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『Mステ』はなぜ生き残れたのか? 光GENJIやSMAPなどジャニーズ出演陣から読み解く

2015年09月11日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 先週(2015年9月4日)放送のテレビ朝日『ミュージックステーション』(『Mステ』)で、こんな場面があった。


 55枚目となる最新シングルの一曲『Otherside』披露のため出演していたSMAPの各メンバーが視聴者からの質問に答えるコーナーでのこと。最後に順番が回ってきた中居正広への質問は、「音を外してしまうことが恥ずかしくて歌えません。どうしたら堂々と歌えるようになりますか?」というものだった。タモリが「残る1人はあの方ですよね」と意味深に話を振り、中居正広が「まあ、あの、プロのミュージシャンとして…」とわざとらしく表情を決めて語り始めたとたん、その言葉を遮るように絶妙のタイミングでCM入りの音楽が流れ、スタジオは爆笑に包まれた。言うまでもなく、歌番組では鉄板になっている中居正広の“音痴”ネタである。


 この場面に私は、『Mステ』とジャニーズの密接な関係、そして『Mステ』がこれまで長く続いてきた理由の一端を垣間見たような気がした。


 アイドルの歴史を振り返るとき、転換点としてしばしば語られるのが1990年前後の相次ぐ大型歌番組の終了である。1970年代から80年代にかけて、テレビとアイドルは蜜月関係にあった。その象徴が、当時各局にあった生放送の大型歌番組だった。


 『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)、『ザ・ベストテン』(TBS系)、『歌のトップテン』(日本テレビ系)などのそうした歌番組は、歌手にとって新曲プロモーションの最大の機会であり、1980年代にアイドルが全盛期を迎える大きな原動力になった。したがって、それらの番組がそろって1990年前後に終了してしまったことは、アイドルにとって自分たちの存続の基盤を揺るがす大事件であった。


 ところが1986年10月にスタートした『Mステ』だけは、そんな当時の歌番組のスタイルを踏襲しながら今も続き、来る10月には30年目を迎える長寿番組になった。実は私自身もこれまであまり気に留めてこなかったのだが、今述べた歌番組の歴史を踏まえれば、これは不思議なことだ。


 では『Mステ』はなぜ生き残れたのか? 


 開始当初の『Mステ』は、視聴率的に苦戦していた。そこでとられた打開策が、1987年のデビュー以来爆発的なブームを巻き起こしていた光GENJIを毎週レギュラー出演させることだった。1988年のことである(これについては、番組スタッフだった山本たかおの証言がある。http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ss/07jasrac/kouki/12/kouki12.htm)。


 それは、毎週ランキング形式をとっている『ザ・ベストテン』や『歌のトップテン』ではできないことだったし、演歌からアイドルまで多彩なジャンルの歌手が出ることが売りだった『夜のヒットスタジオ』でもできないことだった。結局光GENJIのレギュラー出演は1992年まで続き、『Mステ』は若者向けの歌番組という独自色を打ち出すことに成功する。


 それ以降、現在までその流れは続いている。『Mステ』と言えば、毎回ジャニーズグループが出演するというイメージはすっかり定着した。実際、光GENJIを筆頭にTOKIO、SMAP、V6、嵐、KinKi Kidsと出演回数ランキングの上位にはずらりとジャニーズグループが並ぶ。


 しかし、その時の旬のジャニーズアイドルが出演していれば番組はそれで安泰というわけではない。そこでクローズアップされるのが、やはりMCのタモリの存在と、そこから生まれるバラエティ的な側面だろう。


 タモリが『Mステ』のMCになったのは、1987年4月である。同じ生放送の『笑っていいとも!』(『いいとも』)のMCとしてすでにその地位を確立していたころだ。ただ当時『Mステ』での司会ぶりが、『笑っていいとも!』(『いいとも』)のときとは違うと感じる人も多かった。


 確かに『いいとも』でやっていたような出演者いじりをタモリが『Mステ』ですることは基本的にない。同じ芸人のダウンタウンや石橋貴明が、1990年代に始まった『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ系)や『うたばん』(TBS系)でMCとして自分たちのやり方を変えることなく出演する歌手を積極的にいじっていたのとは対照的だ。


 だが私の見るところ、根本的なところでは、『いいとも』と『Mステ』でタモリのMCに違いはない。それは、“仕切らない仕切り”と言えるようなものだ。MCとして積極的に場を仕切るというよりは、出演者のキャラクターを尊重しつつ全体の雰囲気を見ながら番組を盛り上げていく。それは『いいとも』のようなバラエティでも『Mステ』のような歌番組でも同じである。


 だから、歌番組としての本分は守りながらも、『Mステ』では時々バラエティ的な面が顔をのぞかせ、それが番組のいいスパイスになっている。一方、SMAPをはじめとして1990年代以降ジャニーズのグループは皆それぞれの冠番組を持ち、バラエティでの本格的経験を積むようになった。その結果ジャニーズは、『Mステ』が歌だけでなく時には笑いもあるテレビ的娯楽番組としてクオリティを保つためにも、今や欠かせない存在になっている。冒頭にふれた場面での中居正広と番組の阿吽の呼吸に、私はそれを感じ取ったのである。(太田省一)