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任天堂・近藤浩治氏×KenKenが語り合う、ゲーム音楽の魅力と作曲術

2015年09月17日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

任天堂・近藤浩治氏、KenKen(RIZE)【写真=下屋敷和文】

 1985年9月13日にファミリーコンピュータ(TM)(通称ファミコン(TM))向けゲームソフト『スーパーマリオブラザーズ』が誕生してから今年で30周年を迎える。これを記念し、スーパーマリオシリーズのゲーム音楽をコンパイルした2枚組アルバム『30周年記念盤 スーパーマリオブラザーズ ミュージック』が、シリーズ1作目となる『スーパーマリオブラザーズ』発売から30年後の2015年9月13日にリリースされた。


 今作の発売を記念して、任天堂のサウンドスタッフとして『スーパーマリオブラザーズ』をはじめとする数々のゲーム音楽を手がけてきた近藤浩治氏と、ゲーマーとしても知られるベーシストKenKen(RIZE)の対談を企画。KenKenは、「ミュージシャンにはゲーマーが多くて、近藤さんに会いたがってる人はたくさんいるんです。早くみんなに自慢したい!」と興奮気味に思いを吐露。対談ではKenKenがこれまでの思いの丈を伝えつつ、ゲーム音楽について、そして音楽制作について語り合っていった。(西廣智一)


■「誰も傷つけないタイプの音楽が世の中に存在するんだ」(KenKen)


──KenKenさんはもともと近藤さんのことはご存知でしたか?


KenKen:もちろんですとも。僕は『ゼルダの伝説 時のオカリナ』が大好きで、「嵐の歌」とか、あのへんのフレーズが大好きなんです。


近藤浩治(以下、近藤):ありがとうございます。


KenKen:いやあ、マジでこんな日が来るなんて思ってませんでした。すげえ緊張する!


──(笑)。近藤さんはKenKenさんのことは?


近藤:息子がKenKenさんの大ファンなんですよ。今大学生でドラムとベースをやってるんですけど、その息子から「スラップのすごい人だ」と聞いていて、「サインをもらってきてー」と頼まれました(笑)。


KenKen:あはははは(笑)。もう喜んで! 僕もあとでベースにサインをお願いします(笑)。


──KenKenさんは近藤さんに対して、どういう印象がありましたか?


KenKen:日本で一番知られてる、いや、世界中の人が知ってる曲を書く人っていう印象です。いろんな国の人が楽器でスーパーマリオの曲を弾いてる動画もたくさんあるし、一小節聴いたら曲の最後まで音楽が全部頭の中で鳴ってしまうような曲ばかりで。間違いなく世界一のキラーリフメイカーだと思ってます。僕もこの対談が決まって、久々に聴き直してみたら「あれ、全部知ってる」みたいな。そんなリフって他のどのバンドにもないんじゃないかな。自分は今年30歳になるんですけど、ちょうど生まれたときからスーパーマリオと同じ感じに育ってるんですよね。


近藤:そうですね(笑)。


KenKen:今やってるような音楽に影響を受ける前から近藤さんの作った音楽を耳にしてるのもあるので、楽器に目覚める前から好きな音楽というか。かなり刷り込まれてる感じはしますね。あと、邪気がない音楽というか。聴いていて幸せな雰囲気に包まれるんですよ。


近藤:ありがとうございます。


KenKen:僕らは「うえーっ! 猛毒ー!」みたいな音楽ばかりやってきたんで(笑)、こんなに誰も傷つけないタイプの音楽が世の中に存在するんだ、っていう印象がずっとあります。


近藤:でも、ロックには毒がないとね。


KenKen:そうなんですかねえ(笑)。あの、近藤さんはロックもお好きなんですよね。イエスとかよく聴かれていたと聞いてます。


近藤:はい。ディープ・パープルとか。中学生の頃はレインボーとかのコンサートに行ったり、みんなでバンドを組んだりしてました。


KenKen:洋楽中心だったんですか?


近藤:そうですね。あと邦楽ではナベサダ(渡辺貞夫)とかジャズも聴いてました。


KenKen:そうなんですね。近藤さんが作ってきたゲーム音楽を聴いてると、どんな音楽を聴いてきたのか想像がつかなくて。すごく幅広いジャンルの音楽を作られてるし。だけどクラシック的な要素を通ってないという話を耳にしたことがあるんですが。


近藤:そうなんです。


KenKen:僕も譜面とか書くタイプじゃないので、それにめっちゃ勇気をもらったことがあります。スーパーマリオ初期の頃は数字で打ち込んで音楽を作る時代ですよね。あの頃って音が3つしか同時に鳴らせないから、マリオがジャンプしたときに1つの音が消えたりするんですよね。


近藤:そうです、そうです。


Kenken:その話を自分がミュージシャンになってから知って、そこにすごく感動しました。『時のオカリナ』の話になっちゃうんですけど、オカリナで吹ける曲って全部白鍵で弾けるじゃないですか。そこに気付いたときに、「これを作った人はなんて人なんだ! こんな人が世の中にいるのか!」とものすごく感動したのを覚えてます。


近藤:ふふふふ(笑)。


KenKen:……尊敬してます、本当に。


近藤:いえいえいえ(笑)。


──近藤さんはKenKenさんお会いしてみて、いかがですか?


近藤:YouTubeとかでKenKenさんのスラップのすごいプレイを観てきたんですよ。僕はブラザーズ・ジョンソンとかスタンリー・クラークとかあのへんが好きだったんですけど、それ以上にカッコよくて。


KenKen:ありがとうございます! あの、曲を創造するときって、どんなきっかけなんですか? ゲームの映像に付けるんですか?


近藤:そうですね。ゲームができて、遊べる状態になってから付けます。


KenKen:なるほど。僕たちは何もないところから1を作るみたいなことばかりで、映像に対して音を作るみたいなことってほとんどしたことがなくて。なので、どうやって作ってるのかなっていつも思ってたんですよね。


近藤:僕もゼロから作るのはすごく難しいですよ。いろいろ制限があるほうが、自分にない発想へ導かれることもありますし。コンピューターで作るんで、バグで変な音が出たり自分の打ち込みミスで変な音が出たりするんですけど、「あ、これいいな」と思って使うこともあります。


KenKen:ビューティフルミステイクみたいな。


近藤:そうですね。そういうのを使うことも多いですよ。


KenKen:生演奏でもありますもんね、間違えてるほうのテイクが良かったり。


■「性能を活かしてどんな曲にするかをワクワクしながら作った」(近藤)


──ファミコン以前のゲームってゲーム中に音楽が流れるものがまだ少なかった記憶があります。そんな時代にスーパーマリオみたいな作品にゲーム音楽を付けるというお話をいただいたとき、最初はどう思いましたか?


近藤:それまでのゲームに参考になるものがなかったし、ゲーム自体がそれまでにないタイプでしたから、新しいものを作ろうっていう意気込みは強かったですね。明るく楽しい曲を作ろうと思ってやりました。


KenKen:いや、本当に明るく楽しいんですよ、全部。それがもうすごいなと思って(笑)。本当に敵を作らない音楽というか、素晴らしいことだと思って聴いてましたね。


近藤:明るい曲といっても、間にマイナーなフレーズをちょっと入れて明るいところを目立たそうというのが多いんです。でもゲームはずっと同じ調子で進んでいくので、そのマイナーなフレーズが飛んだり跳ねたりするゲームに合わなくなるんですよ。だから全体的にどこを切っても同じような長調で進めました。


KenKen:そのループ感もすごくて。創作はピアノですか?


近藤:はい。電子ピアノで、音色はいろいろ変えてました。


KenKen:ほええ、もう聞きたいことが多すぎて(笑)。ファミコンのカセット時代は数字で入力して、スーファミ(スーパーファミコンの略)からちゃんと演奏を?


近藤:そうですね、スーファミからMIDIが使えるようになったので。でも『スーパーマリオワールド』の頃までは同じように数字で入力してました。その頃には8音もあって大変だったんですけど(笑)。


KenKen:バンドって個性や色をとても大事にするんですけど、近藤さんの場合は作品ごとにちゃんと色が一貫されていて、そこがまた僕とは全然違う感じだなと思って。本当にスーパーマリオと一緒に育ってきた世代なので、常にいろんな場所で流れてたんですよね。友達の家に行っても流れてるし、家でも流れてるし。今までで一番聴いた音楽なのかもしれないって、最近気付きました。


──ファミコン以降ってゲームが普通に日常の中に溶け込んでましたからね。僕もちょうど中学生のときにスーパーマリオが発売された世代なので、あの音楽はすごく脳裏に焼き付いてます。


近藤:そんな話をお2人から聞くと、僕自身怖くなってきます。そんなに大きな影響を与えてしまっていいのかな、ちょっと間違ったフレーズもあるのになって(笑)。


KenKen:いやいや、音楽に正解はないですから。このアルバムの音源はまったくリテイクしてないんですか?


近藤:当時の音源のままです。『スーパーマリオギャラクシー』ではオーケストラそのままの音が楽しめるし、『スーパーマリオ3Dワールド』だったらビッグバンド編成の音が入ってるんで、最初のファミコン時代と比べたら想像も付かない豪華な感じでゲーム音楽を楽しめるようになりましたね。


KenKen:スーパーマリオってハードのスペックが上がったことがわかりやすく反映されてるから、これを聴いたら当時のいろんなことを思い出しそうですね。


近藤:ファミコン時代はだいぶ苦労しましたけど、スーパーファミコンになって使える音数が3音から8音に増えたことがすごくうれしくて。そして64になったらもっと音数が増えて、音色もさらに良くなって、そういう性能を活かしてどんな曲にするかをワクワクしながら作った記憶があります。


KenKen:ゲームの効果音も作られてたんですか?


近藤:はい。ファミコン、スーパーファミコンまでは効果音も作ってました。


KenKen:それもすごいことですよね! 僕、まったく別の人が作ったと思ってたから。効果音としても世界一レベルで知られてるわけじゃないですか。いやあ、すげえな。


──スーパーマリオシリーズだと、一番思い出に残ってる作品ってどれですか?


KenKen:僕は『スーパーマリオブラザーズ3』か『スーパーマリオワールド』ですね。ちょうど自分が小学生になるくらいにスーファミが出て、入学祝いに買ってもらったんです。あとゲームボーイ世代なので『スーパーマリオランド』もすごいやってた。でも全部知ってるんですよね。近藤さんは個人的に一番のお気に入りってあるんですか?


近藤:自分としてはどれも思い入れはありますけど、最初に世界の人に知ってもらえたという意味では『スーパーマリオブラザーズ』ですね。


KenKen:1作目は制作にどれぐらいかかったんですか?


近藤:制作期間は今に比べたら全然短くて、3ヶ月ぐらい。最初は青い空に緑という背景に合ったのほほんとした曲を作ったんですけど、ゲーム内でマリオがジャンプしたり走ったりする動作に全然合ってなくて。で、ゲームのリズムに合わせた曲にしなきゃいけないってことで、今のように歯切れのいいリズムにしたんです。


KenKen:確かにゲームのスピード感との相性はハンパないですよね。やっぱり連動するんですね、視覚と音楽が。当時、何人ぐらいのスタッフで作っていたんですか?


近藤:7人かな。プログラマーもディレクターも絵を描く人も全部7人でまかなって。あの頃は同時進行で『ゼルダの伝説』も作ってたんで、大変でしたね(笑)。


KenKen:へえー、すごいな。なんだか聖書の話をキリストから直接聞いてるみたい。


近藤:ふふふふ(笑)。


■「何か1つだけが秀でてるんじゃなくて、トータルバランスがすごい」(KenKen)


KenKen:普段はどんな音楽を聴かれてるんですか?


近藤:最近はダラブッカが入ったアラビア音楽が好きです。マイクロトーンというのかな、半音よりもちょっとピッチが細かい音に興味があって、よくそういうのを聴いてますね。


KenKen:それこそ昔のスライ&ザ・ファミリー・ストーンのレコードも録ってから再生するテンポを変えたりするんで、キーがEとFの間になって独特の響きだったりするんですよね。数字で曲をプログラムしてた頃って、マスターピッチみたいなものは存在したんですか?


近藤:プログラムでピッチを調整してました。微妙に変なことになることもありましたよ。


KenKen:想像付かないな、数字でピッチを合わせるって。


──スーパーマリオのメインテーマもそうですが、近藤さんの曲をベースで弾いたときに気付かされたことは何かありましたか?


KenKen:めっちゃ跳ねていて、ファンキーなリズムが多いんです。(スーパーマリオのメインテーマを口ずさみながら)「ダダッダッダダッダッ」って意外と跳ねるんですけど、そこに気付いてる人が少ないのかな。途中、斬新なフレーズが入ってることに気付かされるし、リズムの解釈も素晴らしい。何か1つだけが秀でてるんじゃなくて、トータルバランスがすごいんです。


近藤:実は僕、リズム感がすごく悪いんで、リズムにはすごいコンプレックスがあって(笑)。


KenKen:えっ、そうなんですか?


近藤:だからそう言っていただけるのはすごくうれしいですね。そういう跳ねた感じとか裏に入る感じは好きなんですよね。


KenKen:音楽を始める前から当たり前のように聴いてきたから、今でも頭の中で全部再生できるのがすごい。ゲーム音楽って本当はそうあるべきだと思うんです。だからこそ世界に広がったんだと思うし、それが音楽の力なんですよね。近藤さんはそれを初めて日本で叶えた方なんじゃないかと思います。


近藤:ありがとうございます。でも音楽で広がったというよりゲームで広がったので、みんなに楽しんでいただけたというのはうれしいですね。


KenKen:どちらか1つが欠けては成立しなかったと思うし、特に音楽の重要性を強く感じた作品だったと思いますよ。名作ってそういうものなんでしょうね。


──近藤さん、今回のKenKenさんみたいに直接反響をいただくことって今までありましたか?


近藤:それこそYouTubeとか観ると、世界中のいろんな人がさまざまな楽器でスーパーマリオの曲を弾いてくれてるので、これだけ世界に広まってるんだなと実感して、ちょっと恐ろしくなりますね(笑)。


KenKen:要は「ミッキーマウス・マーチ」と同じ感じじゃないかな。キャラクターと直結してるわけで、それって本当に素晴らしいことだと思いますよ。これからやってみたい音楽ってありますか?


近藤:さっき言ったみたいな民族音楽的なものに興味があります。あと、エレクトロとかも結構気になっていて。最近のシンセの音とかキレイなのがあると気になりますし。


KenKen:近藤さんのそういうソロアルバムがあったら聴いてみたいですね。ゲームに関係ない作品をもし作ることがあったら、ぜひ呼んでください!


近藤:ありがたいです(笑)。


KenKen:間違いなく世界中の人が聴きたがると思うし。すごいやつを作ってほしいですね。急に猛毒みたいな音楽を始めたりしてね(笑)。


──お2人が音楽を作る際、常に心がけていることって何かありますか?


近藤:マリオの場合は明るく楽しく、それとリズムをキャラクターの動きに合わせるっていうことは常に心がけてます。ゼルダの場合は特に自由で、グラフィックの世界が見たことないようなものが多いんで、だったら聴いたことないような音楽にチャレンジしてみようと思ってます。


KenKen:僕はもう、なんせリフだと思っていて。口で言えるリフっていうのがすごい好きで、それこそマリオの曲もそうだけど、子供でもすぐ口ずさめる……メロディというよりは一発の印象深いリフをどれだけ作れるかをいつも考えてます。やっぱり近藤さんから影響を受けたところって、リフなのかな。今もゲーム音楽を作るときは近藤さんが中心になって作業しているんですか?


近藤:最近は若い人たちが中心になって進めていて、僕は1曲か2曲やらせてもらうような感じです。


KenKen:きっとスーパーマリオを聴いて育った人たちが、どんどん来てるんでしょうね。僕も自分が小さい頃から聴いてた人たちと一緒にバンドをすることがあるけど、それがすごく自信につながることもあるんで。


──ではKenKenさん、『スーパーマリオブラザーズ』30周年に対してと、これからこのCDを聴いてみようという人に向けてメッセージをお願いします。


KenKen:なにせスーパーマリオとはタメなんで。男は30からってよく言いますから、スーパーマリオもさらにいろいろ楽しくなるんじゃないかな。これからも革新的なゲームをお待ちしております。そして音楽って聴いた瞬間にいろんな記憶がよみがえるんで、このCDを聴くと当時のいろんなことを思い出すんじゃないかと思います。もしかしたらまだ知らなかった音との出会いもあると思うので、ぜひ浸ってみてください。