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9mm Parabellum Bulletが「クアトロA面シングル」で見せた、4人4様のプロデュース力

2015年09月11日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

9mm Parabellum Bullet『反逆のマーチ/ダークホース/誰も知らない/Mad Pierrot』(EMI)

 怒涛の9周年、10周年を駆け抜けたかと思いきや、2014年末の滝善充(G)が足と手を相次いで骨折したことによって、半年間のライブ活動休止を余儀なくされた9mm Parabellum Bullet。そして6月の自主企画「カオスの百年 vo.11」からライブ活動を再開し、このたび遂に9か月ぶりに新作がリリースされる。さらにリリース日は9mmの日である9月9日。9だらけで縁起がいいぜ!


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 しかもこのニューシングルは、「クアトロA面シングル」なのだ。見慣れない言葉にどういうこっちゃ?と思うが、これはメンバー4人がそれぞれ作曲/プロデュースを担当しており、4曲全曲がA面であるということ。通称“ピザ盤”だという。完全受注生産限定Special Editionは、オリジナル・ピザBOX仕様で、4種のトッピング(封入特典)付きって、完全に楽しんでいるじゃないか! しかし、こういったアイディアが広がっていくのも、4人全員が作曲できて、4人全員にプロデュース能力があるからこそなし得ること。こういったバンド、日本の中ならL'Arc~en~Cielがパッと思いつくけれど、そんなに数多くいるわけではない。全員のキャラクターが立っているバンドや、全員の演奏力が高いバンドはいるけれど、そこから作曲やプロデュースといったところまで手を伸ばせるかというと、そうはなかなかいかないのだろう。


 9mmのような異端なままロックシーンの中枢にまで駆け上ってしまったような個性的なバンドが、そういったスキルを開花させたということは、ますます予測不可能な進化を遂げていくという宣言にも見えるわけで、久々のシングルに相応しい。また、CD、特にシングルが売れない時代に、しっかりと意味を持たせてリリースするというところや、9mmのバンドの特性を明確に表した、名刺代わりの一枚を完成させたところなど、パッケージだけでも、今作が物語ることは大きい。さらに楽曲を掘り下げていくと、ますます重要なアイテムであることが露わになってくるのだ。


 まず1曲目は、滝作曲の『反逆のマーチ』。うねうねとギターが踊るイントロでまず脳裏に浮かんだ言葉は、暗黒サンバ。今まで9mmの作曲とプロデュースは彼が中心に行っていたため、彼が手掛けたこの楽曲は9mmのど真ん中と言えるはずなのだが、とても新鮮に聴こえてくるのだ。3人に刺激されたところも大きかったのでは? そして2曲目は中村和彦(B)作曲らしく、イントロからベースがブリッブリに暴れる『ダークホース』。ストレートなハードロックが基盤なので、個々のプレイのスパイスが際立って「らしさ」が浮き彫りになっている。3曲目は菅原卓郎(Vo・G)作曲の『誰も知らない』。《余計なものほど欲しくなるもんさ/気付いた時にはいらなくなるんだ》という歌詞もあるけれど、全般的に、音がとても削ぎ落とされている。かと言って、シンプルと片づけられるような単純な構造ではなく、音色やコードに気を配って、引き付けるような楽曲にしたことが伝わってくる。4曲目は、かみじょうちひろ(Dr)が作曲だけではなく作詞も手掛けた『Mad Pierrot』。ストーリー性のある歌詞と悲しげでファンタジックな曲調が相俟った、確固たる世界観を持った楽曲である。……こうして書き連ねていると、4人とも、持っているスキルがいちプレイヤーとしてだけのものではないのだな、と改めて思う。また、全員が9mmという受け皿を心から信頼しているからこそ、各々が個性を生かしたバラバラなことをぶつけられるのだろう。


 2013年にリリースされた、現時点での最新アルバム『Dawning』を聴いた印象は、「爽快」だった。混沌を鳴らしてきた9mmに対して、爽快と思えるなんて!と自分自身でも戸惑ったが、それだけ9mmの表現の幅は広がってきていたのだ。そしてそれは、この4人が個々で様々なスキルを成長させていたからだったのだ。今作は、そんな9mmの過去をひもとくカギにもなる。そして、恐らく今後リリースされるアルバムに、より4人の色が明確に反映されていくであろうという予兆にもなっている。つまり今作は、9mmの過去・現在・未来を繋ぐ一枚になっているのだ。9mmが現れた頃は、ステージ上の全員がぶつかり合うようなパフォーマンスから、制作の現場でもバチバチやり合っているに違いないと思っていたけれど、今作で、誰がイニシアチブを握ってもまとまる様子を見ていると、リスペクトし合っているからこそ、安心してやり合えるのだな、と今更ながら思う。


 9月11日には『反逆のマーチ』を引っ提げてMステに出演する彼ら。「ロックバンドが地上波のテレビに出演する意義」が語られることの多い今日この頃、彼らはどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか? 《欲望に飲まれて忘れた何もかも/愛でも勇気でも思い出させてやるよ》――ロックバンドだけが、9mmだけが持つ、ドロドロの時代を掻き分けられるリアルな言葉と音。今の彼らなら、巨大なメディアを通してでも、それを轟かせられるだろう。信じてお茶の間で待つ。(高橋美穂)