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YEN TOWN BAND、12年ぶり復活ライブで見せた「新しい可能性」とは? 柴那典が現地レポート

2015年09月14日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

photo by Yoshiharu Ota

 YEN TOWN BANDが約20年ぶりの新曲「アイノネ」をリリースする。1996年に公開された岩井俊二監督による映画『スワロウテイル』に登場し、Chara演じる主人公・グリコがボーカルを務めた架空のバンドが、“現実世界”での本格的な活動を開始することとなった。


 9月12日、新潟・十日町市で開催された『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2015』で12年ぶりとなる復活ライブを行ったYEN TOWN BAND。


 「アイノネ」はこの日に初披露された楽曲だ。


 85万枚を超えるヒットを記録した代表曲「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」、オリコン1位を記録したアルバム『MONTAGE』と共に90年代を席巻したYEN TOWN BANDは、なぜ今の時代に復活を果たしたのか? そしてこの先にどんな展開を見せていくのか? そんな観点から、この日に行われた復活ライブ「大地の芸術祭 2015 YEN TOWN BAND @NO×BUTAI produced by Takeshi Kobayashi」をレポートしたい。


 2000年から3年に1度開催され、現在では世界最大級の国際芸術祭となった「大地の芸術祭」。この日のステージは、その会場の一つである新潟県十日町まつだいの「農舞台」だ。そもそも小林武史がYEN TOWN BANDの再始動に思い至ったきっかけも、「大地の芸術祭」の総合ディレクター・北川フラムに声をかけられたことにある。グローバル化が進み経済合理性が重視される風潮へのアンチテーゼとして、過疎の集落を開催エリアにする芸術祭と、貨幣をテーマにした映画で架空の街「円都」(=YEN TOWN)を舞台に活躍したYEN TOWN BANDのあり方に、共通のものを感じ取ったのだという。いくつかのインタビューでも、単に過去を懐かしむための復活ではないことを強調している。


 そんな意味が込められた、一夜限りのライブ。それは、息を呑むような特別な体験だった。


 「農舞台」の特設ステージは円形で360度を見渡せるようになっている。その周囲を争奪戦となったチケットを手に入れた約1000人の観客が取り囲む。後ろ側には里山の自然が広がり、森や棚田の光景と、そこに展示されたアート作品が目に入る。


 開演時間となり、大歓声の中、小林武史とバンドメンバー、そしてCharaの計6人が登場。SEから、ドラム、ベース、ギター、キーボード、コーラスという編成で向かい合った5人のセッションを経て、Charaが中央に立つ。最初に歌ったのは「Sunday Park」だ。ピアノとギターのシンプルな演奏に乗せて彼女の神秘的な歌声が響いた瞬間、その場の空気がガラリと変わる。


 「Sunday Park」からロックテイストの「Mama's alright」へと続け、歌い終えたCharaは「久しぶり、YEN TOWN BANDです」と声をかける。そして、コケティッシュな「上海 ベイベ」を経て、この日初めてのMC。「みんな元気ですか? グリコです」と名乗る。拍手と歓声がそれに応える。純白のドレスに身を包んだ彼女は、終始、映画の中で『スワロウテイル』で演じた主人公の娼婦兼シンガーとしてステージに立っていた。そのことも強く印象に残った。


 「次の曲は、グリコが会ったことのないお母さんに向けて書いた曲です」と披露した「小さな手のひら」に続いては、映画の中でも重要な位置付けとなっていたフランク・シナトラのカバー「My way」。そして「まだタイトルは決まってないけれどーー」と披露した新曲。照明が暗くて歌詞が見えなかったのか、Charaが途中で演奏を止めて歌い直す場面もあったものの、思わず引き込まれるような壮大なバラードにオーディエンスが酔いしれる。


 終盤には、この場所ならではの“自然の演出”も生まれていた。日が暮れてあたりが暗くなる。「これが蝶々だったらいいのにね」とCharaが笑う。照明の光に大量の虫が集まっていたのだ。曲を追うごとに蛾やカゲロウの数は増し、まるで紙吹雪のように舞う沢山の羽根に青や緑のライトがあたって、異世界のような幻想的な光景が生まれていた。


 クライマックスとなったのはラスト2曲だ。「沢山の愛、多様な愛がこの世界にあればいいなという願いを込めた曲です」と小林武史が語り、新曲「アイノネ」を披露する。シンプルだが力強いビート、そして包容力あるメロディが強く印象に残る。新たな時代のアンセムになりそうな一曲だ。そして最後は「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」。アナログシンセのイントロから喝采が起こり、曲を終えるとステージを大きな拍手と歓声が包む。Charaがオーディエンスに手を振り、満足気な笑顔で全員がステージを降りたあとも、しばらく拍手は鳴り止まなかった。感動的な余韻を残して、ライブは終了した。


 単なる復活劇ではない。約20年の時を経て、架空のバンドに新たな“命”が宿った。そんな確信を抱くようなライブを彼らは見せてくれた。アルバム『MONTAGE』の収録曲は今も古びていないし、この日披露された新曲は、バンドの新しい可能性を強く感じさせてくれるものだった。


 新曲「アイノネ」は、5つのラジオ局による共同キャンペーン「JFL presents FOR THE NEXT supported by ELECOM」のテーマソングとして使用され、10月から全国5都市で開催されるライブイベント「JFL presents LIVE FOR THE NEXT supported by ELECOM」への出演も発表されている。


 物語はまだまだ続く。その先行きに大きな期待の高まる一夜だった。