開催まであと2週間となった、2015年FIA世界耐久選手権(WEC)第6戦富士ラウンド。先日はアメリカのサーキット・オブ・ジ・アメリカズで第5戦が行われ、ポルシェ・チームが優勝、そしてアウディ・チーム・ヨーストが2-3位に入った。この2チーム/メーカーは、富士ラウンドでホームレースを迎えるトヨタにとって、高い壁となって立ちはだかるだろう。
アウディは、近年の耐久レース界を牽引してきた存在。1999年にアウディR8を開発してル・マン24時間レースへの参戦を開始すると、翌2000年には初優勝を挙げ、そこから3連覇。2003年こそベントレーに勝利を譲ったものの、2005年からは今度は5連覇を達成。2009年にプジョーの前に敗戦を喫した後は、再び2014年まで5連覇を果たしている。つまり1999年からのル・マンでの勝率は76%を超える、圧倒的な成績を残しているのだ。彼らはル・マンのみならず、2012年に復活したWECでも初年度、そして2年目のシーズンを制圧し、まさに耐久レースの雄の名を欲しいままにしている。
アウディは20世紀初頭、ドイツに誕生した4つの自動車メーカーに端を発する。そのメーカーとは、アウディ、DKW、ホルヒ、ヴァンダラーの4社で、ドイツへの進出が著しいアメリカの自動車メーカーに対抗するため、自動車連合という意味の“アウトウニオン”という名が付けられた。アウトウニオンはその黎明期からモータースポーツに参加し、1934年には今のF1の前身とも言える“グランプリレース”に出走。ドイツグランプリで国際的なレースの初優勝を達成している。
しかし、アウトウニオンがF1に参戦することはなかった。第2次世界大戦の影響を受け、会社はほぼ壊滅状態。戦後になって徐々に回復傾向を見せるが、時間はかかった。途中、ダイムラー・ベンツやフォルクスワーゲンの傘下に収まり、この際にフォルクスワーゲン・ビートルを生産するなどしている。
1960年代になるとアウトウニオン社のブランドにひとつとして、アウディの名が復活し、この名称を用いて80年代にWRC(世界ラリー選手権)への参戦を果たし、成功を収める。このWRCカーに用いられていたのが、4WDシステムの“クアトロ”で、現在もその流れを汲むシステムが、アウディの市販車、そしてレーシングカーに用いられている。
1985年にはアウトウニオン社はアウディ社へと名称を変更し、現在に至っている。このとき、アウトウニオンのエンブレムを引き継いだ。四つの輪が連なったあの有名なエンブレムは、実はアウディのモノではなく、アウトウニオンのモノなのだ。現在もフォルクスワーゲングループの傘下だが、レース界での活躍や市販車部門での成功によって、独特の存在感を放っている。特に前述のル・マンでの成功は目覚ましい。
そのアウディのWEC/耐久レースのチームには、多くの日本で経験を積んだドライバーが抜擢されている。近年では、アンドレ・ロッテラー、ブノワ・トレルイエ、ロイック・デュバルなどがその良い例だろう。
さて、もうひとつのドイツ系チーム/メーカー、ポルシェにも触れておかなければならない。ポルシェは、言わずと知れたドイツの高級スポーツカーメーカー。同社は1930年代にフォルクスワーゲンなどの自動車デザインを手がけていたフェルディナンド・ポルシェが立ち上げた会社に端を発するもので、古くからモータースポーツ活動に積極的だった。その最たる例が、ル・マン24時間レースでの成功だ。
1970年にポルシェ917Kで初めてル・マンを制すると、これまでに17勝を収めている。中でも、1981年~1987年までには、アウディを凌ぐ7連覇を達成。そして2014年に新生WECに参戦を開始。なんと2年目今年、ル・マン24時間レースを制している。2012年から参戦を続けているトヨタをもってしても、なかなか成し得ないル・マン制覇。“勝ち方”を知っていなければ勝てないレース、そんな印象を植え付けるシーンだ。
ポルシェのモータースポーツ界での活躍は、耐久レースだけではない。F1にも、その足跡を残した。
1957年のドイツGPに、ポルシェは3台のマシンを投入している。これが、同社のF1デビュー戦。成績は24台中12位だった。1960年のイタリアGPで初ポイントを記録すると、翌1961年のフランスGPでダン・ガーニーが2位に入り初表彰台。翌年のフランスGPでは、同じくガーニーのドライブで初優勝を果たしている。ポルシェのF1での勝利はこの1勝のみだが、エンジンサプライヤーとしてはさらなる成功を収めている。1983年から“TAG”のネームでマクラーレンにエンジンを供給すると、1984年と1985年はコンストラクターとドライバー(1984年はニキ・ラウダ、1985年はアラン・プロストがチャンピオンに輝いた)のダブルタイトルを獲得、86年もプロストがドライバーズチャンピオンに輝くなど、まさにひと時代を築いた。
現在はWECの他に、ニュルブルクリンク24時間やスーパーGTなどのGTカーレースにGT3マシンを供給、さらにはポルシェ・カレラカップを世界中で開催し、人気を博している。そしてWECでは、前述の通り参戦2年目ながら圧倒的な速さを見せ、現在ル・マン24時間、ニュルブルクリンク、オースティンと3連勝中。マニュファクチャラー選手権ではアウディに36点差をつけ、トップに立っている。おそらく、富士ラウンドでもポルシェは本命候補であるはずで、その戦いぶりが注目される。
最後に、今回ご紹介したアウディとポルシェは、実に共通点が多い。両者共にドイツ発祥のメーカーであることはもちろん、両者ともフォルクスワーゲン傘下のメーカーである。同じグループ内のメーカーが揃って同一のシリーズに参戦するというのも不思議な話に聞こえるかもしれないが、それがフォルクスワーゲングループの考え方なのである。また、ポルシェの創始者フェルディナンド・ポルシェは、アウトウニオンの1930年代のレーシングカーをデザインした人物であり、その孫はフォルクスワーゲングループの会長を務めた人物である。また、現在アウディのワークスチームを運営するヨースト・レーシングは、アウディのマシンを使用する以前はポルシェのマシンを使い、ル・マン24時間を戦って勝利を収めていたという共通点もある。