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つんく♂の総合P“卒業”後、ハロプロはどう変化する? 節目の楽曲と次世代作家を分析

2015年09月11日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

つんく♂ 『「だから、生きる。」 』

 ハロプロことハロー!プロジェクトの総合プロデューサーを務めていたつんく♂。過去形となっているのは、9月10日発売の書籍『だから、生きる。』(新潮社)にて、本人の告白により、「総合プロデューサーを“卒業”した」という事実が伝えられたからである。今年は咽頭がん手術により、声帯を摘出。同氏の母校・近畿大学の入学式で自ら告白したシーンも、未だ記憶に新しい。


 第3者的な視点からも感じられるつんく♂の節目ではあるが、それは同時に、長い歴史を持つハロプロにとっての大きな節目でもあった。同著によれば、同氏が総合プロデューサーを“卒業”するきっかけとなったのは、2013年の秋頃。アップフロントの会長からの提案で、昨年、2014年10月のモーニング娘。’14によるニューヨーク公演『Morning Musume。'14 Live Concert in New York』から声帯摘出までの間で、徐々に仕事を制限するようになったという。


 ハロプロの多くの楽曲がつんく♂によるものだったのは言うまでもない。そして何より、各メンバーの歌い方や細かな表現に至るまで、つんく♂自ら声を吹き込んだデモテープがいうなれば“ハロプロらしさ”の根幹にあったのはファンならば誰もが知るところである。


 つんく♂のプロデューサー“卒業”の明確な時期こそ定かではないものの、少なくとも、声帯摘出を告白する以前に同氏の手がけた楽曲は、大きな節目を象徴するもののようにも思える。そこで、各グループが今年4月までにリリースした楽曲の中から、声帯摘出以前のつんく♂が最後に提供したと思われる楽曲を紹介すると共に、つんく♂の“卒業“へと思いを巡らせてみたい。


 さて、やはり“節目”で括るとしたら、初めに取り上げたいのはBerryz工房の『Love Togather!』である。今年3月3日、無期限活動停止に一旦の終止符を打った日本武道館での最終公演では、声も枯れがれになった菅谷梨沙子を始め、メンバーや客席が共に涙した曲としても印象深い楽曲である。


 名目上、Berryz工房にとってのラストアルバムとなった『完熟Berryz工房 The Final Completion Box』(2015年1月21日発売)の収録曲だが、自身35枚目のシングル曲に収録された『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』と対をなす印象もある楽曲。メンバーそれぞれの出会いのきっかけとなった『ハロー!プロジェクト・キッズオーディション』から無期限活動停止までを数えると約13年、グループ結成からも約11年の歴史を歩んできたメンバーへのはなむけとして、時に葛藤を覚える瞬間も捉えつつ、切なさを漂わせるメロディと共に仕上げている。


 そして、加入のきっかけこそBerryz工房と同時期であり、現在はハロプロを名実ともにけん引する立場となった℃-ute。今年6月の結成10周年に先駆けてリリースされたトリプルA面シングルの収録曲『The Middle Management~女性中間管理職~』(2015年4月1日発売)では、つんく♂が作詞のみ手がけている。


 メンバー内最年長であり、ハロプロとグループ双方でリーダーを務める矢島舞美すら23歳と比較的若い印象もあるが、先輩や上司、後輩との間に挟まれる女性ならではの日常や葛藤を捉えた歌詞の世界観は、ハロプロというグループだけではなく、現役のアイドル達ですら多くが“憧れ”と口にする存在としての、℃-uteならではの立ち位置から垣間見える説得力も感じさせられる。


 さらに、リリース時期からの推測とはなるが、ハロプロのそもそもの源流といえるモーニング娘。’15にとって、つんく♂ならではの魂が名実ともにしっかりと注ぎ込まれていたのはトリプルA面シングル(2015年4月15日発売)に収録された『青春小僧が泣いている』と『夕暮れは雨上がり』かと思われる。


 双方ともにつんく♂自身が、作詞と作曲をたがいに手がけた楽曲。昨年10月の道重さゆみ卒業、加えて12期メンバー加入後初のリリースであり、グループの新たな局面への決意も伺わせる楽曲だが、『青春小僧が泣いている』は、日本古来のいろは歌を織り交ぜた独特の言葉遊びを感じさせつつ、途中、ブレイクを挟みつつ展開されるメロディがあるからこその力強さも漂わせる。


 対して、『夕暮れは雨上がり』は新しい環境へ飛び込む場面にみられるであろう戸惑いや不安を匂わせつつ、優しく傍で語りかけるように心を奮い立たせてくれる楽曲。イントロから曲中にかけて流れ続けるピアノの音色が印象的で、MVやステージでは、10期メンバーの佐藤優樹が魅せる、鍵盤を指先で“奏でる”ような振り付けも目に焼き付く。


 また、昨年の3期メンバー加入や改名。さらに、今年11月の福田花音卒業や新メンバー増員で話題も絶えないアンジュルムは、今ではその前進ともいえるスマイレージ時代の両A面シングル『嗚呼 すすきの/地球は今日も愛を育む』(2014年8月20日)で、たがいにつんく♂が作詞と作曲を手がけている。


 昨年からみられたハロプロの変化、そして、その“節目”をおそらく最も象徴したグループではあるが、改名前、最後のシングルとなった楽曲である。『嗚呼 すすきの』は、ふとした衝動から、愛する人の元を旅立ってしまった女性の話。一時の決意を持ちながらも、未練や後悔を匂わせる世界観は、つんく♂の手がけるハロプロのある種“王道”ともいえる“女性の情念”を、とりわけ感じさせる仕上がりとなっている。


 そして来年、2016年に日本武道館をめざし、現在『LIVE MISSION 220』と題したライブハウスでのツアーを精力的に行うJuice=Juiceは昨年、両A面シングル『背伸び/伊達じゃないのよ うちの人生は』(2014年10月1日 発売)をリリース。ともにつんく♂が作詞と作曲を手がける曲だが、本人が“仕事を制限するようになった”と告白した時期と、ほぼ重なる。


 恋焦がれる少女の心の揺らぎが表現された『背伸び』は、言葉で語るのではなく、あえて単語を並べるのみのパートが耳に強く印象を残す曲。一方、恋人からの嫉妬にやや嫌気の差した女子の日常を描いたように思える『伊達じゃないのよ うちの人生は』は、ステージでの熟成期間を経て満を持してリリースされた楽曲でもあり、パフォーマンスへ真っ向から挑む、グループ自身の決意も匂わせるような作りになっている。


 さらに、ステージへ情熱をかけるハロプロの精神そのものを表すハロプロ研修生は今年、アルバム『(1) Let's say “Hello!”』(2015年2月18日 発売)をリリース。相次いで結成されたカントリー・ガールズやこぶしファクトリー、つばきファクトリーにその精神が強く受け継がれているようにみえるが、同アルバムは、既存グループへの“昇格”を果たしたメンバーの成長も味わえる作品である。


 前進の「ハロプロエッグ」からの改名を経て、既に4年目を迎えたハロプロ研修生。全10曲すべての作詞と作曲をつんく♂が手がけているが、その中でも、強烈な印象を残すのが『おへその国からこんにちは』である。冒頭、こぶしファクトリーのメンバーとなった浜浦彩乃の第一声から耳に残る楽曲で、つんく♂ならではの奇想天外な言葉遊びが随所にみられるほか、ステージでは、へそを見せつけるようなメンバーの振り付けが強く目に焼き付く曲でもある。


 さて、流れるままにつんく♂の“節目”と重なったと思われる、ハロプロ各グループの楽曲を紹介してきた。報道によれば、作詞や作曲には“マイペースで参加する”と伝えられているほか、モーニング娘。’15のサウンドプロデューサーとして、今後も活動は継続するという。改めて時間の経過を意識して楽曲を振り返ってみると、いわゆる“つんく♂節”が失われていくという切なさも込み上げてくる。


 振り返ると、2014年内から“つんく♂体制”からの変化は徐々にみられた。モーニング娘'14のトリプルA面シングルの収録曲『見返り美人』(2014年10月15日 発売)は、道重さゆみ卒業への想いが込められた曲だが、作詞に石原信一、作曲に弦哲也と、クレジットにつんく♂の名前が刻まれていなかったことに、驚きを口にする声が上がっていた。


 なかでも、中島卓偉によるアンジュルムの『大器晩成』(2015年2月4日 発売)は、特にその変化を象徴すると思える楽曲である。2015年1月2日に中野サンプラザで行われた『Hello! Project 2015 WINTER』での初披露後、生音を基調としたロック色溢れるサウンドに対して、従来とは異なる新鮮さも含めて評価する声も多く聞かれた。


 さらに、今年相次いでデビューを果たした、カントリー・ガールズの『わかっているのにごめんね』(2015年8月5日 発売)では作詞に児玉雨子、作曲には加藤裕介が加わり、こぶしファクトリーの『ドスコイ!ケンキョにダイタン』(2015年9月2日 発売)では作詞作曲に星部ショウを迎えるなど、顔ぶれの変化を感じられる。


 また、新グループへ目を向けると特に感じるのは、従来のイメージとは異なる音の作り方である。元来、モーニング娘。'15に代表されるEDM路線、又は打ち込みによる楽曲が目立っていたが、特に、先にもふれたアンジュルムの『大器晩成』以降は、カントリー・ガールズ、こぶしファクトリーと相次いでメジャーデビューを果たすグループの各楽曲で、とりわけ生音ならではの臨場感も垣間見える。


 ただ、パフォーマンス面ではつんく♂の意思は継承されていて、例えば、「こ」と発音すべきところを「きょ」と言ってみたり、「と」を「つぉ」と発音してみたり、端々では、ハロプロ本来の精神ともいえる“つんく節”が継承されているのも伺い知れる。時間だけはこれからもきっと誰しも平等に進んでいくが、ハロプロらしさを味わいつつ、その変化を受け入れていくのもまた一つの楽しみとなりそうだ。(カネコシュウヘイ)