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Analogfishと新世代ポップバンドの接点とは? 新作アルバムの独自性を探る

2015年09月18日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Analogfish

 Analogfishが前作『最近のぼくら』から11か月というバンド史上最速のインターバルで、新作『Almost A Rainbow』を発表した。今年の彼らは上半期にYogee New Waves、下岡晃と斉藤州一郎の別バンドであるelephantでAwesome City Club、つい先日はtofubeatsと、いわゆる「新しいシティポップ」に括られる若手との2マンを数多く行ってきた。


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 もちろん、この「シティポップ」というジャンル名は完全に流行り言葉となっていて、若手のポップスに対しては何でもかんでもラベルのように貼られている状態であり、その中にはオリジナルの「シティポップ」とは似ても似つかないものも数多く含まれている。ここで改めて「新しいシティポップ」を定義すれば、それはアメリカをはじめとした海外の音楽シーンにおけるブラックミュージックの復権を背景としながらも、それを日本語のポップスとして鳴らす若手の音楽だと言える。そして、Analogfishというバンドはこれまでも常にアメリカのインディロックを中心に海外の音楽シーンを意識しながら、日本語のロック/ポップスを作り続けてきたバンドであり、彼らとのリンクが生まれるのも自然な流れなのだろう。


 近年のAnalogfishの楽曲は、ループを基調としたミニマルなアンサンブルが大きな特徴になっている。この方向性は2010年に発表された『Life Goes On』に収録されている“平行”あたりから顕著になり、2011年の『荒野 / On the Wild Side』、2013年の『NEWCLEAR』という流れで、さらに突き詰められていった。ただ、震災・原発事故以降に発表されたこの2作は、名フレーズ〈失う用意はある?それともほうっておく勇気はあるのかい〉を持った“PHASE”や、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文をはじめ、多くのミュージシャンやリスナーからの称賛を集めた“抱きしめて”など、下岡のメッセージ性の強い歌詞が重要視されていて、ループ主体の楽曲というのは「言葉を強く印象付けるために、演奏はシンプルに」という方向性の表れでもあった。


 しかし、前作『最近のぼくら』においては、「ループを基調としたミニマルなアンサンブル」をよりフィジカルに、有機的に演奏する方向性へとシフトし、それがより突き詰められたのが『Almost A Rainbow』なのだと言える。この背景には、ジェームス・ブラウンのバックバンドであるThe JB’s、さらにはMetersといった往年のファンクバンドに対する下岡の憧憬があり、さらには前述した通り、近年のアメリカのインディシーンにおけるブラックミュージックの復権がある。前作から今作にかけて、彼らがインスピレーション源として挙げているのは、BADBADNOTGOOD、Toro Y Moi、The Internetといった名前で、それぞれがジャズ、R&B、ソウルなどと強い接点を持ちながら、それを独自のサイケデリックな音像で鳴らすアーティストたち。こうした影響を消化しつつ、やはりあくまで日本語のロック/ポップスとして鳴らしているのが、『Almost A Rainbow』なのだ。


 また、「シティポップ感」という意味で重要なのは、下岡と並ぶもう一人のソングライターである佐々木健太郎の存在で、彼が昨年初頭に発表した初のソロ作『佐々木健太郎』は、山下達郎や大瀧詠一といった名前を彷彿とさせる部分を持った、素晴らしいポップスのアルバムであった。『Almost A Rainbow』においても、タイトルからして何ともらしい“Baby Soda Pop”で涼しげなメロディーラインを歌い上げているが、アレンジメントはAnimal Collective譲りのサイケなエレクトロニックサウンドになっているのがAnalogfishらしいところ。2人のソングライターが一枚の作品の中でしのぎを削りながらも、しっかりとした統一感を持って鳴らされているのは、彼らの作品の素晴らしいところだ。


 そして、本作の独自性を語る上で外せないのが、斉藤のドラムである。音数を絞り、抑制を効かせたリズムパターンは、フィジカルでありながらも打ち込みのようなジャストな心地よさも併せ持ち、バンド独自のグルーヴを形成している。そもそも彼はThe Whoのキース・ムーン、Nirvana時代のデイヴ・グロール、Weezerのパトリック・ウィルソンといったロックドラマーをルーツに持ちつつ、Fatboy Slimの“Praise You”に魅せられ、そこから打ち込みと生の同居を意識するようになったという。前述した“平行”の頃は、まさに打ち込み的なイメージだったが、近年はまたフィジカルな方向に回帰しつつあり、そのプレイは非常に個性的。アルバムの曲で言うと、トライバルな匂いのする“F.I.T.”や、ホーンセクションを配した“今夜のヘッドライン”では、抑制の効いたリズムパターンでグルーヴを生み、一方、浮遊感のあるシーケンスが印象的な“No Rain(No Rainbow)”や、ジャジーな“Walls”の後半では、非常にパンキッシュなプレイも披露。このあたり、確かにキース・ムーンからの血を感じさせるのがユニークなところだ。


 『荒野 / On the Wild Side』以降、メッセージ性の強い歌詞の印象が強かったAnalogfishだが、彼らは常に3ピースの可能性を追求し続け、音楽的にも独自の進化を遂げてきたバンドである。「シティポップ」という記号と共に、若手バンドが盛り上がりを見せる中、そことリンクをしつつ、その独創性においてはキャリアの差をはっきりと示してみせた『Almost A Rainbow』。今が彼らの音楽性を再評価する格好のタイミングであることは間違いない。(金子厚武)