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でんぱ組.incの新曲に見るグループの戦略転換 「ドキュメント」から「シンパシー」への変化を読む

2015年09月26日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

でんぱ組.inc『あした地球がこなごなになっても』

参考:2015年09月14日~2015年09月20日のCDシングル週間ランキング(2015年09月28日付)


 今週のオリコンシングルランキングは、1位にGENERATIONS from EXILE TRIBE『ALL FOR YOU』、2位にでんぱ組.inc『あした地球がこなごなになっても』、3位にFTISLAND『PUPPPY』、4位にAAA『愛してるのに、愛せない』、5位にコトリ with ステッチバード『宇宙ダンス』という並びとなった。


 注目は2位のでんぱ組.inc『あした地球がこなごなになっても』。6月にリリースした『おつかれサマー!』に続く約3ヶ月ぶりのシングルは、初週4.5万枚を売り上げ、自己最高の初登場2位を達成している。6月からは世界7カ国をまわるワールドツアーを行ってきた彼女たちだが、日本においても着々と人気を拡大していることを証明した形となった。


 そして、『おつかれサマー!』以降のシングルの曲調からは、でんぱ組.incが、持ち前の「ぶっ飛んだカラフルさ」を活かしつつ、より広い層をターゲットに見据えた戦略に転じてきていることも見受けられる。一言でいうと「ドキュメント」から「シンパシー」へ。つまりは「自分のこと」から「みんなのこと」を歌うようになってきた、ということだ。


 でんぱ組.incの出世作となった「W.W.D」(2012年)は“マイナスからのスタート”をキーワードに、オタクだったゆえの辛い過去も包み隠す明かし、全てメンバーの実話で構成されたノンフィクションソング。


その続編「W.W.D II」(2013年)は、ブレイク渦中で変わりつつある6人の姿と決意をそのまま歌詞にしたドキュメンタリーソングだ。


そしてライブでも最も盛り上がる代表曲の一つとなった「サクラあっぱれーしょん」(2014年)は、「君の未来を明るく照らすなんて お茶の子さいさいさい」という一節が印象的な陽気ではっちゃけたナンバー。ただ、これも「Hey yo, D.E.M.P.A from Akihabara to everywhere」という一節で始まる、彼女たち自身の自己紹介ソングのような一曲だ。


 一方、「Mステ」初出演も果たした「おつかれサマー!」から、そのあたりの書き方が少しずつ変わっている。北川悠仁と前山田健一が共作した「おつかれサマー!」の歌詞は、「LINEであっさり ドタキャーン スタンプで お返事」「恋愛より友情!? グループ作って 招待!」と、今どきの10代や20代の恋愛コミュニケーションのディティールをとりこんだもの。彼女たち6人自身のドキュメントというよりは、「キラキラした夏の恋に憧れる女の子」の共感を誘うストーリーになっている。


 そして「あした地球がこなごなになっても」は、マンガ家の浅野いにおが作詞を、釣俊輔が作曲、Tom-H@ckが編曲を担当したナンバー。8ビートのリズムにギターのカッティングを配したセンチメンタルな曲調は、やはり浅野いにおが作詞し原作漫画の映画主題歌となったASIAN KUNG-FU GENERATION「ソラニン」を想起させる。


 そして、何より印象に残るのは、地球滅亡前夜という極端なシチュエーションを提示しながら「お仕事は とても順調なの」「私って結構頑張ってると思うよ」と女の子のひとりごとから描写を構成し「ぎゅっと抱き寄せて それだけなの それだけなの お願い」「きっと約束だよ 約束だよ お願い」と、ピュアな恋心に着地する歌詞の世界観だ。


 今回、浅野いにおは、でんぱ組.incのメンバーに事前にインタビューし、そこで出てきた回答からこの曲の歌詞を書き下ろしたのだという。実はこれ、前山田健一が「W.W.D」や「W.W.D II」の歌詞を書いたときと同じ手法なのだが、アウトプットは真逆の方向性を持つものになっている。


 吉田豪によるインタビューなどで、浅野いにおは自身の内面に「女の子への過剰な憧れ」があることを明かしている。「女子高生になりたい」という願望、性転換願望があったりすることも語っている。女装が似合わないであろう自分への落胆も吐露している。つまり、浅野いにおにとっては、今回のコラボは、自分自身がでんぱ組.incの6人に移入して「女の子の気持ちになりきる」ためのまたとない機会だったのではないだろうか。そうやって書かれた歌詞だからこそ、6人の物語ではなく、広い層の女の子の共感を誘うようなアウトプットになっているわけだ。


 「ドキュメント」から「シンパシー」へ。でんぱ組.incの表現の方向性が少しずつ変わってきていることを、新曲のヒットからは読み取れる。(柴 那典)