FIA世界耐久選手権(WEC)第5戦がアメリカ・オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカズで行われ、スタートでトップに立ったティモ・ベルンハルト/マーク・ウェーバー/ブレンダン・ハートレー組の17号車のポルシェ919ハイブリッドが前戦ニュルブルクリンクに続き2連勝を果たした。LMP2クラスは26号車G-ドライブ・レーシングが、LM-GTEプロクラスは91号車ポルシェ・チーム・マンタイが、LM-GTEアマクラスは72号車のSMPレーシングがそれぞれクラス優勝を果たしている。
17時にスタートが切られた決勝レース。夕刻にも関わらず、気温は34度、路面温度42度と厳しいコンディションである。
LMP1クラスは、2番グリッドからスタートしたウェーバーが駆る17号車ポルシェ919ハイブリッドが、1コーナーから18号車ポルシェをオーバーテイクして先頭に。後方でも、セバスチャン・ブエミが乗る1号車トヨタTS040ハイブリッドがアンドレ・ロッテラーの7号車アウディR18 e-トロン・クアトロを交わして4番手に浮上する。しかし、トヨタよりもアウディの方がペースが勝っており、3周目にはロッテラーが順位を取り戻している。
LMP2クラスは、サム・バードがドライブする26号車G-ドライブ・レーシングが独走態勢を築く。しかし、後方では予選でクラスポールポジションとなるタイムを記録したものの、ペナルティによりクラス最後尾からのスタートとなった47号車KCMGがニコラ・ラピエールのドライブで急浮上。12周目にはクラス3番手まで上がっている。
LM-GTEプロクラスでは、フレデリック・マコウィッキが駆る92号車ポルシェ・チーム・マンタイが先頭。その後方には91号車のポルシェ・チーム・マンタイが続き、トップ2を同一チームで独占する。またLM-GTEアマクラスの77号車デンプシー-プロトン・レーシングは、LM-GTEプロクラスのマシンに混ざって走行している。
18周目、13号車のレベリオン・レーシングが緊急ピットイン。マシンをすぐさまガレージに入れ、メカニックがエンジンカウル内を覗き込むような動きが見える。どうやら、マシントラブルのようだ。
27~28周目頃になると、各車が最初のピットインを行う。このタイミングでLMP2のトップには30号車のエクストリーム・スピード・モータースポーツが立つ。また、LM-GTEアマクラスのトップを走っていた77号車には、ハリウッド俳優のパトリック・デンプシーが乗り込み首位を快走するが、徐々に後方から差を詰められてしまう。
レーススタートから1時間半を経過したところで、以前17号車ポルシェが先頭。2台のトヨタTS040ハイブリッドは周回遅れだ。LMP2クラスでは、終始安定したペースを保った47号車KCMGがついに先頭に立ち、26号車G-ドライブ・レーシングを20秒引き離して独走の状態だ。LM-GTEプロクラスでは以前ポルシェ・チーム・マンタイが1-2体制。LM-GTEアマクラスは、スタートから首位を走ってきた77号車デンプシー-プロトン・レーシングが、ついにそのポジションを72号車SMPレーシングに明け渡すことになってしまった。
徐々に傾いていく日差し。レーススタート後2時間もすると、空は完全にオレンジ色に染まり、西日が厳しくなってくる。この影響を最も受けたのが1号車トヨタTS040ハイブリッドのアンソニー・デビッドソン。ピットに入りかけたところ、夕日が完全に逆光となり、ピットレーンを見失ってしまう。これでデビッドソンはコースに戻ってしまい、燃料が足りない状態で1周を走行。ペースを落とさなければガス欠でストップしてしまう可能性からか、ゆっくりとしたスピードで再びピットを目指したため、大きなタイムロスとなってしまった。
デビッドソンのアクシデントの直後、今度は最終コーナーで31号車エクストリーム・スピード・モータースポーツのマシンが縁石に乗り上げるような形で宙に浮き、そのままバリヤにクラッシュ。これでフルコースイエローコーションが宣言されてしまう。31号車はターンイン時にブレーキが効かないというトラブルに見舞われていたという。
2時間半を経過すると、コースは完全に闇に包まれる。こうすると、照明が少ないサーキット・オブ・ジ・アメリカズでの走行は非常に困難となってくる。GTEアマクラスの3番手を96号車アストン・マーチン・レーシングと、88号車アブダビ-プロトン・レーシングが争っていたところに、マイク・コンウェイがドライブする2号車トヨタTS040ハイブリッドが迫る。コンウェイが2台をまとめて交わそうとするが、96号車にそれが見えていなかったのか、抜きにかかる88号車をブロックするラインを取る。これで2号車の進路が狭くなり、あわや接触……コンウェイはこれを回避したが、大きくスピンしてしまう。
ナイトコンディションでは、ピットインも難しくなる。3回目のピットインに入ったウェーバーがドライブする17号車ポルシェ919ハイブリッドだが、自らのピットを見付けられず、オーバーランしてしまう。幸い、マシンをストップさせた位置がガレージから近かったために、メカニックに押し戻される形で作業を受けることができたが、これは危険な行為だったとして後に1分のストップ&ゴーペナルティが課せられる。これで17号車は首位のポジションを18号車に譲ることになってしまった。
なお、逆光の影響でピットレーンからコースに戻ってしまった1号車トヨタTS040ハイブリッド、そしてピット作業時にメカニックがタイヤを落としてしまった8号車アウディR18 e-トロン・クアトロにも、同様のペナルティが課せられている。
レースのちょうど半分が経過したところで、2号車トヨタTS040ハイブリッドは再び進路を塞がれ、大きくスピンしてしまう。しかも、今度はそのままバリアに突っ込み、マシンを大破させてしまった。マシンはそのまま動けずにここでリタイア。TS040を片付けるため、この日2回目のフルコースイエローが発動される。
LM-GTEクラスに目を転じてみると、残り1時間40分というところでプロクラスの51号車AFコルセに、マシン側面のカーナンバーが点灯しないというトラブルが発生。すぐにピットに入り修復を試みるが点灯せず、チームはドアを交換する形で対処する。しかし、今度はドアが閉まらない! 結局ドアが開いた状態でコースに復帰させるが、マーシャルからはオレンジボールフラッグが提示され、ふたたびピットイン。カーナンバーの点灯について修復した新しいドアを取り付けてコースに戻る。
プロクラスのトップは、91号車のポルシェ・チーム・マンタイ。しかし、後ろからは92号車ポルシェ・チーム・マンタイが迫る。とはいえポイントランキングでは91号車の方が先行しており、チームオーダーが発動されたのか、92号車をドライブするマコウィッキは、91号車に対して攻撃を仕掛けない。
残り1時間というところで、LMP1の上位は18号車ポルシェ、17号車ポルシェ、8号車ポルシェ、7号車ポルシェ、1号車トヨタの順。LMP2クラスは26号車G-ドライブ・レーシングが再びトップに立ち、47号車KCMGが追う展開。LM-GTEプロクラスは相変わらずポルシェ・チーム・マンタイの2台がランデブー状態で先頭を行き、アマクラスでは77号車デンプシー-プロトン・レーシングがトップを走っている。各車はあと何回のピットインを残しているのか? この点が勝負の分かれ目になってきそうだ。
残り40分というところで、7号車アウディが8号車アウディに急速に追いつく。8号車は7号車にあっさりとポジションを譲り、ポジションを入れ替える。在、7号車の3人がドライバーズチャンピオンシップのトップに立っているものの、ポルシェの追い上げは急であり、アウディ陣営としては7号車にポイントを集約しようという、チームオーダーなのだろう。
一方、残り34分で18号車ポルシェが無線の指示でピットイン。給油だけでコースに復帰すると思いきや、マシンをガレージに入れてしまう。これは電気系のトラブルで、大した対処もできずに時間だけが過ぎていく。クーリングだけして最後にコースへ復帰し、ポイントを稼ごうということのようだ。
これで先頭は17号車ポルシェ919ハイブリッド。終盤に給油のためのピットインをしても、十分に先頭で戻れるだけのマージンを、7号車アウディに対して築いている。そしてそのままチェッカーまで走りきり、前戦ニュルブルクリンクに続く、2連勝を果たした。2位に7号車アウディR18 e-トロン・クアトロ、3位にも8号車アウディが入り、トヨタTS040ハイブリッドの1号車が4番手でフィニッシュしている。LMP2クラスは26号車G-ドライブ・レーシングがクラストップでチェッカーを受け、47号車KCMGは2番手まで。LM-GTEプロクラスは91号車→92号車と、ポルシェ・チーム・マンタイが1-2フィニッシュを果たしている。LM-GTEアマクラスは、結局72号車のSMPレーシングがクラス優勝、以下88号車アブダビ-プロトン・レーシング、83号車AFコルセと続いた。レースを通してトップを走った77号車デンプシー-プロトン・レーシングは、4位に終わっている。
ポルシェ919ハイブリッドがまたしても速さを見せた第5戦オースティン。これでドライバーズランキングは、ポルシェ17号車組がアウディの7号車組に10点差まで迫った。WEC次戦はいよいよ日本ラウンド、10月11日決勝の富士6時間レースとなる。