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チャリンコ版『マッドマックス』!? 『ターボキッド』に漂う、中学生男子の妄想的ポップ感

2015年09月26日 18:51  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2015年、アクション映画業界最大の話題作となった『マッドマックス 怒りのデスロード』。そんな『マッドマックス』シリーズに代表される、秩序が崩壊した近未来を舞台にしたポスト・アポカリプスものに、『キック・アス』『スーパー!』など、近年の人気ジャンルの一つである「俺、ヒーローになるよ!」ものを加え、さらに『マネキン』『スプラッシュ』などの特殊ヒロイン系ラブコメの要素を加えたらどうなるか。大雑把に言うと、この3つを合体させ、血まみれのスプラッター描写をふりかけたのが本作『ターボキッド』である。


 文明が滅びた世界で自転車を相棒に、懸命にサバイバルする少年キッド。ある日、彼は死体と爆笑しながら会話する、異常に目力が強い少女と出会う。恐れをなして逃げ出すキッドだったが、彼女はキッドの家まで押しかけてきて、そのまま一緒に暮らすと言い出し…。


 このストーリーからもわかるように、本作はラブコメ要素が強い。そして、このラブコメ要素の強さ、もっと端的にいうなら、キラキラした恋愛への憧れこそ、本作の中学生男子の妄想感をより強くしているし、本作をよくあるポスト・アポカリプスものとは一味違うものにしている。


 80sノリのキラキラ系のポップな音楽をBGMに、ときに自転車2人乗りをしながら、ときに鬼ごっこをしながら、世界が滅びた後の荒野で2人は遊び回る。そんな2人を切り裂く悪党たちが現れ、ヒロインを取り戻すために、主人公は奮闘する。世界観設定こそ『マッドマックス2』のパロディであるが、メインプロットは間違いなくロマンティック・コメディの定型に沿っている。


 このポップな視点は終始一貫しており、人間が真っ二つになったり、内臓が飛び出したりする露悪的な血まみれヴァイオレンスが全編で炸裂するが、その印象は陰惨になりすぎず、最後まで作品全体のポップな印象は失われない。むしろ、「ロマコメをやりたいが、ストレートに恋愛だけするのは照れる…」的な、好きな子にイジワルをしてしまうような、照れ隠し的な悪趣味にも見えてくる。そこまで含めて、なんとも中学生男子の妄想らしい。


 ただし、「中学生男子の妄想だから」では許されないくらい、端的にいうとイイ加減な部分もある。主人公のヒーローとしての能力の獲得などは“超展開“といっていいし、そこで乗り切れない人も出るだろう(私自身も最後まで「?」が付いて回っていた)。せっかくの自転車というアイテムを容易しておきながら、アクション映画の小道具として活きてこないのも残念だ。


 とはいえ、粗は確かにあるものの、それらも含めて男子中学生の妄想的だとも言えるし、それが独特の味わいを出しているのも事実だ。


 ささやかでキラキラで血みどろな、ナンセンス・ドタバタコメディとしては 十分に楽しめる映画だろう。夢見がちな中学生男子の脳内を覗き見してしまったような、「ある日、いきなり美少女が現われてさ、突然謎の力を授かってさ、悪党と戦ってさ、そして…」そんな物語を布団にくるまって空想した、すべての男子のハートをやさしく刺激するのは間違いない。(加藤ヨシキ)