8月29日~30日に行われたスーパーGT第5戦インターナショナル鈴鹿1000km。シリーズ最長のレースであり、真夏の1戦としてドライバーやマシンのみならずチームにとっても一番過酷なレースだ。5時間以上に及ぶ鈴鹿1000kmでは、基本的に走行中のドライバーにスポットが当たっているわけだが、その間出番を待っているドライバーも、ただモニターを見ているだけというわけではない。“次にベストを尽くせるように”コンディション調整をしている。今回は、100号車RAYBRIG NSX CONCEPT-GTをドライブする山本尚貴の週末を追いかけた。
山本は、2013年にウイダーモデューロ童夢レーシングに移籍したことを機に『ウイダートレーニングラボ』のサポートを受け始めた。現在も、週に2~3回の体力づくりのトレーニングに加え、万全の状態でレースに臨めるように日々の食事管理のサポートも受けている。
また鈴鹿1000kmのように複数回のスティントをドライブしなければいけない場面や、体力の消耗が激しい夏場のレースでは、トレーナーが山本に帯同している。今回の鈴鹿1000kmでも、山本のサポートを担当する中島トレーナーが行動をともにしていた。GTで初優勝を飾った2013年の鈴鹿1000kmやスーパーフォーミュラで劇的な逆転チャンピオンを飾った同年の最終戦も、舞台裏で中島トレーナーの細かいサポートがあり、勝利への原動力のひとつとなった。
レース中は暑さや横Gに耐えなければいけないため体力も消耗するが、同時に混走の中での的確な判断や展開を把握しながらのドライブとなるため、頭(脳)も使う。鈴鹿1000kmでも、1スティントでの消耗は体力以上に激しく、それが続けば集中力が途切れてレースペースの悪化やミスに繋がりかねない。これを防止するために、山本は実質30分程度しかないインターバルの間に、カステラを食べ糖分やタンパク質の補給も行っている。
また、よくテレビ中継などで目にするウイダーのカップ(中身はウイダーが市販しているプロテイン)も、この間に摂取する。このカップは、トレーナーやチームマネージャーによってあらかじめ用意されており、走行前後はいつでも飲める状態にセットされている。
さらに、マッサージを受けてわずかでも疲労を取り除く。再びヘルメットを被り、走行に向けての準備をしていくことを考えると、ケアに充てられる時間はわずか20~30分程度だ。しかし、このわずかな時間の過ごし方の違いが、次のスティントでのパフォーマンスに大きく関わってくるのだ。
山本の場合は、事前に管理栄養士とトレーナーでミーティングを行い、1日のスケジュールを作成。何時にご飯を食べ、セッションの何分前に体幹ストレッチを行うなど、分単位でレースに向けてのコンディション調整をまとめてある。ただ、これもあくまで「予定」であり、現地のレーススケジュールによって変更を加えている。
「鈴鹿1000kmに限らず、毎レースそうですが、基本的には事前に山本選手とミーティングをして、週末で気をつけなければいけないことやコンディション調整のスケジュールを決めています。もちろん、レースのスケジュールに応じて色々な選択肢も用意しています。例えば、朝食や昼食で摂取するものも、何パターンか用意して現地での状況に応じて最適なものを選んでいけるように事前に打ち合わせています」と語る中島トレーナー。事前にミーティングをしている分、両者ともにその時何が必要かを把握しており、限られた時間でも効率よくメニューをこなすことができる。
今回の鈴鹿1000kmで山本は、雨の中でスタートを担当し、中盤はドライコンディションでの走行。最終スティントでは急きょ燃費走行を余儀なくされるなど、同じ1000kmレースでもまったく異なるシチュエーションの中でドライブとなった。それぞれ気をつけなければいけないことが変化する分、集中力の持続が必要不可欠となるが、それを実現させた裏では、このような細かなケアが毎回行われていたのだ。
今回は気温が低く実施されなかったが、本来なら朝、食事後、各走行後に体重も計測する。その上下に応じて、体のケアだけでなく、限られた時間で何を摂取することが次のスティントで最大限の力を発揮できるかを常に考え、トレーナーとコミュニケーションをとっている。もちろん、このようにトレーナーによるサポートを受けているのは、山本だけではない。
レースを終えた山本は「これをやったからと言って絶対に勝てるという保証はありませんが、事前にミーティングや現地でサポートを受けられるのは本当に心強いです。次のスティントまでの限られた時間レースのことやチーム、クルマのことも考えなきゃいけないし、体のケアについても考えなきゃいけない。その中でケアの部分を100%任せて、純粋にレースだけに集中して自分の持っている力を注ぎ込むことができます。今年は暑くなかった分、湿度が高かったので水分を多く摂るようにしようとか、状況に応じて先回りしてアドバイスをしてもらって、非常に助かりました」と、振り返った。
鈴鹿1000kmに限らず、スーパーGTやスーパーフォーミュラでのレースウィーク中にドライバーがファンの前に登場するのは、走行セッションの際やピットウォーク、そしてトークショーなどのイベント時のみ。それ以外の時間にドライバーが何をしているのか、ファンとしては非常に気になるところだが、表に姿を見せない時間帯も、ドライバーにとっては“レースの一部”として重要な時間となっているのだ。
(Tomohiro Yoshita)