芥川賞を受賞して注目のお笑い芸人・又吉直樹さんが以前からMCを務めているNHK Eテレの「オイコノミア」は、経済学をわかりやすく解説してくれる番組。9月7日放送のテーマは「賢い副業」でした。
街で800人のビジネスマンに訊いてみると、なんと5人に1人は副業をしているとか。とはいえ、副業に時間を取られると本業がおろそかになるし、給料をもらっている会社の手前、リスクは冒したくないという人は多いことでしょう。しかし副業はリスクどころか、「リスクを下げる有効な手段」なのだそうです。
複数のスポーツをやるのが当たり前の米国
番組では、「失敗の少ない副業」について日本大学・准教授の安藤至大先生が経済学的に教えてくれました。まず、リスクとは何か。一般的に「危険」というイメージがありますが、経済学でいうリスクとは、「結果にバラツキがあること」だそうです。
ある日社長に呼ばれて「ジャンケンで勝ったら25万の月給を50万円にする。負けたら0円」と言われたとすると、結果にバラツキがあるので「リスクがある」状態です。ジャンケンしないで25万の月給をもらえば、リスクはありません。
面白いのは、橋から飛び降りて確実に死ぬと予測される場合は、「危険」であっても「リスクは少ない」状態なのだとか。結果の良し悪しではないのです。
経済学では副業を持つことは「リスク分散」につながるといいます。例として、若い頃から始めるスポーツの日米の違いをあげていました。日本では、小さい頃から野球だけサッカーだけなど「この道一筋」が普通です。
しかしこれはリスクが高いやり方。野球だけやっていたら、野球が「向いている」か「向いていない」か、どちらかしかありません。まるで「副業厳禁」の会社で働く日本のサラリーマンのようです。
一方、アメリカの高校では1人で複数のスポーツをやるのが一般的。これにより、野球は向いていなかったけどサッカーは向いていた、などの結果が得られるためリスクが小さくなるのだそうです。
「何を・なぜ・いつ・どこで」をチェックすること
安藤先生はこれを踏まえて、「本業への一点投資はリスクが高い。副業は他の事ができるというメリットが考えられる」と解説。これを「分散投資」というそうですが、そう考えると、むしろいまの時代、副業をしないほうが高リスクと言えるかもしれません。
ただし「失敗しない副業」のポイントとして、「何を・なぜ・いつ・どこで」をチェックすること。特に「なぜ」という目的があいまいだと、せっかくの労働が水の泡になる、とのアドバイスでした。
ゲストの高田延彦さんは格闘家として成功を収めていますが、今まで多くの飲食店を開いては潰してきたそうです。始めた動機は「オレが食べたいから」との事ですが、「リタイアした選手の受け皿になりたい」という思いもあり、意外と時間・ストレス・お金がかかり、本業に悪影響を与えたそうです。
「楽しさ」を求めて始めたものの、他の目的も加わり楽しさにブレが生じたことが敗因です。本業に影響のない時間(いつ)・立地(どこで)も併せて考えたほうがいいと、安藤先生は指摘します。
又吉さんは若手の頃、コンビニのバイトは週2・3回にとどめていたそうです。週5日バイトする人は、生活の質は上がるがネタを書く時間が少なくなる。つまり本業の成功に重点を置き、副業は「生活のため」とはっきりしていたのです。
「年間通すと、芸に費やした時間がだいぶ変わってきますよね」
本業とのバランスを考えながら楽しくやること
ちなみに又吉さんは、芥川賞を受賞して以来「お笑いと文章書くこと、どっちが本業ですか?」と訊かれるそうですが、「両方本業」とのこと。ネタを書くことも小説の執筆も「創作活動」として同列なのですね。
時間を本業に絞れば、リスクは分散されませんが、本業への集中度は高まるわけですから、「副業をやれば将来安泰」とならないところが難しいところです。
副業は、やはり本業とのバランスを考えて、自分なりのベストなペースを見つけることが肝心。安藤先生も「気軽に、楽しく」やったほうがいいと言っていました。(文・篠原みつき)
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