お客相手の仕事でつきものなのが「クレーム」だ。対応は責任の名の下に担当社員に押し付けられがちだが、考えてみればおかしなものだ。しかし、「クレームはすべて会社の責任」と気付いたことで業績を伸ばす会社もある。
9月21日放送の「ワールドビジネスサテライト」では、クレーム対応に力を入れて「新規の営業を一切しなくても、売り上げが20年間右肩上がり」という四国管財を紹介した。1962年に高知で創業、従業員約600人で清掃やビルメンテナンスを請け負う会社である。
苦情電話は「ラッキーコール」。スタッフは進んでミスを申告
この会社は価格競争の激しい業界にあって「安い仕事は受けない」と強気の姿勢を貫く。お客様係兼代表取締役の中澤清一さんは、見積依頼が来て「安いところに決めます」と言われると、その瞬間に「うちはいいです」と即答で断るそうだ。
顧客からのクレームや清掃スタッフからの相談などを受け付けるのが「スマイルサポーター」と呼ばれる女性スタッフたち。パソコンの前でヘッドセットを着けて仕事をし、クレーム電話に対応しながら「ラッキーコール」というシステムにクレーム情報を入力する。
クレーム電話を「ラッキーコール」とする理由は、クレーム対応するごとに少しずつスキルが上がるからだ。15年間で3500件のクレーム情報を蓄積している。細かくクレームを検証していくうちに、中澤社長は気付いたことがあると語る。
「なぜこの人は失敗したのか(原因)を追究していくと、道具や教え方が悪かったり、本人がしんどいのに気付いてあげられなかったりなど、クレームはすべて『会社のせい』だと分かってきた」
そこで、クレーム発生時には現場スタッフの責任は一切問わないことに。代わりに24時間体制で、社長や上司が顧客に謝罪することにした。その結果、顧客がクレームを出す前に、スタッフが失敗を自己申告するようになったという。
「クレームは宝」はお題目になっていないか
ホテル日航のトイレ清掃を担当していたスタッフは、重い陶器のハンドソープ入れを割ってしまったことがある。すぐに謝罪したことで、顧客の大きな信頼を得た。ホテルの支配人は、その時の思いをこう語る。
「黙っていれば分からないこと。起こったことを正直に報告する会社だと、逆に非常に安心しました」
やがて口コミで評判が伝わり、営業をしなくても次々と新規取引が舞い込むようになった。中澤社長は「クレームには、会社が成長する材料と客に満足してもらうためのヒントが、宝の山のように隠れていると思います」と語る。
スマイルサポーター5人の報告会は、出席者全員がハイタッチして始まり、中澤社長を中心に楽しげに見えた。上司が「報・連・相」を待つのではなく、自然とやりやすくする雰囲気づくりを進めているのだろう。
「クレームは宝」という言葉自体は、目新しいものではない。「お客の不満から真のニーズを得る」としてシステム構築することも同様だ。問題はそこからの対応で、幹部が会社の体制を見直したり自ら矢面に立ったりして実行することが、現場スタッフのやる気・仕事に対する姿勢を大きく左右するのだと改めて感じた。(ライター:okei)
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