「今日は何も起きなかったので、あまりしゃべることもないし、聞くこともないでしょう」と、新井総責任者が言うほど、シンガポールGP初日のホンダには余裕が感じられた。その理由は、シンガポール市街地サーキットのコース特性によるところが大きい。
ホンダは直前の2戦、ベルギーGPとイタリアGPで苦戦した。全開率が高いスパとモンツァでは回生エネルギーのマネージメントが難しく、ホンダのERSパワーは十分に機能しなかった。しかし、シンガポールGPの全開率は43%、約70%のスパやモンツァと比べると極端に低く、ERSパワーの性能差が現れにくいコースだ。
シンガポールGP初日のホンダに余裕が感じられたのは、コース特性だけが理由ではない。「淡々とメニューをこなした」と新井総責任者が言うように、予定していたプログラムを、きちんと消化できたことが大きかった。
「シンガポール市街地サーキットはコーナーの数が多いので、デプロイを細かく切り分けなければなりません。しかも、ここは金曜日フリー走行のタイムを見てもわかるように、チーム間のタイムが接近しているので、デブロイの調整もきちんと合わせ込まないとライバルたちと戦うことはできません。そういう意味で金曜日のセッションは、パワーユニット側でいろいろ試すことができました。もちろん、まだまだ煮詰めなければならないことはありますが、しっかりとデータが取れました。車体側も空力のパッケージをいろいろ変えて走らせて、今週末はパッケージ全体としてクルマが良い方向に向かっていると感じています」
ただし、油断もしていない。「まだ初日。今日の結果が、そのまま土曜日につながるとは思っていない。今夜は収集したデータを解析し、きちんと準備して土曜日に臨みたい」と戒めながら、「決して不得意なサーキットではないので、確実にクルマを最後まで持ってくることができれば、結果を残せると思います。ただ、ここは抜きどころがないのでスタートポジションが重要。金曜日の流れを崩すことなく、フリー走行3回目をきちんとこなして、予選につなげたい」と前向きに語った。
なお、8位のフェルナンド・アロンソからコンマ9秒遅れの14位に終わったジェンソン・バトン。バトンのパワーユニットはイタリアGPのレースで使用されたもので、アロンソよりも多くのマイレージを走っていたことが影響していた。初日のフリー走行を終えた2台のマシンからは、すでに金曜日に走らせたパワーユニットが切り離され、ベルギーGPとイタリアGPの金曜日に少しだけ走行してストックしていた、ほぼフレッシュな状態のパワーユニットに積み替える作業が始まっていた。
マクラーレン・ホンダにとっては勝負どころとなるシンガポールGP、初日は静かに幕を開けた。2日目の予選では思うぞんぶん熱い走りを見せてほしい。
(尾張正博)