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Alfred Beach Sandal、柴田聡子、デラドゥーリアン…… ユニークな個性が光るSSWの新譜5選

2015年09月25日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Alfred Beach Sandal『Unknown Moments』

 洋邦問わず新作を紹介させて頂くこのコーナー。今回は「オルタナティヴな歌心を持ったシンガー・ソングライター」という切り口で、8月から9月までの新作から選んでみた。私小説的な歌詞をフォーキーなサウンドで紡ぎ出す、そんな伝統的なシンガー・ソングライターのスタイルから踏み出して、実験的だったり、ひねくれていたり、歌詞やサウンドにユニークな個性が光る奇才たち。まず最初は、北里彰久のフリー・フォームなソロ・ユニット、Alfred Beach Sandal『Unknown Moments』から。


 デビュー時は、北里の弾き語りにスティールパンやハードコア・パンクが乱入するようなカオティックなサウンドだったが、今回は前作『Dead Montano』にゲスト参加した光永渉(ドラム)と岩見継吾(ベース)が続投して、バンド・サウンドにフォーカス。とりわけ、シングル・リリースされた「Honeymoon」をはじめヘヴィで切れ味鋭いグルーヴに磨きがかかっていて、ラッパーの5lackとのコラボ曲など新境地を切り開いている。とはいえ曲の核になっているのは、ネジれながらも美しいメロディーと不穏な空気感を漂わせた歌声だ。弾き語りの曲もこれまで以上に強度を増していて、メロディーやビートにぴたりと寄り添うシュールでダークな歌詞にも注目。夕暮れ時に見知らぬ街に迷い込み、どんどん家が遠くなっていくけど見知らぬ風景に心奪われる……そんな不気味な叙情を漂わせたアルバムだ。


 柴田聡子の歌は少女のようにあどけないけれど、そこには油断ならない闇がある。新作『柴田聡子』は彼女がリスペクトする山本精一をプロデューサーに招いて、初めてバンド・セットでレコーディングされた。山本をはじめ、須藤俊明、一楽誉志幸、西滝太などゲスト・ミュージシャンたちによるバンド・サウンドは、タイトな脱力感というか絶妙のバランスで柴田の歌をフォロー。そんな腕利きのバンドに支えられ、柴田はこれまでになくポップな曲を正面切ってやっているが、やればやるほど違和感が、毒がじわじわ滲み出る。その“ポップな毒”が本作の魅力。聴く者を当惑させながら、その世界に引き込んでいく歌詞の面白さも相変わらずで、柴田はアシッド・フォーク的な不穏さを漂わせがらも飄々とした歌いっぷり。借り物のセンスやワザに頼らず、大胆に歌に向き合っている勝負師的風情は山本に通じるところがあって、3枚目のアルバムにして早くも風格を感じさせる。


 続いて女性シンガーをもう一人。元ダーティー・プロジェクターズのエンジェル・デラドゥーリアンは、その個性的な歌声でビョークやU2、フライング・ロータスなど様々なアーティストと共演してきた。そんな彼女の初めてのフル・アルバム『ザ・エクスパンディング・フラワー・プラネット』は、意外にもカナダのヒップホップ/エレクトロ系レーベル、アンチコンからリリースされた。すべてのトラックを彼女ひとりで作り上げていて、エレクトロニックなサウンドをベースにしながら、アフリカや中東を思わせるエキゾチックなメロディーとトライバルなビートが辺境サイケ的異空間を生み出していく。その中心で強烈な存在感を放っているのが、オノヨーコやビョークの系譜に連なる肉体を楽器にしたような変幻自在のボーカル・パフォーマンスだ。呪術的ともいえる声の力とモダンなサウンドメイキングが融合しているあたりはダーティ・プロジェクターズに通じるところもあるが、こちらのほうがより艶かしくてミステリアス。


 ショーン・ニコラス・サヴェージはカナダのインディー・シーンで密かに愛される男。なにしろ、マック・デマルコやドルドラムズが参加したトリビュート・アルバムがリリースされているくらいなのだ。そんなサヴェージの新作『Other Death』には、同郷のインディー・ポップ・バンド、トップスや、LAの宅録女子、ナイト・ジュエルが参加。そのサウンドは打ち込みやシンセで作り上げたアーバンなブルーアイド・ソウルで、ファルセットで囁くサヴァージの歌声が羽毛のように耳をくすぐる。ライやインクに通じる洗練されたソウル・ミュージックを奏でながら、同時に得体の知れないいかがわしさも漂わせていて、アリエル・ピンクとプリンスがピロートークを交わしているようなキッチュな甘美さがたまらない。アルバムのタイトルやジャケットのデザインからして、2013年にリリースされた『Other Life』と対になっているアルバムのようなので、今後この2作はサヴェージの〈赤盤〉〈青盤〉として楽しみたい。


 そして最後は、90年代オルタナ全盛期にローファイ・シーンの旗手として活躍したルー・バーロウの新作『ブレイス・ザ・ウェイヴ』。ダイナソーJrを皮切りに、セバドー、セントライドー、フォーク・インプロージョンなど、様々な名義で作品を作り続けてきたバーロウ。00年代に入って本人いわく“オフィシャルな”ソロ・アルバムを2枚リリースしたが、3作目となるのが本作で、再結成後のダイナソーのアルバムを手掛けてきたジャスティン・ピッツォフェッラートをエンジニアに迎えて、たった6日間でレコーディングされた。過去2作ではゲストを迎えていたが今回はバーロウひとり。アコースティック・ギター一本でライヴ・レコーディングした曲もあれば、キーボードやコーラスを重ねてバンド・サウンドのようなダイナミズムを生み出した曲もある。ザラついたローファイな音響のなか、どの曲もバーロウ節と呼びたくなるようなメランコリックなメロディーが映えていて、ナイーヴさを秘めた骨太な歌声が胸に沁みる。ルーツ・ミュージックを独自に消化しながら、バーロウの出発点であるパンクの熱も感じさせて、枯れているようで熱い、何度聴いても聴き飽きない歌だ。10年以上前、フォーク・インプロージョンで来日した時、ライヴを終わった後に「日本の観客は静かに演奏を聴いてくれて嬉しいよ」としみじみ語っていたバーロウ。その後、ダイナソーやセバドーなどバンドでの来日が続いたが、次はひとりでギターを片手にぶらっと来て欲しい。今度も静かにその歌声に耳を傾けるから。(村尾泰郎)