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町山智浩『キングスマン』トークショーに登壇「負け犬が大成功する世界を描き続けている」

2015年09月13日 22:31  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

 『キックアス』のマシュー・ヴォ―ン監督が手がけたノンストップ・スパイアクション映画『キングスマン』が、9月11日より全国公開されたことを記念して、映画評論家・町山智浩氏をゲストに迎えたトークショーイベントが、9月13日にTOHOシネマズ六本木ヒルズで開催された。


参考:スパイ映画『キングスマン』の見どころは? キャスト、プロット、アクションの魅力を解説


 本編上映後、町山智浩氏は本作の主人公たちのファッションにちなみ、スーツ姿で登場。「アレは日本でやったら大変ですよね(笑)、よくスウェーデン人は怒らなかったな(笑)」と、主人公エグジーとスウェーデン王妃キャラクターによるブラックジョーク溢れるラストシーンについて切り出し、作品を観たばかりの客席は大爆笑。


 全米では今年2月15日に公開され、全世界で4億ドル(全米では約1億2800万ドル)の大ヒットを飛ばした本作。全米公開時のタイミングで本作を鑑賞したという町山は「アメリカというのは西海岸、東海岸、そして中央部と、地域ごとに様々な思想の人がいます。本作のサミュエルL・ジャクソン演じる敵役ヴァレンタインは、西海岸の金持ち、かつ左寄り(左翼的思想)な人間として描かれていますよね。けど、一方で、この映画には右寄り(右翼的思想)な人種差別主義者を一網打尽にするシーンがあったりもする。結局『左も右もやってしまえ』って感じなんですよね(笑)』とコメント。


 劇中に散りばめられた数々のスパイ・オマージュについては、「『007」シリーズへの嫌がらせみたいなものですね(笑)。(本作の監督)マシュー・ヴォーンは、『007 カジノ・ロワイヤル」の監督をやりたかったんだけど、企画コンペでオチてしまった。けど、とにかくやりたくてやりたくてしょうがないんだと思う。つまりこの映画は“嫌がらせ兼ラブコール”みたいなものじゃないかな』。


 また、「イギリスは階級社会で、貧富の差が激しい。本作はそういったものへの怒りも描かれている気がする。最終的にスパイとして『キングスマン』の一員となる主人公エグジーは、低所得者層だけれど、劇中に『Mannars Maketh Man』というセリフが出てくるように、身分ではなくマナーこそが人間をつくっていくんだと、そういった思想を感じました」と分析。「原作のマーク・ミラーは、彼自身が貧乏すぎて大学に行けなかったというのがあって、過去作品の『キック・アス』や『ウォンテッド』でも、恵まれない貧乏人が(自己実現を果たし)なりたいものになれる、世間から負け犬と思われている人が大成功するというような世界を描き続けているんですね」と、作品の根底に流れるテーマについて持論を展開。


 さらに、各シーンで使用される印象的な音楽について、「例えば (アメリカ南部の教会での大バトルシーンで使用されている)レーナード・スキナードというバンドの曲『フリー・バード』は、アメリカの田舎の人たちにとって非常に馴染みが深く、いわば「君が代」的な曲。そんな曲をド派手なバトルシーンに合わせることで、もはやギャグとして描かれている」と続ける。


 最後は「(この映画はいろいろとシャレの効いた下品な表現も多いが)だけど『007」シリーズも初期の頃は(女性キャラクターとの会話のやりとりなど)下品な表現が多かったとマシュー監督も語っているんですよね。だからそういった部分も含めて、本作はじつに色々なオマージュを捧げていますよね」と締めくくった。(リアルサウンド編集部)