トップへ

会社は「元社員による専門サービス」を有効活用すべし――管理部門出身者の「独立のススメ」(田代英治氏)

2015年09月16日 11:30  キャリコネニュース

キャリコネニュース

写真

大手企業の採用が佳境となり、内定を得て喜びの声をあげている人もいるだろう。「これで生涯安泰だ」と胸をなでおろしているのかもしれない。その一方で、大手企業を辞めて転職したり独立したりして、新たなキャリアに踏み出す人もいる。

東京・虎ノ門で経営コンサルティング会社を営む田代英治氏は、元は大手海運会社のサラリーマンだったが、自分の価値観で仕事ができる世界を求めて独立したという。未来の自分の働き方を考えるうえで、参考になるのではないか。

「独立後も業務委託契約」で大手企業を退職

――田代さんは独立される前、大手海運会社に20年間勤務していたそうですが、どのような経緯で退職されたのでしょうか。

田代 人事異動で2回目の人事部を担当したとき、「この仕事をこの先も続けたい」と考えました。海運会社では数年置きに異動があり、いつ海外に行くかも分からない。組織内の出世に対するプレッシャーもある。もちろん若い頃はそのつもりで入社しましたが、考えが変わったと上司に相談すると、「独立してからも業務委託契約を結んで専門的なサービスを提供してくれてもいい」と言ってもらったのです。それから12年経ちますが、いまでは25社ほどの得意先を抱えつつ、古巣からの仕事も請け負っています。

――前職ともつながりがあるのですか。そういうケースはかなり珍しいのでは。

田代 当時の上司が柔軟で、理解ある方だったのが大きいと思います。実際、ある大手企業の人事部の方に私の経歴をお話ししたときには、「当社ではまず考えられませんね」と言われてしました(笑い)。日本企業の雇用は、業務で契約するジョブ型ではなく、仲間に入るメンバーシップ型。辞めると言った瞬間に縁を切られ、ときには「裏切り者」扱いをされるので、独立後に仕事でつながりを持つことが少ないのが現状です。

――具体的には、どのような仕事を引き受けているのですか。

田代 人事部が主管する「働き方見直し」など2つのプロジェクトのリーダーを務めています。他社のケースを経験し外部の視点を持った人間が助言することで、社員にはない付加価値を提供できるうえ、元社員なので会社の事情もよく分かっている。社員との人間関係も築けているので、仕事はやりやすいです。また1回目の人事部のときに社会保険労務士の資格を取っており、社内トラブルの相談も受けています。会社から問題社員の対応を相談されることもありますし、会社との中間の立場から社員の相談も受けています。

「オペレーション経験」が長いだけでは独立は難しい

――田代さんは近著『人事・総務・経理マンの年収を3倍にする独立術』(幻冬舎)の中で、企業に長く勤めてそれなりの専門知識を蓄えた人であるならば「独立はそれほど難しくない」と断言されています。しかし人事や総務、経理など管理部門の出身者は営業やエンジニアに比べ、つぶしが利かないというイメージがあります。

田代 確かに会社独自の仕事のやり方や専門用語の違いもありますが、どの会社にでもある仕事ですし共通点も多いです。大手であればすべての仕事を社員だけで行う会社もないですし、独立によるチャンスは少なくないと思います。私も独立1年目こそ収入が半減しましたが、いまではサラリーマン時代の3倍に増えました。
理想的には業務の専門性を高めるためにも、独立前に転職して複数の会社を経験しておいた方がよいでしょう。メンバーシップ雇用の問題はありますが、ジョブで見れば複数の会社の人事畑を渡り歩くキャリアがあってもいいはずですし、外資系企業やホテル業界などでは当たり前のことです。

――とはいえ、単に在籍が長ければいいというわけではないですよね。

田代 やはり会社に在籍中に、仕事のしくみづくりに関わることが不可欠だと思います。仕事には、物事を計画する「プランニング」と、決まったことを実行する「オペレーション」がありますが、後者だけを長年続けても、身につくのはその会社のやり方だけですから独立は難しい。人事制度の見直しといった大きなプロジェクトの中で、ある目的や課題を達成するための計画を立て、実行を推進し、しくみを作ったり改革したりする経験をすると、他社の案件に対しても何をすればよいのかが分かるようになるわけです。

――閉鎖的なイメージの強い管理部門ですが、現状でもジョブの専門性を高めるために、他社の人事担当者と交流したり、勉強会をして情報交換したりすることはあるのですか。

田代 ありますよ。ただし社外に漏らしたくない情報を扱う場合もあるので、オープンな環境で運営することはできませんし、コミュニティの参加メンバーも信頼できる人たちに限られます。いまはSNSの非公開のグループを運営しているところもありますし、以前よりも情報交換はやりやすくなっています。

「元社員による専門サービス」は会社にもメリットあり

――ところで田代さんが独立する際、ご家族は反対されませんでしたか?

田代 最初はよく考えずに相談したので、予想外の拒否反応がありました(苦笑)。大企業の正社員という安定した立場を捨てるのですから当然ですよね。しかし2回目の人事部からの異動を打診されたときには、異動がなくて出世を気にしなくて済む世界しか考えられませんでしたし、業務委託契約の話もあって完全な独立ではなかったので、家族にも認めてもらうことができました。

――独立の一番の魅力は何ですか。

田代 短期的には収入もありますが、やはり「自分の価値観で仕事ができる」ということが一番ではないでしょうか。嫌な仕事は引き受けず、上司からの指図を受けずに済みます。新しい仕事に挑戦し、プロフェッショナルとして成長できるという喜びも大きいです。一方で休職制度などがないので健康や事故、家族の介護などで仕事ができなくなると、急に収入が途絶えるリスクはあります。自由と裏腹に孤独を感じる人もいるかもしれません。

――独立を考える管理部門のサラリーマンにアドバイスはありますか。

田代 私の場合は上司との信頼関係があったことが、このような働き方を実現するうえで非常に重要でした。みなさんも理解ある上司に出会ったときには、慎重に希望を伝えてみてはいかがでしょうか。ただし「自分のスキル」に「市場ニーズ」があるのか、「競争者」は多すぎないのかといったことは、それとは別に自分で見極めておくべきです。
あわせて各社の管理部門の方に言いたいのは、外部の視点を持った元社員と業務委託契約を締結して専門サービスを提供してもらうことは、会社にとってもメリットが大きいということです。会社のことをよく知らない経営コンサルタントに高額なフィーを支払っても、大したことができないことがほとんど。組織の中でくすぶった中高年たちを気持ちよく送り出し、信頼して仕事を任せるような事例がもっと増えてほしいと思います。

あわせてよみたい:予約台帳アプリ「トレタ」中村仁氏に「ブラック企業」インタビュー