2015年10月02日 11:01 弁護士ドットコム
「伝統的な家族の絆」を守るための政策を検討している自民党の特命委員会が9月上旬、来年度の税制改正に向けて提言をまとめた。NHKの報道によれば、遺産相続をめぐるトラブルを避けるため、遺言の作成を促す必要を指摘。遺言がある相続については、相続税の控除額を上乗せする「遺言控除」を設けることを求めているという。
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遺言を残す人を増やすことで、遺産相続をめぐる紛争を減らし、若い世代へのスムーズな資産移転を図る目的だというが、相続問題に詳しい弁護士はこの制度案をどうみるのだろうか。山岸陽平弁護士に聞いた。
「日本では、相続対策を十分に取らないままに亡くなってしまう人が多く、それが原因で、遺族間のもめごとに発展することが珍しくありません。
しかし、だからといって、遺言さえあれば、遺産相続をめぐってもめごとが起きないかといえば、答えは『No』です」
なぜだろうか。
「遺言が作られる時期や状況によっては、遺言の有効性をめぐる問題が生じます。過去には、自筆証書遺言だけではなく、公正証書遺言でも、無効となった事例があります。
たとえば、認知症が進行してから遺言を作らせるようなことがあっては、その有効性をめぐって、逆にもめごとが増えてしまいます。
また、他の兄弟が知らない間に、親が特定の子どもに有利な遺言を書くようなことがあれば、親の死後、兄弟関係に亀裂が走りやすいことも確かです。
遺言はこうした問題を引き起こすことがあり、遺言を作っておくだけでトラブルを避けられるわけではないのです」
どのような遺言でのトラブルが増えそうなのか?
「地域性にもよるでしょうが、長男が、ほかの兄弟より多く相続できる権利があると信じ、親の生存中に、自分が有利になるような相続対策をとったような場合にトラブルが発生しやすいと思われます。
現在の民法は、長男を含め、兄弟姉妹を平等に取り扱っています。しかし、伝統的な価値観の強い地域では、長男が家を継ぐという考え方が残っており、遺言を使ってその考え方を前提とした相続対策をとると、長男以外の相続分が減ってしまうからです」
山岸弁護士は、遺言控除制度をどのように評価するのだろうか。
「遺言控除の制度が導入されて遺言を作る人が増えても、遺産相続をめぐるトラブルがむしろ増加してしまうおそれもあると思います。税金を減らしたのと引き換えに、相続人の間にしこりを残したのでは、相続対策は成功だといえません。
遺言を作る人は、弁護士や税理士からアドバイスをもらって、相続人の間で禍根を残さない案を考えたほうがよいでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山岸 陽平(やまぎし・ようへい)弁護士
金沢弁護士会所属。富山県出身。京都大学法学部・同法科大学院を経て弁護士登録。相続、離婚、不動産関連問題、交通事故事件などへの取り組み多数。近時は高齢者をとりまく問題に関心が強い。政治過程、選挙制度への造詣も深い。
個人サイトURL:http://yybengo.com/
事務所名:弁護士法人あさひ法律事務所