日本GP決勝レースの27周目、マクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソの無線の声が国際映像に流れた。
「GP2! GP2! ウワオ!」
この言葉が、今回の鈴鹿のホンダを象徴していた。
GP2のような下位カテゴリーのエンジンだ、というアロンソの叫び声だ。結果的にアロンソは11位で入賞まであと一歩というリザルトながら、マクラーレン・ホンダにはこの結果を笑顔で受け入れる者は皆無だった。アロンソの無線を聞いたホンダF1総責任者の新井康久氏が答える。
「激励だと思っています。(アロンソは)そういう風に感じたのだと思います。抜かれるシーンで、自分でそれを受け入れられるほどプロフェッショナルなドライバーはやさしいとは思えないですし、当然だと思います」
アロンソは9番手を走行中の5周目の1コーナーでカルロス・サインツJr、6周目にマーカス・エリクソンと立て続けに2台に抜かれてしまい、11番手に後退。さらに、26周目にはマックス・フェルスタッペンに再び1コーナーで差されてしまう。サインツJrもフェルスタッペンも、メルセデス・パワーユニット(PU)、フェラーリPUよりも非力と言われるルノーPU勢だ。そのルノー勢に為す術なく抜かれたのだから、アロンソの落胆ぶりとフラストレーションの大きさは容易に想像がつく。
さらにはジェンソン・バトンはストレートでインからサインツJr.アウトからフェリペ・ナッセの2台に両側から一気に抜かれるという、マクラーレン・ホンダとしては屈辱的なオーバーテイクも味わわされた。
パワーサーキットのひとつである鈴鹿はもともとホンダのPU、ホンダRA615Hにとって厳しいコースであることは予想されていた。レースではシケイン、最終コーナーを立ち上がってからのストレートで伸びが足りず、後方のマシンがDRSゾーン(約1秒差)に入ったところでルノー勢にも楽々と1コーナーで差されてしまう。その原因を端的に言えば、エネルギー不足だった。
「デプロイメント(回生エネルギーの配分)の問題は相変わらず抱えていまして、エネルギーの収支が最後に合わなくなる。特にレースペースだと、電気を全部使ってしまうわけにもいかなくて、1周で(回生エネルギーが)戻ってこないと次の周に電気がまったくなくなってしまってレースにならない。今、できることはすべてやりきったと思うので、この位置が今、我々がいる位置なんだと思いますし、(上位との)ギャップも改めて分かりました。低速から高速コーナーまで全部ある、この鈴鹿が一番難しいところだと思っていましたし、それはシャシーにとっても同じ。ここで勝てるのがチャンピオンになれるチームだと思いますし、早くそこに行けるように開発ペースを上げたいと思います」
新井氏は、謙虚に今回の結果を受け止めているようだった。
「成績はレースの結果がすべて。我々の開発、そしてチームの努力がもっと必要ということを強く感じました。来年こそはという気持です。原因はいろいろ分かっています。技術的な話はここではしませんが、それに対してきちんと対応して行かなければなりませんし、それを克服するのは我々のメインの、一番の課題だと思っています。頑張りたいと思いますが、やはりファンのみなさまの前で(ライバルに)抜かれるというのは残念です」
この鈴鹿の結果を受けて、今シーズンは残り5戦。どのような課題で臨むのか。
「残り5戦に対して、どれだけ新しい技術を入れていけるか。それから、セットアップがうまくできるか。それから来年に向けて、何を試せるのか。トークンも残っていますし、クルマ全体としてもやることがたくさんあるので、どのタイミングで入れるかというのを相談しているところです。少しづつ進歩させるしかない。F1の世界は甘くはないので、急に何か良くなることはないと思うので、やれることをやっていきたいと思います」
母国である日本GPで、改めて課題とギャップが浮き彫りになってしまったマクラーレン・ホンダ。アロンソの悲痛な叫びに、残り5戦でどこまで応えられることができるのか。ホンダPUが進化するのと同じく、ライバルもまた、大きく進化を遂げる。レースは進化することが目的ではなく、相手を追い越さなければ勝つことはできない。優勝したルイス・ハミルトンの後ろ姿が、また遠く感じた鈴鹿だった。