トップへ

宮沢りえとリリー・フランキーの演技論 宮沢「演じているときがいちばん深く呼吸できている」

2015年09月06日 20:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『SWITCHインタビュー 達人達』HPより

 『SWITCHインタビュー 達人達』(NHK Eテレ)、9月5日の放送回(Vol.86)に、宮沢りえとリリー・フランキーが登場した。


 宮沢が「今、いちばん共演したい人」だというリリー・フランキー。まずは、リリーが出演した映画『凶悪』の話から。「あれ、本当に酷い人でしたね。すごく穏やかで虫も殺さないような見た目なのに、心のなかではすごい酷いことを考えてそうな……」と、リリーの役柄に対する率直な感想を述べる宮沢に、「あれは僕の地に近いですからね」と涼しげに応えるリリー。さらに、「『凶悪』と同時期に『そして父になる』も撮ったんですけど、3人の子どもを持つ良いお父さんっていうのは、俺の現実からいちばん遠いから……ものすごいファンタジーでした。それに比べたら(『凶悪』で演じた)殺人鬼の守銭奴のほうが、まだ自分に近いかもしれないです(笑)」と、両作を並行して撮っていた頃の自身の心境について語った。


参考:成海璃子、池松壮亮、斎藤工が共演 『無伴奏』は“学生運動の時代”をどう描くのか?


 その後、「演じる仕事を最初にしたのは?」という宮沢の問いに対し、石井輝男監督にオファーされたのが、そもそものきっかけだったと明かすリリー。彼の役者デビュー作は、“キング・オブ・カルト”の異名を持つ、石井監督の映画『盲獣VS一寸法師」(2001年)だった。役者未経験にもかかわらず、その話を受けた理由について、「石井監督の映画が大好きだったから、監督がどうやって映画を作っているのか見たかった。それだけです」と答えるリリー。さらに宮沢が、演じることの「責任」について話を向けたところ、「俺とかピエール瀧とかは、基本的に蛭子(能収)さん枠なんですよ。何かふんわりして責任を持たない(笑)。お弁当に入っているバランみたいなもので、食えないけど無いよりあるほうがいい。その枠なんだよね」と、役者としての自身のポジションについて分析してみせた。


 番組の後半は、リリーが宮沢に質問を投げかける。ある時期から積極的に舞台の仕事を始めた理由について尋ねるリリーに、宮沢は30歳のときに出演した、野田秀樹の舞台『透明人間の蒸気(ゆげ)』の現場で感じたことを話し始める。共演者の安部サダヲとともに、何もないところで何かをやってみるという“エチュード”的なことからスタートしたという舞台稽古。そこで宮沢は、ものすごい衝撃を受けたという。「阿部さんはものすごく巧みで、たくさんの引き出しがあって、あれやこれや開けて広げるみたいなときに、私は開ける引き出しがなくて、ものすごくびっくりしたんです。自分は、純粋であるとか素直であるってこと以外に、何のとりえがないことに、ものすごい衝撃を受けたんです」と。そこで感じた悔しさや、自分自身に対する怒りをバネに、宮沢はある決意を固めたという。「40歳になったとき、普通に舞台に立っていられる人になりたい。とにかくそのために今後の10年を過ごそうって思っちゃったんですよね」。


 「その感覚は、10代の頃からあったの?」というリリーの問いに、「劣等感とはまたちょっと違うんですけど、自分に自信がないんです。悲しいくらい自分に自信がない。でも、舞台の場合は、本番が始まるまでに、一応お客様からお金をもらって、観てもらうレベルまで達しなければいけないから、必死で稽古して……その忍耐力っていうか、持続力はだいぶついてきた気がします」と、現在の心境を明かした。その後、話題は、宮沢が主演した映画『紙の月』(2014年)の話に。「僕らが思っているりえちゃんが、やらなそうな役だった」と言うリリーに対し、「私のなかでは、意外なものに頑張って飛び込んだという感覚はなくて。『あ、やっと来たよ』っていうところはありました」と語る宮沢。さらに自身の性格について、「どっちかっていうと私は破壊的だし、何か自分が積み重ねてきたものがあると、いつの間にか(それを叩き壊す)ハンマーを持っている感じなんですよね」と分析するなど、自身の意外な一面を覗かせていた。


 11歳のときにモデルとしてデビューした宮沢。その当時の心境を、彼女は次のように語った。「それまではハーフっていうことですごくいじめられていたし、自分の髪の色や肌の色が自分でも嫌いだったんです。だけど、初めてスタジオに入って、メイクをしてもらっているときに、髪の色や肌の色をすごい褒めてもらって。メイクをして年齢も不詳になって、それまでそこにいた自分がいなくなっていくのが、ものすごく嬉しかったんです」。その思いは、役者の道を選んだ現在も続いているという。「演じていて、自分が自分じゃなくなる瞬間を生きてるときが、もしかしたら、いちばん深く呼吸ができているような気がします」。そんな彼女を「チャレンジャーなのに奥ゆかしい」と称賛するリリー。さらに、「挑戦できる人はどっか気が弱くないとできない。自我の強い人は確立した場所を自分で決めやすいから、けっして挑戦しようとしないんです」と自説を披露しながら宮沢の活躍を讃えた。


 その後、宮沢りえが出演する舞台『海辺のカフカ』の凱旋公演が9月17日より日本で始まり、その後もシンガポール、ソウルでの公演を予定していること、NHK BSプレミアムで放送され、好評を博したリリー・フランキー主演のドラマ『洞窟おじさん』の完全版が、10月1日よりBSプレミアムで放送されることを告知して番組は終了した。(岩倉マコ)