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SMAPが見せた<前人未到アイドル>の本領 市川哲史が『のど自慢』のパフォーマンスを分析

2015年09月07日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 SMAPが出演する『NHKのど自慢』をつい観てしまった。ザッピング中に出食わしシカトしようと思ったが、やはり、怖いもの見たさの誘惑には勝てない。


 一応説明しておくと『のど自慢』とは、1946年放送開始(←当初はラジオ)の<視聴者参加の公開生伴奏番組>で、いまはともかく20世紀中は日曜正午のお茶の間を象徴する国民的人気番組だったのだ。


 その『のど自慢』が放送開始70年を今年迎えるにあたり、春先の4月、「SMAPによる70周年特別応援企画」が唐突にアナウンスされ、あまりの違和感に誰もが苦笑を隠せなかった。そりゃそうだろう、最も対極に位置する両者だもの。


 具体的には、まず香取慎吾がスペシャル司会者として4月12日@茨城県・神楢文化センター→7月19日@栃木県・那須塩原黒磯文化会館→8月2日@北海道・中標津町総合文化会館と、計3回の単独出演を果たす。この番組は言うまでもなく生放送なのだが、よりによって前日の土曜夜に同じく生放送レギュラーの『SmaSTATION!!』を抱える香取が稼動するのだから、頭が下がる。というか田舎のド素人相手だから、『欽ちゃんの全日本仮装大賞』の司会14年の経験が買われたのか。雑な仕切りでOKの両番組だし。


 そして8月30日@神奈川県・秦野市文化会館にとうとう、SMAPが5人揃って出演する運びとなったわけだ。


 何はともあれ《SMAP meets NHKのど自慢》、見どころは多かった。


 そもそも何を隠そう99年の《BIRDMAN》全国ツアー以降、SMAPは『紅白』のNHKホール以外は、ドームかスタジアムか野外のステージにしか立ってない。そんな彼らがキャパわずか1455人の、地方の絵に描いたようなハコモノに登場してるだけで、まず可笑しい。


 キー局のバラエティー番組では海千山千のゲストたちを見事に捌く実力派MC・中居正広が、己れの気配を完全に消し去っていたのはさすが。自分の芸風が昼間のベタな現場には合わないのを、充分熟知してるからこその省エネモードだ。


 だからなのか、「SHAKE」を唄ってゲストとしての役目を果たした直後「鐘2つじゃなくてよかった」と中居が漏らすという、まさに『のど自慢』ならではの超「お約束」音痴ネタも、事務的に披露された感があった。


 と完全に一歩退いていた中居と最も対照的だったのが、「俺は『のど自慢』でも手を抜いたりしないから」とばかりに、随所で熱く<いいひと>していた木村拓哉である。


 派手なジェスチャーで鐘叩きマンに厳しい採点を抗議してみたり、目が不自由な出場者が唄っている間ずっと肩を貸してみたりと、なんて『のど自慢』に能動的なことか。


 「SHAKE」も実際に生歌を唄っていたのは木村だけで、あとの4人は口パク。なので危なっかしいフェイクやら、<♪のど自慢の日は鐘が2つでもイライラしない>という替え歌やら、木村一人ノリノリノリスケさんなのであった。怖いよ。


 どんな仕事の現場でも<特別な自分>を自己演出できてしまう木村と、自分が<オンリーワンでナンバーワン>である任意のジャンル以外では死に体でも全然平気な中居。両極端ではあるがさすがSMAPの二枚看板、セルフプロデュースは的確だ。


 なんてことを茶の間で『のど自慢』観ながら考察してた暇人は、私だけだろうよ。


 この《SMAP meets のど自慢》には続篇があり、収録だけども@岩手県・山田町中央公民館篇が9月末に別枠で放映される。本番前日の予選から本番当日までてんこ盛りドキュメンタリーらしいが復興応援スペシャル色が濃い分、「日常の中の非日常」感をどうしても避けられない今回の方が断然、私には刺さった。<不自然>って面白い。


 地上最強のアイドルだったSMAPの行く末が気になっているのは、どうも私だけではないらしい。


 昨年に続き今年の『FNS27時間テレビ』でもめちゃイケ芸人たちと水泳大会でガチ勝負したSMAPの姿は、心ある者の涙を誘った。しかも局がフジ<焼け野原>テレビだったもんだからより相乗効果が増し、「SMAPはTVメディアと心中するのではないか?」と本気で噂されたわけだ。私も1年前、本コラムでこう書いた。


<TVにせよSMAPにせよ、なんだろうこの圧倒的な「どうも長い間本当にお疲れさまでした」感は。>


 1990年代、SMAP自体が当時最盛期を迎えていたTVと超ド級の共存共栄をした、<メディア・ブランド>そのものだったからだ。


 ブレイク前から積極的にTVのバラエティー番組に出演してコントにトークに高い順応力で対応したことで、彼らが示した<万能性>が平成アイドルの絶対条件となる。そしてその万能性とは、言い換えれば<キャパシティー>という名のフォルダーで、しかもその装丁そのものがコマーシャル・アートとして恰好よかったもんだから、SMAPは<お洒落なもの>として認知された。しかもそのモダンな感じとはあくまでもTV的なアプローチの賜物だけに、一般の人々にとてもわかりやすかったのである。


 それだけにTV文化の衰退と嵐への<最強アイドルの座>禅譲が重なったことで、両者はより運命共同体に映るし、事実再接近している感がある。


 そしてF2(35~49歳♀)とF3(50歳~♀)という現在のTVの主力視聴者層が、SMAPのファン層に完全一致してる点から、一連のTVベタ仕事がSMAPの延命策と見なされても仕方あるまい。今回の『のど自慢』も含めて。


 で延命策だとして、それの何が悪い?


 というか我々はこれから、未だかつて誰も見たことのない<現役スーパーアイドルの一生>を目撃てきる幸運を、感謝せねばならない。


 となると次は主戦場をTVのどこに定めるか――せっかく今回『のど自慢』を橋頭堡にしたのだから、まずはNHKだろう。厳然たる事実として人は等しく齢をとる。SMAPも我々も、だ。その先には未曾有の後期高齢者社会が待っている。


 やっぱM3(50歳~♂)も必要だ。今回の『のど自慢』本番中、出場者のスーパーリズムレス爺さんが香取慎吾ではなく香取慎吾が持つマイク本体にだけ反応していたことからも、M3層の開拓が急がれる。


 こうなったら『のど自慢』のみならず、司会が山川豊(!)の『新・BS日本のうた』の常連を狙うとか、地味に『ためしてガッテン』のレギュラー回答者に進出してはどうだろう。円熟演歌歌手勢に混じり若い身空で早くも出演してるMay J.を見習い、『NHK歌謡コンサート』で最低月イチペースで汗を流すのもいい。ちなみにこの番組、日本全国で視聴できる唯一の演歌・歌謡番組だから、絶対に外せまい。


 アイドル界の定石をすべて覆してきたイノベイター・SMAPだから、今後は超オーソドックスな活動に徹するのが最も革新的なのだ。もうがんがんどんどん、嫌になるぐらい普通のことに邁進してほしい。目指せオーディナリー。


 それでこそ<前人未到アイドル>SMAPの本領発揮、である。


 蛇足ながら、どんなジャンルの楽曲だろうが初見で伴奏できてしまう、あの通称<のど自慢バンド>は素晴らしい。しかも本番の20組20曲のみならず、本番前の予選出場者250組250曲までもこなすのだから怖い。そしてピアノ+ギター+ベース+ドラムス+シンセ×2の6人編成で奏でる、2時間ドラマのキッチュな劇伴っぽいアレンジがまた、たまらないのだ。


 それでもってゲストであるプロの歌手たちも出場者同様に、その素敵にチープな生バンド演奏で持ち歌を唄ってたから、一種のカオスかもしれない。なので今回、どんだけ素朴な「SHAKE!!」が聴けるか愉しみにしてたのだが、既に10年以上も前からゲスト持参のオリジナル・カラオケ音源に切り替えられていたのであった。ああ。(市川哲史)