土曜日に行われた予選で、メルセデスAMGとの差を大きく縮めてきたフェラーリのキミ・ライコネンとセバスチャン・ベッテル。金曜日の結果からすれば、ライコネンがフロントロウの一角、ベッテルが3番手、しかも揃ってポールポジションのルイス・ハミルトンから0.3秒以内というポジションは、驚くべきと言ってもいい結果でした。
とはいえ、メルセデスAMGが圧倒的なロングランペースを持っているのも明らかで、フェラーリが決勝でメルセデスAMGを打ち負かすために必要なことは、スタートで2台揃ってハミルトンの前に立ち、抑え続けることでした。旧型、しかも使い古したパワーユニットを使っていたとはいえ、ハミルトンのチームメイトであるニコ・ロズベルグが、フェラーリよりも劣るペースしか備えていないウイリアムズを、レース序盤に抜けなかったことを見ても、前述のスタートダッシュを決めることさえできれば、フェラーリの母国優勝も夢ではなかったはずです。
しかし、その可能性は、レッドシグナルが消えた瞬間、脆くも崩れ去りました。ライコネンのマシンはピクリとも動かず……ライコネンは再びスタートの手順を踏み、なんとか走り出したものの、一気に最後尾まで下がってしまいました。ベッテルは良いスタートを切ったものの、ハミルトンの前に出るまでには至らず、ここで勝負の大方は決してしまったと見ることができます。さらにはロズベルグまでもがポジションを落としてしまったため、ハミルトンにとっては実に楽なレースになりました。
タイヤ交換のタイミングも含めて、一度も首位のポジションを譲らず、最終的にハミルトンは、2位ベッテルに対して25秒差でのフィニッシュしました。25秒でも非常に大きな差ですが、実際にはもっと大きな差がついてもおかしくはありませんでした。
タイヤを交換した後のスティントは、ハミルトンとベッテルのペース差はほとんどありませんでした。しかし、48周目にピットから「ペースを上げてくれ!」と要請されると、ハミルトンは一気に1秒弱ペースアップして見せたのです。つまり、ハミルトンは1秒のマージンを持ったまま、約20周を走行していたと想像できるわけで、本来ならばベッテルに50秒程度の差を付けてフィニッシュしていてもおかしくはなかったと思われます。タイヤの内圧問題やロズベルグのエンジンブローなど、バタバタしたところはありましたが、実質的にはメルセデスAMGの、そしてハミルトンの“完勝”と言い切れる内容だったと思います。
さて今回は、最初のピットストップの際にウイリアムズが採った戦略を検証してみたいと思います。ウイリアムズの2台は、序盤3番手フェリペ・マッサ、4番手バルテリ・ボッタスの順で走行し、スタートに失敗して5番手を走るロズベルグを抑え込んでいました。ロズベルグはボッタスを抜こうとするも、直線スピードに優れるウイリアムズをなかなか攻略できず、しかもその都度ブレーキがオーバーヒートしてしまうという難題を抱えていました。
本来の速さには勝るものの、先行するマシンをコース上でオーバーテイクできない場合、各チームは“アンダーカット”を行います。ライバルよりも早く新しいタイヤに交換し、そのタイヤの性能を最大限発揮してペースを上げ、古いタイヤで走るライバルよりも速く走ることで、ライバルのタイヤ交換に乗じて前に出る……という作戦です。イタリアGPでも、ロズベルグはウイリアムズに対して、このアンダーカット作戦を実行します。18周目のことでした。
ウイリアムズはこの作戦にすぐさま反応し、翌周タイヤ交換を行います。タイヤの性能差が生じる周回を、極力少なくするためです。しかし、ここでウイリアムズは、通常とは異なる判断をします。この時点で3番手を行く、マッサを先にピットに呼び戻したのです。
本来ならば、ロズベルグの直前を走行する、ボッタスを先にタイヤ交換に呼ぶのがセオリーです。しかし、今回のウイリアムズはマッサを優先しています。ロズベルグがピットに入る前、ボッタスとの差は約1秒、マッサとの差は2.5秒でした。ウイリアムズのピットは、ロズベルグにアンダーカットされた場合、約1秒しかマージンのないボッタスでは、ロズベルグの前で戻ることができない、しかしここでマッサのタイヤ交換を行えば、3番手のポジションは守ることができる……そう判断したのでしょう。この判断は、決して間違いなかったはずです。
しかし、2.5秒の保険があったマッサですら、ロズベルグに先行されてしまいます。計算してみると、ロズベルグは17周目から20周目(ロズベルグのピットインは18周目)まで、6分19秒14かかっています。これに対し19周目にピットインしたマッサは、6分23秒317と、ロズベルグよりも4秒177も多く要していることになります。つまり、タイヤ交換作業はもちろん、その前後の周回のロズベルグは、驚異的に速かった。2台前を行くマシンをアンダーカットするというのは、滅多にないことであり、その間のロズベルグの集中力もさることながら、ここもメルセデスAMGの圧倒的な速さを示したシーンだったと言うことができるでしょう。
スパ・フランコルシャン、モンツァの超高速2連戦で、圧倒的な強さを見せたメルセデスAMG。優勝のハミルトンはもちろん、古いエンジンで戦ったロズベルグも、リタイアに終わってしまったとはいえ、その速さを見せつけました。パワーが必要とされるサーキットでは、まさに敵なしといった印象です。
次のシンガポールGPは、ストップ&ゴーの市街地コースであり、求められる特性は異なります。とはいえ、メルセデスAMGのマシンはトラクション性能にも優れており、当然次戦も優勝候補最有力であることは間違いありません。ただ、フェラーリにとってはスパ&モンツァよりシンガポールの方がマシン特性が合うはず。ベッテルとライコネンが、メルセデスAMGにどこまで近づくことができるか……それが、次戦最大の見所となるでしょう。また、シンガポール同様にストップ&ゴーのハンガリーで速さを見せた、レッドブル&トロロッソ勢の浮上にも期待したいところです。
さて、今年の“市街地ナイトレース”はどんな展開になるのか? シンガポールGPは2週間後の開催です。