1908年に横浜駅の売店として創業した崎陽軒(きようけん)。87年前に「シウマイ」(シュウマイではない)を売り出して以来、横浜の名物として君臨してきた。
ところがシウマイ弁当は日本で最も売れる駅弁にもかかわらず、全国展開せず神奈川周辺でだけ売る戦略をとっている。9月10日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、地元横浜っ子に愛される道で勝ち上がる崎陽軒の強さの秘密に迫った。
ヒモがなければ認めない横浜市民
地元横浜の人びとにとって崎陽軒のシウマイは、日常の食卓のおかずとして馴染み深いばかりでなく、冷めてもおいしいと大人気のシウマイ弁当(800円・税込)は、自治会の会合やピクニックにまで登場する。
蒸気で蒸し上げたもちもちのご飯にシウマイ、鶏唐揚げ、卵焼き、かまぼこやマグロの照り焼き、筍煮など、ご飯に合うおかずが並ぶ。横浜市民に食べる順番を聞いてみると「必ずシュウマイから」「かまぼこから」など、自分のこだわりを嬉々として語る。
おいしさの秘密は、オホーツク海で育てられた獲れたての天然ホタテ。うま味がたっぷり蓄えられた肉厚の貝柱を4日間かけてじっくり乾燥させる。干し貝柱に加工することでうま味を凝縮しているのが特徴だ。貝柱をたっぷり練り込むことで、冷めた時の豚肉の臭みを抑えている。
容器の材料はプラスチックが主流だが、水分を調整してくれる木製にこだわり続けている。木が「おひつ」の役割を果たし、冷めてもおいしくご飯が食べられるのだ。弁当を十字に縛るヒモも重要なアイテム。横浜市民はヒモがないシウマイ弁当を、
「にせもの」「着物を着て帯をしない人みたい」
などと呼び、絶対に認めない。
「真に優れたローカルブランド」にこだわる
1日1万個を超える弁当に手作業でひもをかけるため、材料を含めたコストは億単位。しかし創業者の孫で3代目社長、野並直文氏はこれを「変えてはダメなもの」だと語る。
効率主義に走らない判断の基準を村上龍に訊かれると、「お客がどこに価値を持っているか」が基準だと答えた。
「変えてはならないものほど変えやすい。変えるべきものほど変えにくい。逆をやりやすいから、きちんと考えなくてはならない」
創業当時は、横浜駅でどんな商品を出しても全く売れなかった。東京駅で駅弁を買った人は車内でまだ食べているし、大阪から来る人はもうすぐ東京に着くのに今さら買わないというわけだ。
そこで創業者の野並茂吉氏は、南京街で売られていたシューマイを独自に開発。容姿端麗な「シウマイ娘」がホームで弁当を手売りして話題を呼び、横浜名物としての地位を築いた。以来、「ナショナルブランドは目指さない。真に優れたローカルブランドをめざす」をモットーに、地元に親しまれ愛されるための努力を惜しまない。
地元愛の強い地域だからこそ、根付けば強い
横浜市内の「崎陽軒・本店」では、レストランでシウマイ食べ放題のサービスがある。結婚式場もあり、ウエディングケーキならぬ「ウエディング・シウマイ」が招待客を喜ばせる。
炊飯器ほどもある巨大シウマイがケーキカットの要領で切られると、中には「子シュウマイ」がごろごろ。サプライズ感が楽しく「子宝に恵まれる」縁起も担いで大評判だ。横浜ならではのおいしくて楽しそうな結婚式、ぜひ呼ばれてみたいものだ。
横浜のシューマイは「大阪のたこ焼き」のようなソウルフードになっていた。一企業が地域の食文化まで変えてしまったとは驚きだ。「神奈川の人に出身を訊くと、横浜と答える」という歌が昔あった。地元愛の強い地域だからこそ、根付けば強いという特徴もあるように感じた。(ライター:okei)
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