石浦宏明(P.MU/cerumo・INGING) 石浦宏明(P.MU/CERUMO・INGING)が2番手の小林可夢偉(KYGNUS SUNOCO Team LeMans)を約コンマ4秒差引き離して2戦連続のポールポジション(PP)を獲得した。午前中の練習走行ではトップの中嶋一貴(PETRONAS TEAM TOM'S)から14台が1秒以内という順位だったことを考えると、現在のスーパーフォーミュラで2番手にコンマ4秒差をつけるのは、可夢偉の言葉を借りれば「異次元」の速さといえる。
3番手の中嶋一貴車を担当する小枝正樹エンジニアも今回の予選を以下のように振り返る。「Q2からQ3に向けてセットアップを少し変えて、それがちょっと裏目に出た部分があるかな。ただ、そこが良くなったとして石浦選手のタイムが見えたかというと、そこは分からない。うまく行けたとしてもあとコンマ2秒くらいのアップですので……とにかく、石浦選手が速いですね。クルマ、セットアップ、全部がハマっている印象がある」
一方、石浦車を担当する村田卓児エンジニアは、石浦が会見で話したように、「今の路面コンディションにセットアップが合っていなくて、変えたくなるけどQ3では路面が変わって合うだろう、という前提で我慢できたのがよかった」と振り返る。実際、石浦は午前のフリー走行では電気系のトラブルでコース上でストップし、ECUを変えて修復。セットアップの確認も最低限のまま予選に臨み、Q1では1分27秒284でトップを奪い、Q2ではコンマ2秒縮めて1分27秒082、Q3ではさらにコンマ4秒縮めて1分26秒633と、セットアップをまったく変えずに、路面状況が良くなるごとにタイムアップしていって圧倒的なタイム差でPPを獲得した。
石浦の突き抜けたPPタイムには、村田エンジニアも「特別なことをしているわけではない」と繰り返す。基本のセットアップも昨年のオートポリスとベースは同じで、そこから今年用に「ほんのちょっと」味付けを加えているだけという。強いて言うなら「石浦の体重がダイエットの効果で昨年より5~6kg軽くなって、その分、バラストを載せ替えて重量配分がよくなったくらい」なのだとか。今の僅差のスーパーフォーミュラでの5~6kgは大きな違いになるのかもしれないが、それだけで今回のコンマ4秒差が付くとは考えづらい。もちろん、ダイエット効果もあるだろうが、ライバル陣営も認めるように、「今の石浦は乗れている」、「手がつけられない速さ」という、ドライバーの進化による部分が大きいのかもしれない。
その順風満帆な石浦と対照的なのが、昨年のこのオートポリスでPPを獲得した山本尚貴(TEAM 無限)だ。昨年、ちょうど1年前の9月13日の予選で、山本尚貴は1分26秒469のコースレコードタイムでPPを獲得している。今回の予選の石浦のPPタイムよりコンマ2秒速いタイムだ。だが、今回の山本は予選Q2で1分27秒790と昨年より1.3秒遅いタイムでノックアウトされてしまう。予選後の山本は「持ち込みのセットアップは去年とまったく同じにしたのに、感触が全然違った」と首を捻る。もちろん、路面コンディションの違いやエンジンの改良など昨年とは環境が同条件ではない。とは言え、昨年のポールシッターが1.3秒も遅いタイムでしか走れず、昨年のデータが箸にも棒にも掛からないというのは、不思議としか言いようがない。
山本は今年の開幕戦の鈴鹿でPPを獲得して第2戦の岡山でも3番手になっているが、3戦目以降はそれまでの活躍が嘘のような不振に喘いでいる。石浦の圧倒的な速さ、そして山本の謎の低迷……変化を呼び寄せたのはモノの違いなのか、それともヒューマンな部分なのか。これまでタイム差が拮抗していたスーパーフォーミュラで今、何か新しい局面は訪れているのかもしれない。ダラーラ製のSF14と今のスーパーフォーミュラは、まだまだ奥が深そうだ。