トップへ

シルバーウィークに追い風吹かず 『進撃の巨人』後篇、鈍いスタート

2015年09月25日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ランキングはこちら


 映画業界的には降って湧いたような9月の5連休。シルバーウィークに合わせて期待作の公開も相次いだが、この好機を活かしきることができない作品が多かった。自分もシルバーウィーク中に2回シネコンに足を運んだが、歴史的な興行を記録した8月の週末の活況とは程遠い状況。その8月を牽引してきた『ジュラシック・ワールド』『ミニオンズ』『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』も、『ジュラシック・ワールド』以外は遂にトップ10から脱落した。


 先週末の初登場1位は実写版『進撃の巨人』の“後篇”、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』。427スクリーンで公開されて、土日2日間で動員23万7016人、興収3億2791万5700円。この数字は、8月1日に公開された“前篇”のオープニング2日間の成績(動員46万6953人、興収6億0346万6200円)の約半分。『デスノート』(2006年)、『のだめカンタービレ 最終楽章』(2009年/2010年)、『SP THE MOTION PICTURE』(2010年/2011年)あたりから常態化してきた邦画の同時製作&前篇後篇分けての公開というビジネスモデル。近年はほぼ例外なく後篇の最終興収は前篇から目減りしてきたが、逆に初動だけは前篇では上回るケースの方が多い。にもかかわらず、初動でいきなり半減した『進撃の巨人』“後篇”の数字は深刻だ。作品内容だけでなく、それぞれの上映時間の短さ(98分/87分)も話題になってしまったように、観客の目は製作側の想像以上に厳しかったと言わざるを得ない。


 来週(9月30日)には“前篇”が北米で112館という規模で公開されるが、2時間30分前後のエンターテイメント大作にも慣れているアメリカの観客が、話の途中、90分強で突然終わる“前篇”にどのようなリアクションをするのかも興味深い。


 初登場2位は桐谷美玲主演の『ヒロイン失格』。少女マンガ映画化作品といえば近年は東宝の十八番だったが、ワーナー作品、268スクリーン公開という条件の中で1位に迫る土日2日間動員22万4083人、興収2億6252万230円を稼ぎだした。公開初日の土曜日は『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』の後塵を拝したものの、残りのシルバーウィーク中はずっと1位だったという報告もあり、これは大健闘と言っていいだろう。そろそろ映画化できる少女マンガ原作も枯渇してくるのではないかという不安もあるが、今後も類作が各映画会社から続々と製作されるのは間違いない。


 初登場3位は、実はマーベル・シネマティック・ユニバース「フェイズ2」のフィナーレを飾るという意味でも重要作である『アントマン』。土日2日間で動員14万3236人、興収2億39万6500円。ディズニーのマーベル作品の興収は『アベンジャーズ』シリーズと『アイアンマン』シリーズ以外は興収がガクンと落ちる傾向があるが、333スクリーンでこの数字は、595スクリーンで土日2日間動員17万6233人、興収2億2414万5400円だった昨年の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と比べてもほとんど遜色のない数字。同じく昨年の『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』(488スクリーン、土日2日間動員14万2236人、興収1億9836万0800円)、『マイティ・ソー ダークワールド』(627スクリーン、土日2日間動員14万6160人、興収1億8708万5300円)といったシリーズ続篇作品も上回っていて、この2年間で日本においてもマーベル作品への関心が確実に高まっていることが証明された。


 そして、こうして過去のマーベル作品とスクリーン数を並べれば一目瞭然だが、明らかに『アントマン』の333スクリーンは少なすぎる。事情は定かではないが、IMAXの割り当てを『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』に独占されていて、現状まったくIMAX上映がされていないことも興収面で響いている。自社の利益の追求と数字作りも大切かもしれないが、そこに観客不在の「大人の事情」が露呈してしまっていることを指摘しておく。(宇野維正)