2012年に復活を遂げ、依頼着実に注目度を高めてきたFIA世界耐久選手権。“WEC”と呼ばれるこのスポーツカー耐久レースのシリーズは、今やアウディ、トヨタ、ポルシェらが参戦し、盛り上がりを見せている。その日本ラウンドが、10月11日(日)に富士スピードウェイで行われる。
そのWEC富士ラウンドを満喫するための基礎知識として、WECそして参戦チームの歴史、そして今年のWEC富士ラウンドの見所を、7回にわたる連載としてお届けしていく。
WECは、F1、WRC、WTCCなどと並び、FIAが統轄する世界選手権シリーズ。その中でも、途中空白期間があるとはいえ、F1に次いで長い歴史を誇る。今のWECは、ドライバーズタイトルとマニュファクチャラーズ(製造者)ランキングが懸けられているが、このカテゴリーが設立された当初は、ある明確な“目的”の下、レースが行われていた。
1950年、自動車を使ったある“世界選手権”が立ち上げられ、イギリスのシルバーストン・サーキットで第1回目のレースが行われた。F1世界選手権である。当時のF1は、レギュレーションがまだ緩く、エンジンは1.5ℓ過給器付きもしくは自然吸気4.5ℓと定められていた程度。マシンの最低重量も規定されていなかった。さらに、レース中にマシンを乗り換えることもでき、なんとインディ500も全く違うレギュレーションながら、“F1世界選手権”のうちの1戦として数えられていた。つまり、黎明期のF1は、ドライバーのための選手権という意味合いが強く、現にドライバーズタイトルのみが懸けられていた。アルファロメオ、フェラーリ、マセラティ、メルセデス……といった名だたるメーカーのマシンが走っていたにも関わらず、マニュファクチャラーを讃えるタイトルはなかったのである。
このF1に対し、マニュファクチャラー中心の選手権として1953年に立ち上げられたのが、世界スポーツカー選手権である。セブリング12時間レースで開幕したこの選手権シリーズは、2シーター、ドア付き、タイヤ露出不可というレギュレーションの下発足。初年度から盛況を極め、セブリング(アメリカ)の後はミッレミリア(イタリア)、ル・マン24時間(フランス)、スパ24時間(ベルギー)、ニュルブルクリンク1000km(ドイツ)など、現在もお馴染みのコースでレースが行われた。そしてフェラーリ、ジャガー、アストンマーチン、ランチア、アルファロメオ、ポルシェ、マセラティ、タルボ、ゴルディ二などのマシンが参戦し、フェラーリが記念すべき初代チャンピオンに輝いている。
この世界スポーツカー選手権はその後名称変更を繰り返し、主役となるマシンもGTカー、市販ベースのスポーツカー、グループCカー、プロトタイプカーなど、との時々に応じて変化していった。
世界スポーツカー選手権の系譜を受け継いだレースが日本に初上陸したのは1982年、富士スピードウェイである。この時の選手権名は“WEC”であり、ジャッキー・イクスとヨッヘン・マスがドライブするポルシェ956が6時間を走り切って優勝。その後年にはステファン・ベロフ(1983/1984年)、マーティン・ブランドル(1988年)らが、日本で優勝を果たしている。また1985年には星野一義、松本恵二、萩原光の日本人トリオが乗るマーチ85Gニッサンが優勝を果たしている。
1989年から、開催地は鈴鹿サーキットに移動(この時のシリーズ名は世界スポーツプロトタイプカー選手権、略称WSPC)し、1992年まで行われている(1990年からはスポーツカー世界選手権、略称SWC)。1991年にはオートポリスでもレースが行われている。つまり、なんとシーズン中2戦が日本で開催された(ちなみにこのオートポリスの勝者は、ミハエル・シューマッハーとカール・ヴェンドリンガー組のメルセデス)。
世界的な不況と、レギュレーションの変更などにより、参加台数は徐々に減っていき、1992年には出走台数が10台に満たないこともあった。結果、この年を限りにSWCは消滅。ル・マン24時間などは引き続き行われたが、世界規模のスポーツカーによる選手権シリーズはなくなってしまった。
しかし2010年、ル・マン24時間レースを主催するフランス西部自動車クラブ(ACO)が中心となり、インターコンチネンタル・ル・マン・カップ(ILMC)が発足。FIA(国際自動車連盟)主導の選手権シリーズではないものの、1年目はイギリス、アメリカ、中国、2年目はベルギー、フランス、イタリアが追加され、事実上世界選手権シリーズとも呼べる内容だった。同シリーズに参戦していた代表的なメーカーは、プジョーとアウディ。この2者による一騎打ちの様相を呈していた。
2012年には、ACOとFIA(国際自動車連盟)が協力体制を築き、ILMCを引き継ぐ形でFIA世界耐久選手権(WEC)が発足し、現在に至る。残念ながら前年限りでプジョーは撤退してしまったものの、入れ替わる格好で参戦を開始したのが、トヨタである。シーズン開幕当初はアウディに太刀打ちできなかったものの、第5戦インテルラゴス(ブラジル)でWEC初優勝。富士と上海の終盤2戦にも勝利し、初年度から好成績を残した。WEC2年目となる2013年シーズンは、アウディが底力を見せて8戦中6勝。2014年シーズンは一転トヨタが速さを発揮し、念願のWECで初のタイトルを獲得した。この2014年シーズンからは、ポルシェがWECへの参戦を開始。ポルシェといえば、かつてスポーツカー耐久シリーズを席巻したメーカーであり、参戦初年度から速さを見せた。
現在WECには、レース専用のプロトタイプカーのクラスでありメーカーワークスチームが参戦するLMP1、プライベーターチームが中心で、車体の価格上限が設定されているLMP2、GTカーによるプロドライバー同士の戦いであるGTE-プロ、同じくGTカーのクラスながらアマチュアドライバーをラインアップに加えなければならないGTE-アマの、全4クラスが設けられている。それぞれのクラスで熾烈な耐久戦が行われるWEC。そして今年も、まもなく富士スピードウェイにやってくる。