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予想外の大ヒット!? 桐谷美玲主演『ヒロイン失格』の勝因を考察

2015年09月30日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2015 映画「ヒロイン失格」製作委員会(C)幸田もも子/集英社

 シルバーウィーク明け直後の先週末は目ぼしい大作の公開がなく、先週のトップ10と作品のラインナップはすべて同じ。しかも、3位以下は順位までまったく同じという完全な無風状態だった。


 先週の当コラム(参考:シルバーウィークに追い風吹かず 『進撃の巨人』後篇、鈍いスタート)でも指摘したように、公開2日目以降は動員で『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』をリードしていた『ヒロイン失格』が、土日2日間で動員19万6496人、興収2億3382万5500円を記録して順当に1位を奪取。注目すべきなのは前週動員比88%という数字。なんと初週から数字をほぼキープし続けているのだ。前週動員比47%と半分以下にガクンと落ちてしまった『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』とは対照的だ。


 ここにきてロングヒットの気配も見せている『ヒロイン失格』。毎週このような興行に関するコラムを書いている責務上、トップ10すべての作品は現実的に難しいものの1位になりそうな作品はどんな作品であれ必ず観るようしているのだが、正直言うと、『ヒロイン失格』がここまでのヒットとなるとはまったく予想してなかった。なので、慌てて上映2週目に渋谷の劇場に観に行きましたよ。さすが大ヒットの真っ最中、平日の昼の回にもかかわらず客席は半分近く埋まっていた。しかも、ほぼ全員が女子高生。


 印象的だったのは、上映中、そんな女子高生だらけの客席から終始笑い声が絶えなかったこと。ありがちな少女マンガ原作のラブコメ映画と思いきや、実際に観てみるとこの作品、随所にCGなども駆使してかなりぶっ飛んだ作りになっているのだ。そのユーモアのセンスは確かにティーン向けで大人の(しかも男の)鑑賞に耐えるものかどうかは微妙なところなのだが、少なくともスベってはいない。で、この「スベってはいない」というのはこの種の日本映画にとっては非常に稀なこと。これは、アニメ『TIGER & BUNNY』などの作品も手がけているまだ20代の脚本家、吉田恵里香のテンポのいい脚本の功績が大きいのではないか。


 また、本作がコメディとして成功している理由は、一にも二にも桐谷美玲のコメディエンヌとしての意外なまでのポテンシャルの高さにある。桐谷美玲といえば「世界で最も美しい顔100人」の上位に毎年入っていることでも知られている。まぁ、そのランキング自体の信憑性は別にしても、とにかく顔が綺麗で、健康的なのに身体が異常なまでに細い。今作を観ていて改めて思うのは、「まるで少女マンガからそのまま出てきたような容姿だな」ということ。また、コミカルなシーンで変な表情もたくさん見せているのだが、どんな変顔をしてもあまりにも美人すぎて顔がまったく崩れない。劇場の大きなスクリーンで見るのが前提の映画において、そこは実は重要なポイント。他の女優ではなかなかここまで変な顔は恥ずかしくてスクリーンに晒せないだろうし、もし晒したとしても今度は観客が引いてしまうだろう。


 と、ここまでは今作が作品として成功している理由だ。しかし、作品として成功しているだけではヒットするとは限らない(特に日本映画ではそういうケースの方が少ない)。客席でのリアクションや、ロビーに飾られた出演者の等身大パネルの前で記念撮影をしている女子高生たちの姿を見ていると(「キモい」とか言わないでくださいね……)、主役の相手役を演じている2人の俳優、山崎賢人と坂口健太郎のキャスティングが見事に的中したのだということがよくわかった。


 男目線や大人目線からは、ついついこの手の少女マンガ原作映画だと主演女優にばかり気を取られてしまうが、往々にしてヒットの鍵を握っているのは相手役の男優の方だったりする。例えば昨年、能年玲奈(華麗なる復活劇をいつまでも待ってます!)は『ホットロード』と『海月姫』の2本のマンガ原作映画に主演したが、『ホットロード』は大ヒットを記録したのに、『海月姫』は大コケしてしまった。まぁ、作品自体も明らかに『ホットロード』の方がよくできてはいたが、そこまで大きな差がついた一つの要因は、実は『ホットロード』の観客のかなりの割合を相手役の登坂広臣(三代目J Soul Brothers)のファンが占めていたからだという分析もある。


 そもそも、女性マンガ原作映画の観客の9割は女の子。普通に考えてみれば、対マスコミ的に作品のイメージを担っているのは主演女優でも、興行の内実を担っているのは相手役の男優というのは当たり前のことかもしれない。もっとも、主演女優が「同性から好感を持たれていること」というのがヒットの大前提。そういう意味で、今作における桐谷美玲の腹を括ったコメディエンヌぶりは、同性から見ても100点満点だろう。(宇野維正)