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乃木坂46『真夏の全国ツアー』で見えたグループの成長 セットリストとパフォーマンスから読む

2015年09月09日 18:41  リアルサウンド

リアルサウンド

乃木坂46『真夏の全国ツアー2015』の様子。

 乃木坂46初の広島公演を含む6都市16公演が行われた『真夏の全国ツアー2015』は、8月30日・31日の明治神宮公演をもって幕を閉じた。


 今回のツアーは、全てのメンバーが正規メンバーとして挑む初めての年であり、生駒里奈が新作のセンターを務めた状態で全国を回るのもこれまでになかった機会だ。


 グループ最大規模の15万人を動員した同ツアーは、グループにとってどのような意義があったのだろうか。そして彼女たちが向き合った「乃木坂らしさ」とは何だったのか?


 まず、ここまでの経緯を振り返っておこう。今年は昨年に比べ、地方でのアリーナクラスや東京での神宮公演というキャパシティは同規模であるが、今回から公演数がそれぞれ増えている。また、今回は「何度目の青空か?」での生田絵梨花の復帰や、「君の名は希望」での花火などのハイライトが思い出されるが、その舞台裏では生駒里奈を始め、多くのメンバーが悔し涙を流したと後に語られている昨年のリベンジという意味合いが大きいだろう。2014年の乃木坂46は、神宮公演後、『アンダーライブ』を有明コロシアムで行える規模まで大きくし、3rd Year Birthday Liveでは、7時間に及ぶ初のドーム公演(西武ドーム)を見事にやり遂げてみせた。


 また、今回のライブ中に流れた映像は、このツアーが7月に公開された映画『悲しみの忘れ方~Documentary of 乃木坂46~』の延長線上であることを示しており、大規模公演でアンダーをフィーチャーする余裕ができたことに、グループの充実期が窺える。このような1年間を経て、神宮の舞台で披露された彼女たちのパフォーマンスは、本当に自信に満ち溢れていたように思う。


・セットリストが表現する今の乃木坂の姿


 今回のライブにおいて、特に注目していたのがセットリストだ。歴代のシングルを順番に披露する『Birthday Live』と違い、ツアーでは豊富な持ち曲のなかから、見せたい演出に合わせて自由に曲順を組むことができるため、ここから今のグループが表現したいことを読み解くことができる。


 今回のツアーはほぼ固定されたセットリストであり、大規模の神宮公演だからといって、ドラスティックな変化を加えずにパフォーマンスの質を高め、“どのように見せるか”に焦点を当てたのだろう。あえてざっくり分けると、「歴代シングル曲パート」「最新シングルカップリングパート」「煽り曲パート」「アンダー曲パート」「初森べマーズパート」「クラブミュージックパート」「オーケストラパート」の7パートがあり、乃木坂46がこの4年間で築いてきたものがギュッと詰まっている。


 「歴代シングル曲パート」はライブでも恒例となっているパフォーマンスを織り交ぜたものに仕上がり、「最新カップリングパート」ではユニット曲などを含めた最新形の乃木坂46を披露。また、大人しいグループゆえ、ダイナミズムに欠けていた「煽り曲パート」は、数多くのライブを経験したことでしっかりと観客を楽しませるものになっていたし、「アンダー曲パート」の充実は、この1年を象徴するものだった。曲数は多くなかったものの、アンダーセンターを務める堀未央奈は、ライブ全体を通して今までにない存在感を見せており、サプライズ発表された今後の『アンダーライブ』が楽しみでならない。続く「初森べマーズパート」のパフォーマンスは、放送中のドラマ『初森べマーズ』を軸にしつつも、やっていたことは『16人のプリンシパル』でグループが初期のころから取り組んでいたミュージカルと同じ様式とみていいだろう。また、毎回照明やダンスなどの演出に力を入れている「クラブミュージックパート」は、清楚なイメージの強い乃木坂46が、毎ライブでパフォーマンスのダイナミックさをみせるべく、長い時間を掛けて取り組んでいる部分でもある。今回はあえて「制服のマネキン」を入れず(「制服のマネキン」はアンコールで披露)、このパートの定番曲「世界で一番 孤独なLover」と乃木坂的クラブミュージックの完成形ともいえる「命は美しい」に加え、アンダー曲である「別れ際、もっと好きになる」や「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」(1日目)「ここにいる理由」(2日目)などを入れ、同パートの厚さを見せてくれた。


 そして本編の終盤でみせたのが、生田絵梨花のピアノ伴奏を中心とした「オーケストラパート」。あるインタビューで星野みなみは「今回のツアーではちゃんと歌を届けたい」と語り、前段のVTRでは「歌」の力強さを強調していた。まだ道半ばではあるが、この生田のピアノという大きな武器と共に生の演奏で歌を届けることは、グループがさらなる高みを目指す上での一つの理想なのだろう。両手にペンライトを持つことが多いアイドルのライブで、唯一このパートに限っては、自然と観客席から拍手が沸き起こるという稀なことが起こった。また、「悲しみの忘れ方」を披露後の1日目の生駒、2日目の生田の溢れ出る涙は、その日一番の美しさだったように思う。


・演らなかった曲が教えてくれること


 前述した通り、今回のセットリストには「乃木坂らしさ」を探るヒントが隠されていたが、実は披露されなかった曲から感じ取れることもある。


 今回披露されなかった曲の中には、カップリング投票で1位を獲得した「他の星から」のほか、楽曲の人気も高くライブでも盛り上がる「せっかちなかたつむり」や「あらかじめ語られるロマンス」も含まれている。実は今回のライブではユニット曲がほとんど披露されていない。披露されたものも、最新シングルのカップリングである「魚たちのLOVE SONG」と「無表情」くらいなもので、「ダンケシェーン」は全員での披露だった。


 その分、今回は全体的にはライブを盛り上げるものや、ステージ効果を使うための楽曲、いわゆる“煽り曲”が多かったように感じるのだ。煽り曲では振り付けに縛られること無く、ステージを広く自由に使うことができ、トロッコやフロートを使ってファンとの距離を縮めることができる。その反面、グループ全体でしっかりと盛り上げなければ、ファンのリアクションも中途半端になってしまったり、個々のメンバーのパフォーマンス力に左右される部分が大きい。


 乃木坂46がAKB48グループと比較される際、これら“煽り曲”の弱さを指摘されることが度々あり、グループとしてもこの部分は生駒に頼りがちになることが少なくなかった。しかし、今回はこの1年間での成長を象徴するように、四方八方に散ったメンバーが客席を盛り上げ、3万2千人を一つにした。また、これまでカメラに抜かれる比率は福神メンバーが圧倒的に高かったのだが、今回は曲のキメにあたる部分で、アンダーメンバーや2期生がカメラを独占することが増えた。実際、誰を抜いても戸惑うことなく思い思いに楽しそうなパフォーマンスをみせてくれたことが、この成果を表しているだろう。


 ユニット曲を減らし、煽り曲を増やしたのは、今回のツアーで「グループ全体で見せる」ことに重きを置いたからではないか。2年前、ライブの際にグループを引っ張っていたのは、当時5作でセンターを務めた生駒里奈だった。昨年の『アンダーライブ』を通し、それぞれのパフォーマンスは向上したものの、選抜メンバーはライブを多く経験するアンダーに対して焦りを感じ、アンダーは選抜に負けないと闘志を燃やし、妙な摩擦が生まれていたようにみえた。そして紅白に出られなかった2014年が明け、新たな乃木坂46の始動と共に彼女たちは「グループ全体」について真剣に向き合わなければならなくなった。そうしなければ、本当の意味で前に進むことができないところまで来てしまったからだ。


 AKB48のライバルグループとして誕生した彼女たちが「紅白出場」という大きな目標に向かうとき、彼女たちは本当の意味でグループとして一つにならなければならなかった。今やAKB48に肩を並べようとする勢いの彼女たちは、一つのアイドルグループとしての注目度を増しているし、さらに欅坂46が誕生したことで、彼女たちは自然と「自分たちは何者なのか? 『乃木坂らしさ』とは何なのか?」 という命題にぶつかった。これまで1stアルバム『透明な色』のリリース、『乃木坂って、どこ?』の映像化や、『悲しみの忘れ方~Documentary of 乃木坂46~』の製作はグループの過去を整理し、見つめ直す役割を果たしていた。そしてこのツアーは、新たな乃木坂46として自分たちを表現する場としての役割を担っていたように思えるし、それが、今回のセットリストであり、グループ全体でのパフォーマンス力の増加だったと感じる。あえてデビュー曲「ぐるぐるカーテン」を披露しなかったのも、成長した自分たちの姿を強調するためだったのかもしれない。


・彼女たちがツアーで得たもの


 「結局、乃木坂らしさとは何だったのか?」


 その答えは未だ出ていないし、実は一つの答えを出すことが今回のツアーの目的ではないともいえる。白石も西野も「グループ全体について考えるようになった」と語っていたのはセンターに選ばれた後のことで、アンダーメンバーや研究生は『アンダーライブ』がスタートするまで、何を頑張ればいいかすらわからない日々を過ごしていた。今まで大きな流れのなかで、アイドルとして夢中に駆け抜けてきた彼女たちは、自身について考えるだけで精一杯だったのだろう。そんな彼女たちが更なる高みにむけて「『乃木坂らしさ』とは何か?」について真剣に考え悩むことになったこと。じつはそのこと自体に大きな意義があり、成長なのである。彼女たちはこれから今まで以上に外の世界に飛び出していくだろう。そのたびに他と比較して同じような壁にぶつかることになるだろうが、そこで迷い悩み歩んだ道のりは積み重なる。そして、後に自分たちの成長の過程を振り返るとき、得体のしれない全貌を目の当たりにすることになるのかもしれない。その初めの一歩を全員で踏み出せたことが、今回のツアーの一番の収穫なのだと思う。


 さて、神宮公演2日目のアンコールでは新曲が早くも披露された。初のダブルセンターと盤石のメンバーで挑む13thシングル表題曲は、杉山勝彦氏と共に今や乃木坂46にとって欠かすことのできない存在となったAkira Sunset氏がAPPAZI氏とコライトした「今、話したい誰かがいる」。グループにとって新たな境地になりそうなこの曲で、彼女たちは再び紅白へと挑む。桜井玲香は神宮公演2日目のダブルアンコール終了後に、「皆さんを後悔させないような、どこにも負けないグループになってみせる」と誓ってくれた。「乃木坂らしさ」を追い求め続ける限り、彼女たちの成長は止まることはないだろう。(ポップス)