SF第5戦オートポリスの決勝レースは、上位陣のコース上でのオーバーテイク・バトル、という派手な展開ではなかったが、ピットストップの心理戦、駆け引きという、玄人向けなレース展開となった。そこで、各チームどんな戦略を採ったのか、まずは上位10台のピットストップでのタイヤ交換本数を比べてみた。
1 中嶋一貴 0本/無交換
2 石浦宏明 2本/フロントのみ交換
3 小林可夢偉 4本交換
4 平川亮 2本/リヤのみ交換
5 J-P.デ・オリベイラ 4本交換
6 J.ロシター 0本/無交換
7 山本尚貴 4本交換
8 国本雄資 2本/リヤのみ交換
9 中嶋大祐 0本/無交換
10 野尻智紀 0本/無交換
上位10台で0本が4台、リヤの2本のみが2台、フロントの2本のみが1台、4本交換が3本と、4パターンのタイヤ交換が万遍なく行われており、昨今では珍しいストラテジーとなった。無交換でも走り切れるライフがあったわけだが、替える理由/替えない理由、そこはチーム事情や展開によって選択が変わっていった、いくつかの事例を元に、その理由を探った。
「もう1周引っ張れたかもしれないけど、あの周回数(44周終わり)がギリギリでした」と中嶋一貴担当の小枝正樹エンジニアが話すように、基本前提としては、今回はフルタンクの燃料を搭載していてもおよそ8周分前後の燃料が足りなかった。8周分の燃料をピットで給油するには約7秒の給油時間が必要になる。また、タイヤ交換としては7秒あれば前後、どちらかのタイヤを変えることが可能で、タイムロスはほとんどない。4本交換の場合、今回は山本尚貴が11秒8という驚速タイムで交換したが、事前には13~14秒と予想されていた。
タイヤを交換しなかったりドライバーの理由は極めて単純、「タイヤのデグラデーション(タレ)がほとんどなかった」(ロシター)ことだ。実際にはタレていても、2本でも4本でもタイヤを交換することによって、アウトラップでタイムをロスしてしまう。そのピットでのロスタイムと、無交換によるアウトラップでのタイムのロスを天秤にかけて戦略を練ることになる。
リヤのみの交換に関しては、このオートポリスのサーキットの特性によるところが大きい。ジェットコースターストレート後の第3セクターはずっと登りになるためリヤタイヤへの負荷が大きいためだ。今回は2番手を走行している石浦宏明がフロントタイヤのみの2本交換を行ったが、これはかなりレアなケースだと言える。石浦はスタートで前を一貴、可夢偉に奪われ3番手となって序盤は周回していたが、村田卓児エンジニアが「可夢偉の後ろになったことでダウンフォースがフロントで得られず、フロントタイヤへの負荷が大きくなってしまった」とことが原因のようだ。チームは無線で石浦と何度も確認し、最終的には石浦がフロントタイヤのみの2本交換を決断した。
4本交換はある意味、正攻法の戦略とも言えるが、デ・オリベイラのように「ヘアピンでタイヤを大きくロックさせてしまいフラットスポットができてしまった」という、アクシデント対応のケースもある。いずれにしても、どのチームも、基本的には最終決定は乗っているドライバーが決断する。
レース終盤、白熱した接近戦のトップ争いでトップの一貴、そして2番手の石浦はそれぞれ4つのタイヤ選択の可能性があった。一貴担当の小枝エンジニアが述懐する
「最終的にはドライバーが決めましたが、 フロントだけを替えるという選択肢もありました。フリー走行ではリヤも含めて2本だけ替えた状態では走っていません。だからいきなり実戦で替えてもしょうがないし、以前、リヤだけ替えたりフロントだけ替えたりしましたが、あまりいいイメージを持っていないんです」
この小枝エンジニアの感触はコース上の一貴も同じように感じており、クルマのバランスを重視して2本交換を選択肢から外し、0本か4本のどちらかに絞り、最終的には残り周回数と相手とのギャップを考慮して無交換を選んだ。
「(石浦車のフロントのみの交換を見て)そう来るか、という気がしましたけど、それでクルマのバランスがどうなるのかなと。燃費的な絡みもあって、残り周回数が少なかったのも救いだったのかなと。でも、クルマは向こうの方がちょっとづつ速いのかなと思います」と、小枝エンジニアが振り返るように、コースを走るドライバーとピットのエンジニアの二人三脚の戦いが今回のレースの大きなポイントになった。