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田口トモロヲと松尾スズキ、Eテレ『SWITCH』で監督トーク 松尾「僕らのやってることは文章に残せない」

2015年09月20日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『SWITCHインタビュー 達人達』HPより

 『SWITCHインタビュー 達人達』(NHK Eテレ)、9月19日の放送回(Vol.88)に、田口トモロヲと松尾スズキが登場した。


 25年来の付き合いでありながら、一対一で話す機会は、これまでなかったというふたり。役者としてはもちろん、映画監督としても活躍するふたりの対談は、自ずとそれぞれの最新監督作の話へ。田口の最新作『ピース オブ ケイク』を観た感想として、「トモロヲさんの芸風とできあがった作品が、あまりにもかけ離れていることに驚いた」という松尾。彼のなかでは、かつて田口が主演した映画『鉄男』(監督:塚本晋也/1989年)の印象が強いようだ。さらに、「力が入っている感じが全然ない。プロの仕事をしていると思いました」と語る松尾に、田口は女性作家(ジョージ朝倉)による漫画を原作とする本作を撮る上での苦労について語った。


参考:峯田和伸、『ピース オブ ケイク』単独インタビュー 役者業のこと、仕事論、銀杏BOYZの現在


「『男目線じゃない?』って言われたくなかったんです。これは男から見た女性像だよねっていう作品もあるけれど、今回は原作を読んで、原作をリスペクトしたので……それを作り上げられるのかっていうところ、すごい苦労しました」。さらに松尾は、本作のラブシーンに注目。「(主演の)多部(未華子)ちゃんが、どんな温度でキスをしていくのか……恋愛なのか快楽を求めてなのか流されてなのか、いろんなタイプのキスがあって。それで物語が作られているような気がした」と発言。それは田口自身にとっても、本作の最大の発見だったようだ。「キスってこんなに変化が出るんだって、僕も改めて思いました。キスという行為は、ラブシーンのなかでは過激な行為として描写することができる。そういう発見がありました」。


 その背景には、「R指定にはしたくなかった」という田口の思いもあったという。R指定を免れるため、演出部の男たちと、さまざまなラブシーンを実際にやってみた動画を撮影。それを映倫関係者に見せ、助言をもらいながら最終的な演出を考えたという。「腰を動かしちゃダメなんですよね?」という松尾に、「両方を同時に揉んじゃダメとか、揉み方とかも、いろいろ(基準が)あるんですよ」と田口が応えるなど、映倫基準の難しさについて、ひとしきり盛り上がった。続いて、田口の演出スタイルについて興味を持つ松尾。「最初は怒ったほうがいいのかなと思って、一回怒ってみたんですけど、そしたら年上の助監督に逆ギレされて(笑)。それで、自分はそういうキャラクターじゃないんだなと思ったんです」と、現在の穏やかに根気よく役者やスタッフと話し合うスタイルに至った経緯を田口は説明した。


 番組後半は、田口が松尾の演劇が持つ独特な世界観を探っていく。差別や性など、あらゆるタブーを容赦なく笑いに変える松尾スズキの戯曲。特に、田口も出演した1999年の作品『神のようにだまして』は、放送できるシーンが数秒たりともないくらいブラックな笑いに満ちていたようだ。その当時と今を比べながら、「今はアウトサイドなことでも微妙なバランスでポップに仕上げるじゃないですか。そこのバランス感覚がすごいと思います」という田口。それに対し、「伝えることの喜びってあるじゃないですか。前は伝わらなくてもいいやっていう反骨精神があったけど、分かんないことやってもしょうがないって、今は思うんですよね」という松尾。しかし、笑いの反応が瞬時に分かる舞台は、未だに怖いとも。「稽古場でいちばんウケてることって、大体舞台ではウケないんですよね」。そして、「こないだ撮った映画は、現場でおかしいなって思ったことが、意外とフィルムになっても残っていて……それは、うまくいったなって思いました」という松尾の言葉から、最新監督作『ジヌよさらば~かむろば村へ~』の話へ。


 同作にも顕著だった、“体の動き”に対する松尾のこだわりに注目する田口。それに対し、「体が軸を失っているような感じの動きが好きなんです」と応える松尾は、その理由として、小学生のころに囚われたという“神様ノイローゼ”について語り始める。「なぜか、世の中の出来事や人間の動きはすべて神様が決めたプログラムに沿って動いているんだっていう刷り込みがあって……それで神様が想定し得ない動きをやっていたんですよね(笑)」。“肉体のアナーキーな肉体な自由さ”……そこに松尾は、今もなお引きつけられているのだという。


 ジャンルを越境して活躍する松尾に、「松尾さん自身がジェラシーを感じる人とか才能ってあります?」と尋ねる田口。それに対し、「今は嫉妬するとかないんですよね。昔はいろんなことに嫉妬しまくってましたけど……今は(ピースの)又吉(直樹)君が芥川賞を獲っても「ふーん」っていう感じだし、「ちきしょー」とは思わない。嫉妬してるくらいだったら、自分のやりたいことをやっていたほうが……むしろ、それはちょっとした焦りでもあるのかもしれないですけど」と応える松尾。“残された時間への焦燥”に同意する田口に対し、「僕らのやってることって、文章にして残しておけないんですよね。自分たちの肉体性だけでやってるから、僕の体が終わったらお終いだと思っていて。それで終わっていくのも潔くていいかなって今は思っています」と現在の心境を吐露する松尾。そんな彼の「純粋な笑いが欲しいっていうことを考えると、何にもついてないジョーカー的な存在であるほうがやりすいですよね」という言葉で、ふたりの対談は締め括られた。


 田口トモロヲ監督の映画『ピースオブケイク』は、現在新宿バルト9ほかで全国ロードショー中。松尾スズキ監督の映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』は、9月18日にBlu-ray&DVDが発売された。(宮澤紀)