2015年09月29日 13:11 弁護士ドットコム
アイドルグループに所属していた17歳の少女が、異性との交際を禁じる規約を破り、グループを解散しなければならなくなったとして、マネジメント会社が損害賠償を請求していた裁判で、東京地裁は9月中旬、少女に65万円の支払いを命じた。児島章朋裁判官は「女性アイドルである以上、男性ファンの支持獲得に交際禁止は必要だった」としている。
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報道によると、少女は2013年に会社と契約を結んだ際に、「異性との交際禁止」「男友達と2人で遊んだり、写真を撮ったりすることは禁止」といった規約を告げられていた。その後、6人グループの1人としてデビューしたが、ファンに誘われ2人でホテルへ行ったことが発覚し、グループは解散することになった。
アイドルの交際禁止といえば、AKB48のルールが有名だ。今回の判決について、AKBの姉妹グループ、HKT48の指原莉乃さんはテレビ番組で「ここまで大きなことにするから、芸能界がブラックなイメージになる」と指摘。「恋愛禁止ってやめません? ラフな口約束とかでいい」と発言し、注目を集めた。
今回の判決を、弁護士はどう見ているのだろうか。交際禁止ルールは「公序良俗」に違反するとして、無効ではないのか。神尾尊礼弁護士に聞いた。
「細かい契約の条項や具体的な違反行為の内容が分からないので、ある程度の一般論として回答します。
『特殊な事情がある場合に限って』という限定付きですが、私は、今回の判決は妥当であると考えます。
特別な事情とは、たとえば、アイドルとそのマネジメント会社という特殊な関係で、かつ『交際』の態様等が不適切な場合です。そうした場合に限って、本件規約は有効になると考えます」
神尾弁護士はこのように述べる。
「本件規約を法的に考察する上では、この規約が公序良俗違反(民法90条)になるかどうかが問題になります。
たとえ、当人同士が合意した契約であっても、公序良俗に違反したと判断されれば、その契約は無効になります。
公序良俗に反する契約とは、たとえば、著しく倫理に反する行為や、自由を極度に制限する行為などがあげられます。妾契約や、借金返済のために芸妓等として働かせる、いわゆる芸娼妓契約などがこれにあたります。
公序良俗違反かどうかは、社会的に妥当か、必要性があるかなど、様々な事情を考慮します」
交際禁止の規約は、公序良俗に反しないのだろうか。
「交際禁止は、個人の根幹的な自由である『恋愛の自由』を制限するものですから、原則として公序良俗違反に当たると思われます。
たとえば、一般の会社が従業員に恋愛禁止を課したら、それは無効になるでしょう。
ただし、今回のような『アイドルとマネジメント会社』という関係であれば、恋愛禁止とする必要性があるでしょうから、有効になる余地が出てきます」
いくらアイドルでも、交際禁止の規約について「やりすぎだ」という声も上がっているが・・・。
「そうですね、一切合切の『交際』を禁止することは、『恋愛の自由』の過度な制限と思われます。そこで、『交際』の中で特にマネジメントに影響が出るものに限り、有効になると考えます。
たとえば、男友達と2人で食事をするだけでは、この規約を適用できないといえます。他方、今回のように未成年のメンバーが、ファンとホテルに行くことは禁止できると考えます。
つまり、規約は一部無効で、『交際』の態様等が不適切な場合を禁止する部分に限って有効になると考えます」
神尾弁護士は「一般的には、恋愛禁止は強い制限ですし、個人と会社では力関係も不均衡といえます。業界内でもガイドラインを作るなどして、本当に必要な契約とはどういうものか、検討していくことも重要だろうと考えます」と述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com