2015年09月23日 09:01 弁護士ドットコム
朝の通勤ラッシュのとき、人とぶつかったり、他人の靴を踏んでしまうことは珍しくないが、思わぬトラブルに発展することもあるようだ。「踏んでしまった相手から、この靴は10万円したから弁償するよう言われている」という投稿が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。
【関連記事:ビジネスホテルの「1人部屋」を「ラブホ」代わりに――カップルが使うのは違法?】
投稿によると、踏んだのは10万円もするミュールで、かかとを止めていた細い革のバンドが切れたという。投稿者は謝罪したものの、本心では「足や靴が踏まれるのは想定内の事故。私は泥酔していたり、歩きスマホをしていたり走っていたわけではなく、故意でもない」と考え、弁償する気はない。
ラッシュ時の駅構内は、普通に歩いていても、ぶつかったり、前の人の靴を踏んでしまう。それでも、相手がいうように弁償する義務があるのだろうか。大熊裕司弁護士に話をきいた。
「通勤ラッシュ時の駅構内で、前を歩く人が履いていたミュールを踏んで、かかとの細い革のバンドを切ってしまったというケースですね。混雑していたとはいえ、踏んでしまった点において過失は認められるでしょう。ですから、不法行為に基づく損害賠償義務(民法709条)を負うことになりそうです」
では、10万円を弁償しなければならいだろうか。
「いいえ。相手の『10万円全額を弁償してほしい』という主張は通らない可能性が高いですしょう。たしかに、ミュールの購入時の価格は10万円だったのかもしれません。しかし、損害賠償として認められるのは、修理代金相当額に留まります。
仮に修理が不可能で、もう履けなくなったとしましょう。それでも、支払わなくてはならない損害額は、時価相当額です。使用済みですから、損害額は10万円に満たないことになります」
相手から「お気に入りのミュールだったから慰謝料を払え」と言われる可能性はないだろうか。
「いいえ、大丈夫です。ミュールのような『物』を壊された場合には、慰謝料請求が認められることもありません。以上を考えると、損害賠償義務を負うことになるかもしれませんが、それほど高い賠償額は認められないと思われます」
大熊弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大熊 裕司(おおくま・ゆうじ)弁護士
第一東京弁護士会所属弁護士。家事事件、消費者問題、知的財産関係、インターネット問題(ネット上の名誉毀損、誹謗中傷対策など)を中心に扱っている。
事務所名:虎ノ門法律特許事務所
事務所URL:http://www.toranomon-law.jp/