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ザ・ウィークエンド、ラナ・デル・レイ、ミゲル……USチャートを席巻する「ダーク&メロウ」な5枚

2015年09月10日 18:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『Beauty Behind The Madness』

 リアルサウンドで「新譜キュレーション」のコーナーをはじめます。小野島大さん、岡村詩野さん、村尾泰郎さんなど、いろんな書き手がそれぞれの角度で深くシーンを掘っている連載コーナーですが、僕は基本的には海外のメインストリームの音楽シーンの動きについて語りたいなと思ってます。特にジャンルを絞らず、どんなものがヒットチャートの上位に顔を連ねているのか、その背景にはどんな動きがあるのか。そんなことをつらつらと考えていこうと思っています。


(関連:ミゲルの“ワイルドな音楽”が全米を魅了した理由 最新作とキャリアから紐解く


 というわけで、第一回目の今回は「ダーク&メロウ」がキーワード。まず別格で素晴らしいのが、この人の新作です。ザ・ウィークエンド。一昨年のアルバム『KISS LAND』でもその官能的な歌声が大きな評価を集め、ソウルシンガーとして徐々に人気を高めてきた彼が、ニューアルバム『Beauty Behind The Madness』をリリース。これが大ヒットしている。すでに1stシングル「Can’t Feel My Face」は全米No.1となり、アルバムも初週1位が確実。2ndシングル「Tell Your Friend」もチャートを駆け上がっており、まさに「ザ・ウィークエンド旋風」が巻き起こっている状況。


 ザ・ウィークエンドの最大の持ち味はヴォーカルのソウルフルな表現力にあるわけなんだけれど、今年に入って彼の状況を飛躍させたのは間違いなく映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のサントラに収録された「Earned It」という一曲。


 これを聴いてもわかるように、彼の歌の最大の持ち味は「セクシーさ」と「闇」が交差するところにある。アルバムでも、色気と同時に、悲哀や陰鬱のテイストがにじみでている。特にエド・シーランをフィーチャーした「Dark Times」、ラナ・デル・レイをフィーチャーした「Prisoner」、そしてアルバムのラスト・トラック「Angel」という後半3曲の並びが最高。マイケル・ジャクソンを想起させる才気走った色気と、ポーティスヘッドの底なし沼のようなメランコリーが同居している。


 そして、そのザ・ウィークエンド新作にも参加していたラナ・デル・レイは、4枚目のアルバム『Honeymoon』を9月18日にリリース。今は収録曲が徐々に公開されている段階だが、どれも彼女ならではの世界が満開になっている。「古きよきハリウッド」をこよなく愛する時代がかった美意識、愛しあうことと傷つけあうことが絡みあった悲劇的な世界観が見て取れる。先行シングル「High By The Beach」のスリリングな感触からしても、過去作を超えるものになるのは間違いなさそう。


 そして「ダーク&メロウ」な傑作と言えば、全米R&Bチャート1位を獲得し、国内盤が先日リリースされたばかりのミゲルのニューアルバム『Wildheart』。そもそも彼はザ・ウィークエンドやフランク・オーシャンと並んで昨今のオルタナティブなR&Bシーンを支えてきたシンガーだし、新作のジャケットも彼自身のルックスもかなりコアな「ブラック・ミュージックっぽさ」を感じさせるものだけれど、むしろ新作はロック・リスナーに届くべき一枚。というのも、かなりロックへのアプローチが色濃い一枚になっているのである。なにしろアルバムのラストを飾る「face the sun」でフィーチャーしているのはレニー・クラヴィッツだ。歪んだギターリフをフィーチャーし、グラム・ロック的な妖艶さすら感じさせる一曲になっている。また「Leaves」はスマッシング・パンプキンズの名曲「1979」のリフを用いた(クレジットにはビリー・コーガンの名もある)切ない叙情性を持つ一曲。個人的にはこの2曲が大好き。


 続いては、若干20歳ながらデビューアルバムの完成度の高さに各方面が騒然としているホールジー。彼女も「ダーク&メロウ」な世界観を持った歌姫だ。ニュージャージー出身、黒人の父と白人の母の間に生まれた青い髪のポップアイコン。デビュー作『BADLANDS』は、「荒野」というタイトルどおり、ゴツゴツとした怒りの感情が込められたものになっている。ザ・ウィークエンドに通じる影のあるソウルネスと、パンク・ロックな直情型のエネルギーが交じり合ったような一枚。


ちなみにホールジーはファッション・アイコンとして同世代の女子ファンも多く、かなりの親日家でもあるという。というわけで、アリアナ・グランデと同じような形で日本でもブレイクしそう。デビュー曲「Ghost」のMVは東京を舞台にしたストーリー。


 最後は「ダーク&メロウ」という感じではないしチャートにも出てきてはいないのだけれど、「色気」という意味では、あきらかにすごいことになってるマイリー・サイラスの新作。先日行われた「MTV Video Music Awads 2015」で司会をつとめた際にも過激なセクシー衣装で話題をさらった彼女だが、その日に彼女はニューアルバム『Miley Cyrus & Her Dead Petz』のリリースを告知し、全曲無料ストリーミング公開している。


 アルバムは全23曲入りで、そのうち14曲でフレーミング・リップスが共同プロデュースに参加している。というわけで、かなりフレーミング・リップス色の強い内容。特に『Yoshimi Battles the Pink Robots』あたりを彷彿とさせる「The Floyd Song (Sunrise)」や、アリエル・ピンクがフィーチャリング参加した「Tiger Dreams」はサイケデリックな浮遊感と切ない情感が同居する佳曲に仕上がっている。「Dooo It!」のMVも相当強烈だ。


 ちなみに、昨年にリリースされたフレーミング・リップスのアルバム『With A Little Help From My Fwends』にもマイリー・サイラスは参加している。ビートルズの名盤『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』をカバーした企画盤なのだが、マイリーは「Lucy in the Sky with Diamonds」で強烈な歌唱を披露。アメリカの番組「Jimmy Kimmel Live」で同曲を披露したときのライブ映像が公開されているのだが、これが「とんでもないものを見た」感、満載。


 ニュースで彼女の名前を見て「お騒がせセレブ」くらいにしか思ってない人は、ぜひこの動画もチェックしてみてほしい。少なくとも僕はこれを見てマイリーのことが大好きになったよ。(柴 那典)