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『ラブライブ!』『アイマス』『アイカツ!』劇場版の方向性はどう異なるのか?

2015年09月14日 12:22  リアルサウンド

リアルサウンド

『アイカツ!ミュージックアワード』公式サイト

 近年は洋画流行りであり、この夏も『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とか『ジュラシック・ワールド』とか、人々が「あれ見た?」と噂したくなる的な作品が目白押しでした。一時は邦画ブームなんて言われたこともありましたが、最近はまあ3Dとか4Dとか映像スペクタクルのスゴさが話題を呼ぶところがあって、人間ドラマ重視の邦画ではそりゃ分が悪いのもわかります。


参考:『ラブライブ!』映画はなぜロングヒットした? さやわかが作品の構造から分析


 しかしそんな中で、日本の映画でわりと評判になったのがアイドルもののアニメ『ラブライブ!』の劇場版です。そもそも公開初週は日テレが3ヶ月くらい前から入念に宣伝を仕込みまくり、主演は今をときめく女優4人という『海街diary』の公開と重なっていたのですが、それをあっさり抜き去ったというので大注目を浴びたわけです。しかしそんなのは序の口であって、今や興行収入が24億とか超えちゃったわけですから、『海街diary』と比較すること自体がアレだったのかなというところであります。


 とはいえ劇場版『ラブライブ!』は前売りチケットに特典が付いていたり劇場で限定グッズが買えたりする特典商法が目立っていまして、まあ現実のAKB48みたいなアイドルと同じアコギな商売じゃないかい、という人もいるんですが、どっちみち映画館で映画を見るのなんてディズニーランドに行くのと大差ないイベントなわけです。なので冒頭に書いた3Dだの4Dだのの仕掛けもそうですが、映画館のオープン前から並んでグッズを買いに来る輩がいたところで、それが夏の思い出ならそれでいいんじゃないか。……という開き直りを全力でやっているところが『ラブライブ!』の素敵なところです。アニメ自体もそうなのですが、このアニメを、このキャラを応援すること自体が楽しくて、この映画を見に行くこと自体が楽しいという作品の位置づけは、やっぱりAKBのようにライブ主体となった今どきのアイドル文化を徹底的に模倣しているのだなあと思わせます。


 ちなみにアイドルアニメとしては今年で10周年となる『THE IDOLM@STER』(アイマス)も実は劇場用アニメを作っていて、こちらは昨年の冬に公開されたんですけど、こっちは興行収入6.7億。しかしまあ、いっぱい稼いでるから『ラブライブ!』のほうがスゴいんだとは言い切れないわけで、なんでかというと作品の方向性が全く違うからです。前述のとおり『ラブライブ!』は、劇場に行くこと自体を楽しみにしてしまうことで、一度見たお客さんが何度も足を運ぶ=ヒットにつながるという仕組みを作ったわけです。これに対して『アイマス』のほうは作品性を重視している。ファンの中には「キャラアニメとしてしっかりしてくれれば十分。しっかりしたストーリーとか不要」という猛者もいるにはいるんですが、少なくともテレビシリーズの頃から制作陣は内容で勝負したがっている。だからこそ「劇場版」ともなれば気合いの入ったものを作るのが当然とばかりに、件の劇場版「アイマス」は冒頭に書いたような、邦画っぽさを感じさせる端正な人間ドラマをやるわけです。だから、そういうモノとしてはすごくよくできている。そこはやはり『ラブライブ!』よりも一日の長があるわけで、アイドルアニメだと思ってナメんなよ、という制作陣の声が聞こえてきそうであります。


 そういやアイドルアニメの三巨頭の最後の一角である『アイカツ!』も、方向性という話ではまた全然違うスタイルの劇場版をやっております。こちらはざっくり言うと女児向けカードゲームが収益の柱になっている作品なので、前売り券がカードとして使えるみたいな特典商法をうまくやっています。となると『ラブライブ!』に近いのかなと思いきや、カード自体にコレクション性があるわゲームで利用できたりするわで、けっこう即物的。女児向けアニメのほうがイベント性よりも物欲重視というのはわりと面白いところです。ちなみに「アイカツおじさん」なる成人男性のファンが買い漁っているという噂もありますが、制作元としては女児向けであるという姿勢を頑なに貫いていますので、あまり突っ込まないであげるのがたしなみというものです。


 そんなわけで一口にアイドルアニメの劇場版といっても、いろんなパターンで作られているのがわかります。考えてみれば前述の『アイカツ!』なんかは公開時期を考えると実は前述の『ラブライブ!』『アイマス』と競合しているんでが、それぞれに棲み分けているので、現実のアイドルのようにファンの奪い合いになったりすることも少ないものと思われます。要するにそれぞれがっちりと固定ファン層をつかんでいるわけですね。まあ、だからこそ、洋画ブームの昨今でもアイドルアニメが邦画として頭一つ抜きん出ることができたりしてるんだなあというところであります。(さやわか)