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X JAPAN、BABYMETALの海外進出を準備した? 先駆者LOUDNESSの音楽的功績を振り返る

2015年09月28日 18:21  リアルサウンド

リアルサウンド

LOUDNESS『THUNDER IN THE EAST (リマスタリング) (初回盤)』

 80年代にヘヴィメタルと呼ばれていた音楽がいくつものサブジャンルを産み落とし、そこからいくつもの変遷を経て、2000年代にヘヴィメタルとは似て非なるラウドロックというジャンルへと進化した。聞くところによると、このラウドロックという呼称は日本特有のサブジャンルだという。実際、どんな音がラウドロックと呼ばれるものなのかを想定してみると、実はその幅が意外と広いことに気付かされる。そりゃヘヴィメタルだってパワーメタルからスラッシュメタル、デスメタルやブラックメタルまで含まれるわけだから、一概に「こんな音がヘヴィメタルです」と説明するのは難しい。でもリスナーによっては「これはヘヴィメタル」「これはラウドロック」と聴き分けできるはずだ。


 今回から始まったこの連載では日本のヘヴィメタル黎明期……ここでは1980年以降とさせてもらう……から“ジャパメタ”と呼ばれるバンドたちの活躍、そして90年代の冬の時代~取って替わるように誕生したヴィジュアル系、2000年代以降のラウドロックまで、この30数年にわたる決して長くはない歴史を振り返りながら、特徴的なアーティストたちを紹介していきたい。


 さて、初回にどうしても紹介しておきたいバンドがいる。それが今回の主役、LOUDNESSだ。


 アラフォー以上の方々には今更説明は不要だろうが、彼らがいなければその後のジャパニーズヘヴィメタルシーン、もっと言えばV系もラウドロックも存在しなかったのではないか……そこまで断言させてほしい。アラフォー以下の人たちからしたら、もしかしたら(現在も精力的に活動しているにも関わらず)過去の遺物と認識しているのかもしれない。でもね、僕ら世代にとってLOUDNESSは君たちにおけるLUNA SEAやラルクであり、ワンオクやSiMなんですよ。


 80年代半ば、ちょっとギターのうまい奴らはみな、高崎晃のギタープレイを完コピしようとした。「CRAZY DOCTOR」のギターソロや「S.D.I.」のタッピングが弾けたらちょっと周りに自慢できるくらいの、そんな存在だったのだ、僕たち世代にとってのLOUDNESSは。


 LOUDNESSがデビューしたのは1981年。イギリスではNWOBHMが勃発して数年経ち、アメリカではL.A.メタル界隈がブレイクを果たそうとしていた時期だ。日本ではこれに呼応するかのように、LOUDNESSをはじめとするいくつかのバンドが結成され、日本独自のムーブメントを確立させようとしていた。これがのちに“ジャパメタ”と呼ばれるジャパニーズヘヴィメタルシーンへと成長していき、数々のフォロワーを生み出していくことになる。


 その先陣を切ってメジャーデビューを果たしたLOUDNESSは、もともとメンバーの2分の1(高崎晃と、今は亡き樋口宗孝)がアイドルバンド・レイジーとして活躍していたこともあり、そのデビューは鳴り物入りだったと聞く。「聞く」というのは、その当時自分はまだ小学生低学年だったため、彼らの音はおろか名前すら知らなかったからだ。その後の彼らの快進撃は、オフィシャルサイトのプロフィールやWikipediaを追えば一目瞭然。やはり今から30年前にアルバムを全米チャートTOP100入りさせ、オープニングアクトとはいえマジソン・スクエア・ガーデンのステージでライブを行ったという事実は、今でこそX JAPANやL'Arc-en-Cielが同会場でワンマンライブを行ったりもしているが、「洋楽>邦楽」が当たり前のように思われていた80年代半ばにこの快挙を達成させたことは、やはりものすごい偉業だったと断言できる。事実、全米チャートにしてもLOUDNESS以降はDIR EN GREYが躍進するまで20年以上も間が空くし、ラルクがMSGで単独公演を敢行したのも2012年の話だ。そう考えれば、改めてその凄みをご理解いただけるだろう。


 日本人好みの泣きのメロディを含む初期路線から、全米進出を機にカラッとしたアメリカンメタル路線へとシフトチェンジ。その第一歩となったのが、1985年に発表された代表作『THUNDER IN THE EAST』だ。マックス・ノーマンがプロデュースした本作は今聴くと多少の古臭さはあるものの、「日本人だから」「ジャパメタだから」といった枕詞がまったく必要ない、当時のHR/HM名作群に引けを取らない魅力を今でも放ち続けている。その後、ボーカルの二井原実が脱退し、後にイングヴェイ・マルムスティーンと活動を共にしたりアニメタルUSAとして逆輸入されることになるマイウ・ヴェセーラが加入。そこで発表された1989年のアルバム『SOLDIER OF FORTUNE』も、(アメリカではヒットに結びつかなかったものの)メロディアスUSメタルの最高峰と呼んでも差し支えのない仕上がりの1枚だ。


 最初の10年間は順調に活躍していたLOUDNESSだが、90年代に入るとその活動に陰りが見え始める。マイクの脱退(解雇)、そして山下昌良(B)の脱退。これに代わるかのように元E.Z.OのMASAKI(Vo)、当時Xを脱退したばかりのTAIJI(B)の加入。この「もはや原型をとどめていない」LOUDNESSが放った唯一の作品『LOUDNESS』は、『ブラックアルバム』以降のメタリカやパンテラ以降のモダンヘヴィネス系バンドからもろに影響を受けた異色作となっている。そしてこのアルバムが(TAIJIの加入も手伝ってか)現在までにもっとも高い売り上げを記録しているのも興味深い。以後、彼らのサウンドは初期の正統派メタル色が払拭された、ヘヴィロック路線を突き詰められていく。と同時に、TAIJIやオリジナルメンバー樋口の脱退、元E.Z.O.の本間大嗣(Dr)、ANTHEMを解散させた柴田直人(B)が加入するも、以前のような輝きを取り戻せないままミレニアムを迎える。


 ここまでの20年を振り返ると、LOUDNESS(というよりも中心人物の高崎)がいかに自分の欲求に忠実に音楽活動を続けていたかがわかるはずだ。イギリスやアメリアでのヘヴィメタルブームの勃発と同時に誕生したLOUDNESS、アメリカでの成功を夢見てサウンドを(だけでなくボーカリストまでアメリカ人に)シフトチェンジし、時代の移り変わりと共に「メタルの質」が変われば自身の音もそれに合わせる。ある意味では後追いかのかもしれないが、実はものすごく時代を読む力があるのではないか。今ならそう思えてくる(当時はまったくそんなこと思えずに、「初期の音に戻せ!」と憤っていたが)。


 そして2000年に入り、二井原、高崎、山下、樋口のオリジナルメンバーが復活。サウンドもモダンヘヴィネス路線を踏襲しながらも、初期のメロウな色合いが徐々に復活していく。2008年11月の樋口の逝去という悲劇はあったものの、LOUDNESSは現在も海外展開を含めた精力的な活動を続けている。


 彼らがいなかったら、のちにX(X JAPAN)も誕生しなかったし(アマチュア時代の彼らはLOUDNESSのカバーも披露していた)、X JAPANが生まれなければその後のヴィジュアル系も誕生しなかっただろう。もっと言えば、BABYMETALの海外進出およびそれに伴う成功もここまで大きなものにはならなかったのではないか……『THUNDER IN THE EAST』リリースから30年後の2015年、『レディング・リーズ・フェスティバル』のメインステージに立った彼女たちの映像を観ながら、そんなことを考えたものだ。


 奇しくも11月には『THUNDER IN THE EAST』30周年記念エディションのリリースを控えているだけでなく、10月開催の『LOUD PARK 15』では「SOLDIER OF FORTUNE feat. Mike Vescera」名義でマイク・ヴェセーラ、高崎、山下という布陣のライブが24年ぶりに実現する。さらに、昨年日本で発売された最新アルバム『THE SUN WILL RISE AGAIN』も海外リリースに向けて、新たにリミックス&曲順変更したエディション『THE SUN WILL RISE AGAIN - US MIX-』として再発売。往年のファンはもちろんのこと、まだLOUDNESSの真の魅力に気付いていない若い世代もこれをきっかけに、ぜひレジェンドの底力を体感してほしい。なぜ彼らが歴史を動かすことができたのか、その音から理解してもらえるはずだから。(西廣智一)