米国人の心の中には「シンデレラ症候群」があると言われます。おとぎ話のガラスの靴のように、自分にぴったり合った「魂の伴侶」「夢の仕事」は必ずどこかに存在していて、それを見つけ出しさえすればいいのだという考え方です。
逆に言えば、この考え方では完璧な仕事を見つけない限り、自分は満たされないということにもなります。これに対し、米ミシガン大学のパトリシア・チェンさんが最近の研究で疑問を投げかけているのだそうです。(文:夢野響子)
天職を追求しても幸せになれるとは限らない結果に
これは8月21日付のBusiness Insiderにシャナ・レイボウィツ氏が寄稿したもの。チェンさんによれば、少なくとも仕事に関して言えば、一部の人は「時間をかければ自分の仕事を好きになることができる」と信じており、最終的には仕事に満足できるということです。
チェンさんは働く人々を2つのタイプに分けました。情熱を傾けられる仕事は必ず見つけられるものだと信じる「理想追求型」(fit theorists)と、興味のない仕事であっても情熱は開発できるものだと信じる「開発信奉型」(develop theorists)です。
調査では対象者が「現在の仕事への適合感」や「仕事を始めた当初どのくらい自分に合っていると感じていたか」「今の仕事にどのくらい情熱を持っているか」などの質問に答えました。その結果「理想追求型」は就職当初は仕事が自分にピッタリと感じていたものの、現時点では「開発信奉型」の情熱や満足度に及びませんでした。
つまり、天職を追い求めていても幸福や満足を得られるとは限らず、むしろ自分のしていることを愛そうとすることが大事だということです。
スティーブ・ジョブズの「偉大な仕事をする唯一の方法は、自分のしていることを愛することだ」という有名な言葉には誰もが賛成するでしょうが、理想の仕事に就けない時であっても、情熱はいつか湧いてくると信じ続ける限り、仕事を好きになることはできるということになります。
片方で行き詰まったら、もう片方の考えに当たってみる
「理想追求型」と「開発信奉型」には、それぞれ長短があります。前者は自分の求める仕事を探すことに長けていますが、選り好みが激しくなります。しかし楽しめないという理由ですべての仕事を断れるほど、誰もが財力を持っているわけではありません。
後者は新しい仕事で困難にぶつかっても寛容に受け止めることができますが、我慢するあまり自分に合わない仕事に長々と従事してしまうかもしれません。
自分の仕事に満足がいかずに行き詰った場合には、仕事を替えるか、自分の信念を変えるか、2つに1つしかありません。したがって理想追求型でやってきてうまくいかなかったら、逆に開発信奉型の考え方を受け入れてみることをチェンさんは勧めます。
「この研究結果は、シンデレラ症候群やジョブズの考えを否定しているわけではありません。あなたの夢の仕事があって、あなたを待っていると思える場合には探してみればいいし、あなたが妥協できる仕事を受け入れて楽しめるように自分を成長させられると思うなら、それもいいでしょう」
米国人の大半は「理想追求型」
ちなみに米国人の大半は「理想追求型」だとか。自分の好きなものを把握してそれを可能にする仕事を探す態度は、独立性を重視する西洋文化特有の考え方だとチェンさんは指摘。将来は同様の調査を、東アジア諸国でも実施したいと考えているそうです。
日本では「とりあえず目の前の仕事をやれ」と言われるように、開発信奉型が大半を占めると思われますが、最近の若年層には「自分がやりたいと思う仕事しかやらない」という理想追求型が現れてきているかもしれません。
(参照)Psychologists just debunked the idea that you have to find the perfect job fit to be happy at work (Business Insider)
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