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F1シンガポールGP決勝レース分析:ベッテルの神業ペースコントロール。メルセデス失速の原因は?

2015年09月21日 17:01  AUTOSPORT web

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2015年F1第13戦シンガポールGP 決勝 セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)とダニエル・リカルド(レッドブル)
セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が勝利を収めた、今年のシンガポールGP。2位のダニエル・リカルド(レッドブル)は「セーフティカー(SC)さえなければ、ベッテルに勝てたかもしれない」とコメントを残していますが、ラップタイムの推移を見る限り、SCがなくてもリカルドが勝つのは難しかったように思います。ベッテルは自身も発言しているとおり、完璧なペースコントロールを行っていたと思われるからです。

 まずはスタート。ベッテルは抜群のスタートを決め、序盤から猛プッシュ。2番手のリカルドよりも3秒以上速く1周目を駆け抜け、2周目に最初のスティントの最速ラップを刻み、5周目を終えた時点で、リカルドからのリードを5.3秒まで広げます。これで完勝かと思われましたが、ベッテルのペースは徐々に落ち始め、リカルドと同一のペースに落ち着きます。8周目からはペースが逆転。リカルドのペースはベッテルを上回り、その差が縮まっていきます。そして、12周目を終えた時点で、その差は3.6秒程度となっていました。

 金曜日のフリー走行で、ベッテルは速いペースで走ることはできるものの、デグラデーション(タイヤの性能劣化によるペースへの影響)が大きく、一方リカルドはベストのペースはベッテルに劣るもののデグラデーションがほとんど見られない……という傾向が見て取れました。この結果から、決勝レースではベッテルが序盤に逃げるものの、両者のペースが入れ替わる時が来て、次第にリカルドが追いつくタイミングが来るという展開が予想されました。それが8周目だったわけです。

 13周目、フェリペ・マッサ(ウイリアムズ)に接触してウォールにクラッシュしたニコ・ヒュルケンベルグのフォース・インディアを除去するために、ヴァーチャル・セーフティカー(VSC)が発動。このタイミングで各車がピットインします。これで、ベッテルはリカルドにアンダーカットされるのを防げたように見えますが、リカルドのチームメイトであるダニール・クビアトがその前の周にピットインしたことから想像するに、実際には両者ともそろそろ最初のピットインのタイミングを迎えていたはずで、3.6秒という差はアンダーカット(ライバルよりも早く新しいタイヤを履き、その性能を活かしてライバルの前に出る戦略のこと)するには少々大きかったように思われます。逆を言えば、ベッテルはアンダーカットされないだけの差をキープするため、スタート直後に飛ばしに飛ばしていたようにも思えます。

 ペースのコントロールは、第2スティントでも行われていました。ベッテルはSC明け直後の19周目から26周目までは、非常にゆっくりとしたペース(1分52秒台)で走行し、リカルド以下を抑えます(チームメイトのキミ・ライコネンがリカルドを抜くのを手助けしたとも言われていますが、真相は分かりません)。しかし、27周目から一気にペースアップ。なんと1分50秒5という、前の周より3秒近く速いタイムで走り、リカルドを置き去りにします。リカルドはなんとかこれにくっついていこうとしますが、4秒の差を付けられてしまい、30周目にペースだけは追いついたものの、ついぞ差を詰めることはできませんでした。

 そして37周目にはこの日2回目のセーフティカーが出動。これはコース上に侵入者があったからという、考えられないトラブル(とはいえ、これまでに何度かありましたが……)が原因でしたが、ここでベッテルもリカルドもピットインすることになります。結局2回のピットストップは、いずれもセーフティカー中に行われたということになり、成功する可能性があったかどうかは別として、リカルドはアンダーカットを仕掛けるチャンスを奪われてしまいました。

 このセーフティカーが明けた最後のスティントも、ベッテルはペースをコントロールしていた節があります。タイヤを交換した後からチェッカーまで、ベッテルはあたかもトレースしたかの様に、リカルドと同じペース綺麗に並べ、チェッカーを受けました。これは、タイヤに無理をさせず、リカルドとの差を中心に注意を払っていたことの証なのではないでしょうか? おそらく、もしリカルドが一気にペースを上げてきていたら、ベッテルはそれに反応することもできたと思われます。

 長々と述べてきましたが、以上のことを総合すると、ベッテルは見た目以上の圧勝だったのではないか? そう思えてなりません。ベッテルはリスクの面などを全て頭にいれ、計算しながら走り、ペースをコントロールしてタイヤを労り、確実に勝つレースをした。ベッテルが「僕はペースをコントロールし、タイヤをうまく管理して走ることができた」と語っている、その言葉の通りです。

 さて、今季ここまで圧倒的な強さを誇ってきたメルセデスAMG勢は大失速。今回はフェラーリとレッドブルの前にまったく歯が立ちませんでした。VSCのタイミングでダニール・クビアト(レッドブル)の前に出ることには成功したものの、それが精一杯。ルイス・ハミルトンも、ニコ・ロズベルグも、表彰台を争うことすらできませんでした。この原因が何だったのか? あくまでシンガポールのコースとコンディションがメルセデスAMGのマシンに合わなかった……というだけのことであれば良いのですが。今回、スーパーソフトは作動温度領域が非常に限られていたといいます。しかし、彼らはソフトタイヤでも、ベッテルやリカルドから大きく遅れていました。もしこれが、タイヤの内圧規定の遵守を強いられたこと(前戦イタリアGPから施行)に起因するのであるならば、鈴鹿にも、そしてチャンピオン争いにも多大な影響を及ぼしてくることになるはずですが、さてどうなりますでしょうか。日本GPの金曜フリー走行、メルセデスAMGのペースに注目です。

 もうひとり、特筆しておきたいドライバーがいます。若干17歳のマックス・フェルスタッペンです。フェルスタッペンはスタートでストールしてピットに押し戻され、1周遅れでレースに加わっていきます。普通ならこの時点で勝負権はなくなるはずですが、最初のSCで先頭と同一周回に復帰し、第2スティント序盤はコース上で一番速いペース(抑えて走っていたベッテルより0.5秒程度速く、しかもベッテルはスーパーソフトの新品だったのに対し、フェルスタッペンはソフトタイヤを装着)で走って前方のマシンとの差を詰め、2回目のピットストップのタイミングでチームメイトのカルロス・サインツJr.の前に出ると、ロータスの2台を交わします。終盤にはフォース・インディアのセルジオ・ペレスを攻め立てましたが、最高速が10km/h以上勝るライバルを抜くのはさすがに難しく、8位でのフィニッシュとなりました。とはいえ、その追い上げは素晴らしく、フェルスタッペンの才能を印象付けた1戦だったと言うことができるのではないでしょうか。

 非常に見応えがあった今年のシンガポールGP。そしてその余韻に浸る間もなく、今週末にはいよいよ鈴鹿サーキットで日本GPが行われます。すでにサーキットの準備は着々と進んでいる模様。週末には雨の予報も出ているとのことですが、さてどんなレースになりますか? メルセデスAMGが速さを取り戻すのか? それとも……? 皆様ぜひお見逃しなく!
(F1速報)