タクシー激戦区の東京都内で頂上決戦を続ける、業界大手の日本交通と国際自動車(km)。いま、この2社が競うように大学新卒者の採用活動を行っている。
9月8日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、苦戦を強いられるタクシー業界にあって、生き残りを賭けて規模の拡大を図る2強の熾烈な戦いを取材した。
業界2位が「新卒109人」の採用に成功
全6456社の約6割が赤字経営と、苦戦を強いられているタクシー業界。国の規制緩和政策に翻弄された上に、ドライバーの高齢化や人材不足、サービスの質の悪化なども理由として挙げられる。
そんな中、日本交通やkmは中小タクシー会社を次々に買収し、売り上げを伸ばしている。業界1位の日本交通3代目・川鍋一朗社長(44歳)は、危機感と決意をこう語る。
「10年後には、3分の1のタクシー会社がなくなると思う。自分は絶対になくなる側には立ちたくないと思って、日々必死にやっている」
一方のkmは今年4月、大学や専門学校から109人という大量の新卒者採用に成功した。ドライバーの若返りと質の高いサービスを提供する目的だ。
25人と大きく遅れをとった日本交通は、来年度(2016年)の採用目標に100人を掲げる。川鍋社長は「絶対抜けない相手じゃないんで、抜くぞと」と眼光鋭く言い放つ。
5月中旬、東京・新宿で200社が参加する合同会社説明会で、両トップが鉢合わせて握手する場面も。日本交通・川鍋社長はkmの藤森副社長に、自社の新入社員から「km落ちました」と明かされたことを笑いながら告白していた。
「もう必死ですよ。kmさんに追いつけ追い越せで。お手柔らかにお願いします」
保護者説明会で「親の不安」払しょくを試みる
現時点での業界トップは日本交通だが、kmは来年度150人の新卒採用を宣言。2位の追い上げの凄まじさをうかがわせる。
日本交通の採用担当者の中間報告では、一次面接で内々定を通知したのは190人、承諾書まで貰えたのは57人と目標には遠く及ばない。去年は承諾をもらえた学生の3割に逃げられた。「新卒メンバーは明日への希望」と語る川鍋社長は、なりふり構わず自ら動く。
内定辞退の理由に「親からの反対」が多かったため、今年は内定を出した学生の親を招いた説明会を開催。自ら説明に立った川鍋社長は、健康面を重視している点など懇切丁寧に説明し、親たちの不安を払しょくしようと試みた。
さらに、内定を出した学生を招いて懇親会を開催。川鍋社長は学生たちと固い握手を交わしていた。新卒100人獲得に向けた戦いは、来年3月まで続く。
「今までまったく新卒を採らなかったのが、4年前から採り始めた。日本経済の中で珍しいポジションにみんながいる。だからやりがいがある」
新人研修を充実。セクハラ対策も
社員研修でも、新人を大切にしている様子がうかがえた。kmでは自転車で都内の客の多い場所を細かく案内して回り、26人の女性社員にはセクハラ対策の研修もある。「カリスマドライバー」と呼ばれる社員が客獲得のノウハウを講習、ひとり一人に実地で訓練もして落ちこぼれを作らない。
日本交通でも講習はもちろん、客の多い場所を特定する独自のアプリを開発して各乗務員の売り上げアップを目指す。川鍋社長は「新人ドライバーでもカリスマを超えられる」と自信を語った。
タクシー運転手は単なるクルマの運転ではなく、営業やサービス業・運転技術など様々な技能が要求される仕事で、能力によって収入に開きが出るのももっともだと感じる。都内タクシードライバーの平均年収は390万円というが、「カリスマドライバー」は洗練された物腰と話し方で隙がなく、年収800万円も肯けた。
大卒でタクシードライバーという選択はなかなか勇気が要ると思うが、ここまで懇切丁寧に育てている様子を見ると、さんざん「即戦力じゃないとだめ」という言葉を聞いてきたあとでは選択肢の一つとして悪くないような気もした。(ライター:okei)
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