ヨーロッパラウンドも前戦イタリアGPをもって終了し、今季もF1の舞台はアジアに移ってきました。シンガポール→鈴鹿の連戦です。そのシンガポールGP初日は、これまでとは大きく異なる結果となりました。
今季は常に圧倒的な速さを見せてきたメルセデスAMGのふたり、ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグ。メルセデスAMGは、なんとここまでの全戦でポールポジションを獲得してきたのです。特にハミルトンは、7戦連続ポールポジション獲得中。しかしここシンガポールGPでは、その記録の更新が止まってしまうかもしれません。
フリー走行2回目でトップタイムを記録したのは、ハミルトンでもロズベルグでもなく、レッドブルのダニール・クビアトでした。チームメイトのダニエル・リカルドも3番手。パワーに頼る部分が少ないマリーナ・ベイ・ストリート・サーキットですから、シャシー面の性能に定評のあるレッドブルが浮上する可能性は考えられました。しかし、まさかここまでとは……というのが正直な印象です。さらにフェラーリのキミ・ライコネンが2番手、セバスチャン・ベッテルが5番手に入ったことで、ハミルトンは4番手、ロズベルグに至っては7番手に沈んでいます。
今回のレッドブルは、一発のタイムもさることながら、ロングランのペースが印象的です。リカルドはスーパーソフトタイヤを装着し、19周にわたっての連続走行を行っています。1分51秒台前半で走り始めたリカルドは徐々にペースを上げ、計測ラップ4周目に1分50秒861のこの連続走行最速タイムを記録。その後はデグラデーション(タイヤの性能劣化による、ラップタイムへの影響)の兆候が徐々に見え出し、最終的なラップタイムは1分52秒1になっていますが、このロングランは実に優秀。ハミルトンのロングランペースにも勝っているように見えます。
ハミルトンのロングランも、リカルドと同じ1分51秒台前半で始まります。しかし、すぐにペースは落ちはじめ、最終的には1分52秒7。単純比較では、リカルドのペースの方が良いということになります。もちろん、両者がどの程度の燃料搭載量だったのかは分からないので、上記のような単純比較が正しいとは断言できません。とはいえ、少なくともデグラデーションの値に関してはレッドブルの方が優れている可能性が高く、特に決勝ではメルセデスAMGを苦しめる存在になると考えられるのです。クビアトはそれほど長いロングランを行いませんでしたが、そのペースも非常に良く、その上スーパーソフトとソフトの両方のタイヤで連続走行をしっかりと行えたという結果も、チームにとっては歓迎すべき結果だと思います。しっかりとタイヤ間の性能差を比較することもできたはずだからです。
さて、前述のようにハミルトンにとっても楽なレースとはならないでしょうが、ロズベルグについてはもっと深刻です。ロズベルグは1発のアタックのみならず、ロングランのペースも、レッドブル2台やハミルトンに大きく遅れを取っていました。ロズベルグは「セットアップが間違った方向に行ってしまった。でも何をすべきか分かったよ」というコメントを発しています。予選に向けて、彼はどこまで挽回してくるでしょうか?
さて、レッドブルの2台vsハミルトンという単純な構図になるかと言えば、そんなことはありません。フェラーリも、非常に戦闘力が高そうです。スーパーソフトタイヤを履いたセバスチャン・ベッテルのロングランを見てみると、1分50秒台というレッドブルやメルセデスAMGよりも速いペースで走りはじめ、その後急速にペースを落としていって計測ラップ4周目には1分51秒台後半に入れてしまうものの、その後はクールダウンラップを挟みながら、ハイレベルなロングランを敢行しました。ただ、デグラデーションはライバルよりも大きいように感じられ、そこが懸念点と言えるでしょう。
一方、ソフトタイヤを履いたキミ・ライコネンのペースも優秀で、1分51秒6で走り始めると、15周に渡って大きくペースを落とすことなく、連続走行を実施しました。その時のラップタイムから計算すると、1周あたりのデグラデーションは0.06秒と実に小さいもの。ここから判断するに、若干の懸念材料はあるにしても、フェラーリはメルセデスAMGやレッドブルと共に、先頭グループを形成することになるでしょう。
メルセデスAMGvsレッドブルvsフェラーリの三つ巴の争い。今季最も激しい、決勝レースとなるかもしれません。メルセデスAMGは金曜日から土曜日にかけて、その速さを増してくるのが常ですが、それを考慮したとしても、いつも以上にライバルとの差が小さいよう思えます。
上位3チームの後も非常に混戦。ここを争いそうなのが、フォース・インディア、トロロッソ、ウイリアムズ、それと今回新型ノーズを持ち込んできたザウバーです。ウイリアムズは1発のアタックでは振るいませんでしたが、フェリペ・マッサとバルテリ・ボッタスのロングランペースは、この第2グループの先頭に立つ可能性は十分にあります。逆に、タイムシートの6番手に名前を並べたセルジオ・ペレス(フォース・インディア)は、ロングランのペースはとても上位には敵わず、ウイリアムズやトロロッソと争うだろうと考えられます。それから、これらのチームはいずれも押し並べてデグラデーションが大きく、決勝でどんなピット戦略を講じてくるかが、勝負のカギとなるかもしれません。
タイムシート上で8番手となった、マクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソは、1発アタックでは上位との差をかなり詰めてきた印象です。しかし、ロングランとなるとまだ差はありそう。前述の2番手グループとは、0.5~1秒差というところで、土曜日の予選、そして決勝レースでどこまで前に近づくことができるのか。アロンソは「ポイントを獲ることが目標」と語っていますが、その目標にどこまで近づくことができるでしょうか? 注目したいところです。
さて、本日土曜日にはフリー走行3回目と予選セッションが行われます。大都市中心部で行われるシンガポールGPは、市街地コースであることからオーバーテイクが非常に難しく、予選結果の重要度はいつもより高まります。結末が読めないこのグランプリを、ぜひ最後までご注目ください。
(F1速報)