黒毛和牛のフォアグラのせなど、高級店なら1万円はするイタリアンやフレンチが格安で食べられることで人気の店「俺のイタリアン」。2011年に創業し、立ち食いスタイルで回転率を良くすることで売り上げを伸ばしてきた。
9月22日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、得意の立ち食いで中国進出に挑んだ運営会社の「俺の株式会社」に密着、文化の違いから「ORENO 俺のフレンチ+イタリアン」が苦戦を強いられる姿を追った。
街の声は「どんな安い店でも立ち食いはイヤ」
客の回転率と利益の関係を示す同社の内部資料を見ると、「回転率が2回だと約16万円の赤字、2.5回だと61万円の黒字」という損益分岐点がはっきり示されていた。銀座本店は立ち食いではないが、時間制を設けて1日に3.5回は回転させている。
昨年5月、中国の大手飲食店グループ「小南国」からフランチャイズのオファーを受け、上海の一等地「新天地」に出店することが決まった。中国進出の責任者は、フランスの三ツ星レストランで修業を積んだシェフ、遠藤雄二さん(43歳)だ。
遠藤さんが小南国の中国本社で会議に臨むと、フランチャイズ事業の担当者から思いもよらぬ要望が飛び出した。
「立ち席をやめて、すべて座り席にしたい」
中国では立ち食いの店は存在せず、屋台でも椅子が用意されている。街の人たちは「どんな安い店でも立ち食いはイヤだね」と主張していた。中国では大勢で円卓を囲み、ゆったりと食事をするのが当たり前なのだ。
結局170席中、立ち席を5客にして開店した。同じ規模のレストランに比べてかなり多い座席数だ。遠藤さんは「立ち席で立って食べることがステータスと思ってもらえたら最高」と立ち席にこだわりを見せた。
工事の遅れで訓練が間に合わず、初日はパニック状態
しかし、開店初日はミス連続のパニック状態。店の工事が遅れて従業員の訓練が間に合わず、座席数の多さに対応しきれなかったのだ。2時間待たされていると激怒する客や、パソコンを開いてくつろぎだす客もいて、回転数どころではなかった。
どんなに混んでいても立ち席を利用する客は現れず、倉庫から椅子を出してきて結局立ち席はなくなった。中国文化の壁はやはり大きかったのだ。
3か月後、巻き返しの一手として1時間45分の時間制限を設けることになった。中国では時間制のある店はない。従業員30人を集めての臨時会議では数人のスタッフが異議を唱えたが、遠藤さんは厳しい表情でこう説得した。
「食材や飲料の原価を下げずに皆さんの給料をアップさせるためには、よりたくさんのお客様を迎え入れないといけない」
混乱も心配された導入当日は、きちんと説明すればほとんどの客が納得してくれた。滞在時間が一目で分かるシステムもあり、スムーズに客に会計を促す。日本の銀座のような地域で、洗練された雰囲気の客が多いせいもあったかもしれない。
ビジネスモデルの追求は果てしない
その日の売上は、7万1602元(135万円)で目標を20万円上回り、採算ラインの3回転をクリアした。スタッフと喜びながら、遠藤さんは中国でやっていく自信がついたようだ。
結局、「いかに回転率をあげるか」という戦いに尽きる印象だった。美味しいものを作ればお客さんが来てくれる時代は終わり、利益のあがるビジネスモデルの追求は果てしない。
一流シェフでもある遠藤さんが、中国人スタッフに「原価」という言葉を使って説得していた様子から、日本でも大変な飲食業が文化の違う海外出店に乗り出す厳しさが伝わってきた。(ライター:okei)
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