バブル崩壊後の不景気な時代に社会に出た人たちからは、高度成長期をうらやましがる声を聞くことがある。しかし、当時はそんなにいい時代だったのか? 9月12日放送の「クイズ昔は当たり前!?」(TBS)を見ると、そんなイメージは眉唾だと思った。
日本の高度経済成長期にあたる1970年、会社員たちは朝から晩まで猛烈に働いていた。オフィスの壁に「売り上げ倍増」「大躍進」などと書かれた張り紙がびっしり並ぶ時代。番組では、驚愕の「モーレツ社員」ぶりを当時の映像で紹介していた。
深夜1時から営業会議。朝礼で「軍艦マーチ」歌う
日本初の本格的な歩行者天国が、東京・銀座などで実施された1970年。美女のスカートが風でめくれてパンチラする石油会社のCMから「モーレツ」が流行語となり、猛烈に働く会社員たちは「モーレツ社員」と呼ばれた。
当時のタイムカードを映した映像では、「夜は連日午前様だ。そんなすごい会社がある」というナレーションとともに、退社時間が連日午前2時台から4時台になる超ハードワークを堂々と披露していた。
朝はモーレツに混みあった通勤電車地獄で、ドアが閉まりきらないほどギュウギュウに押しこめられた電車の中で、靴やボタンをちぎられる人も多数。箱にはボタンや片方だけの靴が盛られており、一体あれをどうするのだと思う。
会社に着けば、モーレツな朝礼が待っている。軍艦マーチの節で声を揃えて歌いだすのだ。
「今年4500台/同年同量頑張ろう/達成手当を目標に/海外旅行を目標に」
朝から晩までひたすら営業。午後10時半に女子社員が退社し、11時半に営業社員が社に戻ってくる。これで終わりかと思いきや、深夜1時から営業会議だ。家に帰るのは1週間に1回だけで、「まるで出征兵士の心境だ」と無情なナレーションが続く。
確かに1970年といえば、終戦時に20歳だった人が45歳で営業の最前線に立っていた時代。「出征兵士」という表現がリアリティをもって受け取られていたのだろう。
「人間管理室」でストレス発散させられる社員たち
何のためにここまで無理のある働き方をするのか。当時のサラリーマンは「家族のためですよね」とため息まじりにコメントしつつ、「子どもに会えないのは淋しいですね」と嘆く。
こんな状態では当然ストレスもたまるだろう。社員のストレスを発散させために、ある工場では「人間管理室」なるものを設置していたという。なんと上司の顔のついたカカシのような人形を立て、部下たちが竹刀でボコボコに叩いたり突いたりしまくるのだ。
高さは150センチくらいで、ご丁寧に社長らしき人物の顔写真まで人形の近くに貼ってある。完全に悪い顔になって叩きまくる社員たちの映像とともに、「嫌なことがあったら勤務中でもどうぞ」というナレーションがシュールだった。
ニュース番組の特集のようなこれらのモノクロ映像が、どういう脈絡で撮られたのかはよく分からない。ただ「すごい会社」とナレーションをつけるからには、時代を象徴したものとして肯定的に見られていたようにも思える。当時はモーレツに働けば報われる希望があったからだろう。
手ごわい世代であると実感
しかしネットには、若い視聴者からの強い拒否反応が書き込まれている。
「モーレツ社員とかブラックってレベルじゃないし、朝礼で軍艦マーチを社畜替え歌にするの怖すぎでしょ…」
「ドン引き…。今の日本はこういう事の歪みに苦しめられてるいうかツケ払わされてんだなと」
こうした時代を経た人たちが「資源のない日本を経済大国に押し上げた」という自負で凝り固まって、女性蔑視やワークライフバランス軽視の考えを変えないでいるのだとすれば、これはなかなか手ごわいものがあると改めて感じた。(ライター:okei)
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