせ。17号車をドライブするマーク・ウェーバーは、12年にわたってF1に参戦し、レッドブルを駆って合計9勝を挙げたドライバー。2010年は最終戦までタイトルを争っており、その才能に疑う余地はない。ブレンダン・ハートレーはレッドブルの育成ドライバーで、レッドブルやトロロッソのリザーブを務め、メルセデスAMGのテストドライブ経験もある。ニール・ジャニもトロロッソやザウバーをテストドライブしている。ティモ・ベルンハルト、ロマン・デュマ、マルク・リーブの3人は、ポルシェのGTカーで実績を積んできたドライバーであり、それぞれ速さと経験を兼ね備えている。
ここまで挙げてきたのは、ワークスチームのドライバーだが、それ以外のチームにも、多くの実力ドライバーがひしめいている。51号車AFコルセをドライブするジャンマリア・ブルーニは、2004年にミナルディからF1フル参戦。98号車アストンマーチン・レーシングのペドロ・ラミーは、1993~1996年にロータスとミナルディから合計32戦走っており、1ポイント(当時の入賞は6位まで)を獲得している。その他にも、12号車レベリオン・レーシングのニコラス・プロスト、26号車G-ドライブ・レーシングのサム・バードは、フォーミュラEの第1シーズンで勝利を収めているドライバーであるし、92号車ポルシェ・チーム・マンタイのフレデリック・マコウィッキは2013年と2014年にスーパーGTに参戦して、HSV-010とNSX CONCEPT-GTで各1勝、88号車アブダビ-プロトン・レーシングのアール・バンバーは、今年のル・マン24時間レース総合勝者のひとりだ。
このように、WEC富士に参戦するのは、高い実績を備えたドライバーたち。WECは自動車メーカー同士が争う“世界スポーツカー選手権”をルーツとする選手権シリーズだが、これら世界最高レベルのドライバーたちの“腕”に注目してみるのも、ひとつの楽しみ方であろう。