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ゆるめるモ!にもっと批評の言葉をーーもね&ちーぼう復活ライブを考察

2015年09月06日 15:31  リアルサウンド

リアルサウンド

『6めるモ!~ゆるめるモ!もねちー復帰祭~』の様子。

 ゆるめるモ!の現在のメンバーは6人である。ニューウェーブアイドルを標榜するゆるめるモ!というグループは、ステージ上にいる人数がよく変わってきたために、まずそういう説明から始めたほうがいいだろう。リアルサウンドでは、プロデューサーの田家大知のインタビュー(http://realsound.jp/2014/08/post-1025.html)や、メンバーのあのとバンドじゃないもん!のみさこの対談(http://realsound.jp/2014/10/post-1557.html)でおなじみのグループだ。


 2015年3月にリリースした、POLYSICSのハヤシヒロユキ作詞作曲編曲によるシングル『Hamidasumo!』がオリコンデイリーシングルランキングで13位になり、5月2日には赤坂BLITZでのワンマンライブも成功させたゆるめるモ!。しかし、その4日後の5月6日にはメンバーのちーぼうの活動休止、もねの休養が発表された。特にちーぼうの活動休止は当初1年半とされていたために、「1年半後にゆるめるモ!があるとは限らないだろう」と絶句したものだ。


 また赤坂BLITZでは、過去最大規模であるZepp DiverCity Tokyoでのワンマンライブが12月20日に開催されることも発表された。その瞬間、「このままの体制で行けるのだろうか」という不安が頭をよぎったが、その直後にメンバー2人が休むことになり、さすがに眩暈を覚えることになった。


 しかし、もねとちーぼうは無事に帰ってきた。彼女たちの復帰ライブが、8月28日に東新宿cat's holeで開催された『6めるモ!~ゆるめるモ!もねちー復帰祭~』だった。


 東新宿cat's holeに入場してみると、とにかく狭い。バーカウンター前の狭い通路を通ってフロアに行くと、100人入れば満員といった空間に、100人以上のファンが入っていた。その後、暑さに苦しむ状況になるとは、まだ予想していなかった。


 1曲目の「ゆるトロ(slo-モ!)」が始まっていよいよ6人のメンバーが登場……したはずだが見えない。ステージとフロアに段差がないので、ファンの頭頂部越しに、もねとちーぼうがいる6人編成であることをなんとか確認した。そこからカリブ風味の「べぜ~る」へ。もねの推し色のピンク、ちーぼうの推し色のオレンジのサイリウムの動きが激しい。中華風味の「1!2!かんふー!」も久しぶりに6人編成で聴けた。


 最新作『文学と破壊EP』のリード・トラック「夢なんて」は、ミドリカワ書房が作詞作曲をした楽曲。レコーディング以来初めて6人で歌うとメンバーは話していた。こうしたミディアム・ナンバーを生で聴くと、最近のボイトレの成果が如実に表れている。ゆるめるモ!の2014年のアルバム『Unforgettable Final Odyssey』は、発売当時『MUSIC MAGAZINE』のアルバム・レビューでの原田和典による採点で6点(満点は10点)だった。そこにはヴォーカルに対しての指摘があり、当時のゆるめるモ!の弱点をストレートに突かれた気がしたものだ。しかし、今ならば点数はもっと上がるだろう。「Refresh Your Jewellery Box」も「文学と破壊EP」収録曲で、ゆるめるモ!のバンド編成にも参加しているHALIFANIE(張替智広+小貫早智子)が作曲を担当。カーネーション人脈でもある彼らは、同時期にリリースされたYUKIのシングル「好きってなんだろう…涙」の作曲も担当していた。「Refresh Your Jewellery Box」は、もねの甘くクセの強いヴォーカルがアクセントになっている楽曲だ。対して、複雑な楽曲展開をする「眠たいCITY vs 読書日記」では、ちーぼうの低めの落ち着いたヴォーカルが心地いい。


 MCでは、ちーぼうが「ここがこんなに暑いってことは……盛り上がりすぎて……外の気温を越えてるってことさ!」と、事実をそのまま熱い口調で語っていたが、その点も含めて重要なキャラクターが帰還したことを実感させた。ちーぼうがまだ活動休止中だった7月12日に渋谷O-nestで「ちーぼう激励会『ゆるめるぼう!』」という一風変わったイベントが開催された。メインは、活動休止から2ヶ月が経ったちーぼうのトークだったのだが、そこで彼女は予定よりも早く復帰したいと発言したのだ。そしてさっそく翌月、彼女はもねとともにステージに戻ってくることになる。予定より1年3ヶ月も早い復帰だが喜ばしい。


 『Unforgettable Final Odyssey』の主軸を成す壮大なナンバー「OO(ラブ)」の頃になると、もう暑くて仕方がなかった。「なつ おん ぶるー」の頃には、あまりの暑さに「この会場には冷房はないのか?」と朦朧とした意識の中で考えている状態だった。


 YouTubeには、箱庭の室内楽による演奏でゆるめるモ!が「なつ おん ぶるー」を歌っている映像がある。2014年9月13日の『りんご音楽祭2014』でのライブだ。


 その年末だったろうか、私は田家大知に「あの映像のような明るいゆるめるモ!のライブを見たい」と話したこともあった。赤坂BLITZではやっとそれを見ることができた気がしたのだが、その後にもねとちーぼうがステージを休むことに。だからこそ、その2人が復帰したことは素直に嬉しかった。「なつ おん ぶるー」はゆるめるモ!というグループのサニーサイドを象徴する楽曲だ。


 「私の話、これでおしまい」でステージを見ると、あのの姿が消えていた。体調を崩したのだろうが、この暑さでは無理もない。本編ラストの「逃げろ!!」では、激しいコールとMIXが起き、この楽曲がアンセムであることを痛感した。


 「逃げろ!!」は、「自殺するぐらいなら逃げてもいい」というメッセージを機能させるために作られたゆるめるモ!というグループの思想の根幹を表現している楽曲だ。作詞は、ゆるめるモ!の重要曲の作詞を担当してきた小林愛。歌詞は、他者からのポジティブな言葉が描かれるAメロ、それを否定するBメロ、逃げることを肯定するサビという構成になっている。そして、特に胸に突き刺さるのは落ちサビ前の部分だ。


<ゆるぎない 強い気持ち
(涙を見せず走れ)
越えられない壁越え
(自分を信じてみて)
ころんだって気にしないよ
他人は無視しちゃえ
君を信じてる気持ち 


などを どれもこれも すべて持ち合わせていない場合>


 歌われているポジティブな言葉を、最後の1行で「すべて持ち合わせていない」とひっくり返しているのだ。部分的に聴くとポジティブな歌詞のようであるが、ちゃんと聴くとそんな単純な問題ではないと言っている。実にトリッキーだ。


 夏休みの終わりは子供の自殺が増えるという。8月26日、鎌倉市図書館のTwitterアカウントが発した「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい」というメッセージ(https://twitter.com/kamakura_tosyok/status/636329967668695040)はRT数が10万を超えた。そして、評論家でありHEADZを主宰する佐々木敦は、8月27日に「鎌倉市図書館のツイートの話ですぐ思い出したのは、ゆるめるモ!!(※原文ママ)の『逃げろ!!』だったよ」とツイートした(https://twitter.com/sasakiatsushi/status/636824966894194688)。彼がゆるめるモ!を聴いていた事実にも驚いたし、「逃げろ!!」を聴いて涙が止まらなかったという話にも驚いた。


 「逃げろ!!」という楽曲のメッセージについて考えるとき、私はゆるめるモ!のメンバーたちのことも考える。ゆるめるモ!はメンバーが休むことがよくあり、田家大知がメンバーのケアに追われていることは周知の事実だ。しかし、もねとちーぼうが休んでいた期間、残されたけちょん、しふぉん、ようなぴ、あのの4人はほとんどイベントを欠席することがなかった。7月には、ベトナムで開催された『Manga Festival 2015』に出演するために初の海外遠征を4人で行っている。「逃げろ!!」というメッセージを発しながら、彼女たち自身はそこに踏みとどまり、逃げることをしなかった。その姿は、ゆるめるモ!というグループが抱えているアンビバレンツのようにも見えた。


 忘れられないのは、4人編成での最後のライブになった8月23日の「BELLRING少女ハート月イチ定期主催『第四回・消エル赤血球』」での「Only You」の壮絶さだった。「Only You」はボアダムスを髣髴とさせる楽曲だ。


 YouTubeには、ちょうどその1週間前である8月16日の赤坂BLITZでの「Only You」のライブ映像がある。この日は、神聖かまってちゃんとのツーマンライブで、ゆるめるモ!は箱庭の室内楽のハシダカズマが率いる11人編成のバンドを従えていた。ところが、8月23日のライブは赤坂BLITZの広いステージに4人のみ。オケだけで歌い、振り付けもないのだ。歌い出しのときには、早くもようなぴとあのが柵に立っていたし、そのままあのはフロアへダイブしていった。あの日の4人は、逆境でこそ発揮される気迫に満ちていた。「Only You」のステージを見ながら私はただ感動していた。


 ダイブなどフィジカルな表現をするあの、慎重な言い回しが目立つものの自分の意見をTwitterでも表明するしふぉんとようなぴ。それに比べて、けちょんは4人編成のときのステージでも落ち着いているように見えたが、その彼女もまた「いつも以上に不安で押し潰されそうだったもん」とブログに記していた(http://ameblo.jp/ylmlm-kei/entry-12067414914.html)。4人編成の最後の日の「Only You」は、逃げることさえも認められているゆるめるモ!というグループだからこそ生み出せた強さが押し出されていたのかもしれない。


 アンコールは「manual of 東京 girl 現代史」。狭いライブハウスでのファンのノリは、赤坂BLITZよりもはるかに泥臭く、2014年前半の現場を連想した。そして、この翌日の『@JAM EXPO2015』では、ゆるめるモ!は横浜アリーナのメインステージに立つことになる。たったの1日違いでライブをする空間の差が大きすぎて面白い。


 佐々木敦は「逃げろ!!」について言及したときに浅田彰の名を出した(https://twitter.com/sasakiatsushi/status/636826714912387072)。私は、「逃げろ!!」という曲名はももいろクローバーの「走れ!」を念頭に置いているのだろうと思っていたが、その命令形のニュアンスには宮台真司の「終わりなき日常を生きろ」の命令形をも連想した。


 シンプルなコンセプトのグループのようでいて、個性がバラバラの生身の人間がいるからこそ、複雑なコンテクストを内包しているゆるめるモ!というグループについては、もっと言葉が費やされるべきなのではないだろうか。ライブレポートとその写真の供給が多いゆるめるモ!は、結果的にあののヴィジュアルが注目されることが多くなった。しかし、そこで話が終わりがちなのは、ゆるめるモ!が批評される機会が少なかったがゆえの不幸だとも感じる。ゆるめるモ!がZepp DiverCity Tokyoに向けて加速していくならば、それに拮抗しうる批評の言葉もまた必要だろう。そう痛感したのが、ゆるめるモ!が6人編成に戻った『6めるモ!~ゆるめるモ!もねちー復帰祭~』でのことだった。ゆるめるモ!は、音楽面についても、個々のメンバーについても、グループ全体についても、まだまだ語るべきことがあるのだから。(宗像明将)