トップへ

BIGMAMA金井政人が語る、音楽とエンターテイメントの未来「僕らは独立遊軍にならなきゃいけない」

2015年09月05日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

BIGMAMA金井政人

 BIGMAMAが“ご当地シングル”『MUTOPIA』を、全国のタワーレコード限定でリリースした。北海道、東北、関東、中部北陸信越、近畿、中国四国、九州沖縄という7つのエリアごとに異なるパッケージとなる本作。表題曲とカップリング「SKYFALL」の他に、それぞれの地方の特徴を歌詞におりこんだ「MUTOPIA」のご当地バージョンを書き下ろし、収録している。


 跳ねるダンスビートと高揚感あるバイオリンのフレーズが印象的なこの曲は「音楽の楽園」をテーマにしたもの。彼らのライブでも間違いなくピークタイムの一つとなるだろうナンバーだ。それをこういう形でシングルとしてリリースしたバンドの意図は果たしてどこにあったのか? バンドを率いる金井政人(Vo/G)へのインタビュー。話は楽曲の生まれた背景から、音楽とエンターテイメントの未来を見据えたビジョンまで、大きく広がっていった。(柴 那典)


・「音楽でいろんな場所を楽園に変えてしまおう」


ーー『MUTOPIA』はご当地シングルという形でリリースされたわけですが、これはどういうところからアイディアが生まれたんですか?


金井:話のきっかけは二つあるんです。まず、単純に曲ができたこと。それからもう一つは全国ツアーをまわるタイミングだったこと。その中で、この曲をもっと楽しんでもらうアイディアとして、それぞれの場所で歌詞を変えてリリースしようということになったんですね。


ーー曲ができたのはいつ頃のことだったんですか?


金井:今年の新年一発目にスタジオに集まって、その時になんとなく歌ったメロディーをもとにバンドでセッションが始まって、バイオリンのキーとなるリフが出てきて、そうやって仕上がっていきましたね。


ーーどういうモチーフから曲ができていったんでしょう。


金井:まず、生身の編成の中に適度な違和感としてEDMの要素が入っているようなサウンドをきちんとバンドでやりたいと思っていたんですね。もう一つは「ミュージック×ユートピア」で「MUTOPIA」、つまり、音楽でいろんな場所を楽園に変えてしまおうというアイディアがあった。それが結びついて、「MUTOPIA構想」みたいなものがふくらんでいったんです。そして、これが下北沢のUKプロジェクトというインディーズレーベルのいいところなんですけれど、「いい曲ができた」となったら「よし! レコーディングをしよう」となってくれるんですね。なので、実はツアーが始まる前の3月にレコーディングをしたんです。


ーーその段階でもう曲が完成していたんですね。


金井:そして全国ツアーが始まって、そこでもやるようになって。ツアーに来てくれるお客さんにとって、ライブハウスでしか聴けない新曲があるということが楽しみの一つになってほしいと思ったんですね。そうしているうちに、もともとあった「MUTOPIA構想」から、それぞれの場所でそれぞれの楽園があると思うようになった。各地にフェスがあるのもそうだし、地方それぞれに人間性もあるし、好きなものもたくさんある。いろんな場所のことを歌詞に書けそうだと思ったんです。そして、タワーレコードさんの協力もあって、全国で違う限定盤を出せることになった。そこで、一番格好いい曲の完成形だと僕が思うものは1トラック目で成し遂げているので、カップリング曲とはまた別に、その場所ごとに愛情を持って歌詞を書いて歌ったものを3トラック目に収録することにした。それをすることによって、BIGMAMAのCDを買いたいと思ってくれる人とのいいコミュニケーションになると思ったんです。これが、ざっくりこの「MUTOPIA」っていう曲ができて、こういう形でシングルにした一連の流れです。


ーーまずは、曲があったからこそ、そういう構想が広がってきたわけですよね。この曲が持ってるエネルギーが「MUTOPIA」構想になって、そこからそれぞれの土地に合わせて歌詞を書くというアイディアにつながった。


金井:曲単独でもそうだし、それが2時間のライブのセットリストの中でどう響くかという、総合的なところもありますね。今、僕がライブの中で心掛けていることって「いかに一晩だけの関係にならないか」ということなんです。人生の中で長く付き合えるような、添い遂げられるようなバンドでいたい。そう考えた時に、僕らのライブの中で「MUTOPIA」という曲が起爆剤になってほしい。いかに生身のバンドで非日常を体現できるかということを考えたときの、自分の中での答えの一つとしてこの曲が生まれたんですね。なので、それが「MUTOPIA」を人に喜んでもらうための題材にする一つのきっかけになった要素ではあったと思います。


・「これまでやってきたことと新しいチャレンジを上手く繋げるストーリーを描きたい」


ーーさきほどEDMとバンドサウンドをBIGMAMAなりのやり方で融合させるということを言っていましたが、そういう発想はどこから生まれてきたんでしょう?


金井:ざっくりと、自分の中では「AVICII以降」という感じなんですね。もともとEDMシーンは自分にとって遠いものだと思ってたんですよ。DJがやってるものだって。でも、AVICIIを聴いた時に、アコースティックな楽器が鳴ってるのも印象的だったし、「あ、こんな解釈も全然あっていいんだ」って思った。あとは、サマソニでZEDDも観ましたけれど、EDMの代表的なアーティストが何万人のオーディエンスを盛り上げる光景を見て、それに対して単純に何を思うかって、ロックバンドとしてのジェラシーなんですよ。


ーー嫉妬を感じた。


金井:でも、ジェラシーだけで終わらないためにやれることもたくさんあって。それこそサマソニでClean Banditも出てましたけれど、彼らはデジタルな音像とバイオリンの旋律を同居させていて。僕らも最近のライブではドラムのリアド(偉武)が生ドラムとエレドラの二刀流になっているんです。そういうところから、新しいチャレンジに対する欲求が強くあった。「ロックバンドとして、しかも日本人的な解釈でやってみたい」と思ったんですね。もともと自分達は速いビートでライブハウスを盛り上げてきたバンドだし、そこに自信も自負もあるけれど、これまでやってきたことと新しいチャレンジを上手く繋げるストーリーを描きたいと思ってたんです。それに、作った時にはもうライブで演奏しているときの無敵感も予想できていたし、10年後も自分が誇っていられると思った。そういうジャッジができていたんで、こういう曲になったんですね。


ーーたしかにここ数年の海外の音楽シーンを見てると、特にAVICIIとMumford & Sonsは象徴的ですよね。一方はEDMで、一方はカントリーの出自で、それがどっちもスタジアム・ロックとして機能している。日本でも当然そういう動きに刺激を受けるミュージシャンはいるだろう、という気がします。


金井:でもそこで、まだ誰も抜きんでていないと思うんです。だからチャレンジしがいがある。今は洋楽と邦楽のタイムラグがあるような状況でもないですからね。そういうことをちゃんと頭の片隅に置きつつ、自分たちがロックバンドとして作ってきた文脈に要素としてどう加えるかというだけの話なんです。そこには自分なりのバランス感覚みたいなものがあって、それは言葉にするのは難しいんですけど。


ーーこの曲のビートスタイルっていうのはどういう風に組んでいるんですか? 単純な四つ打ちではないですよね?


金井:ドラムのリアドが単純な四つ打ちを嫌うんですよね。彼はドラマーとしてのこだわりもあるし、飽きさせないドラミングを意識しているんで。仮にキックを四つ打ちで踏んでようと、そう聴こえさせないテクニックを使っていたりする。ビートって、僕は建築の土台だと思うんです。その上に何が乗ってて、曲を聴いた時に何が記憶に残るかが重要。この曲では、バイオリンのリフが、こういうサウンドメイキングの中でいい意味での違和感として残ればいいなっていうのが最初にあって。そこに自分がメロディーと言葉をいい形で想起させることを考えていた。だから、リズムに関してはリアドに任せきってるところがありますね。


ーー実際、この曲はバイオリンの高揚感があるフレーズが一つのキーポイントになっていますよね。これが生まれた時にも手応えはありました?


金井:スタジオでメンバー全員盛り上がりました。たとえば料理だったら、強い火力でパーッと調理したら美味しいものになったりするじゃないですか。この曲ではそれと同じ現象が起きたと思っていて。ほんの数時間のスタジオで、それぞれがそれぞれの気持ちいいものを追求した。みんなで「ここの音符がこうなってて」という会話を作りながらするときもあるんですけれど、この時は全くしてなくて。自然と曲の向かう方向がそうなっていったんです。


ーーその時の感覚として、ライブでも一つのアンセムとして響くはずだという直感があった?


金井:ありました。今までで一番強い曲を書けたと自分の中では思ってます。


ーーそういう曲ができて、歌詞もそれにハマるものが書けたからこそ、バリエーションを変えてもOKっていう発想になった?


金井:そうですね。1曲目の歌詞を変えて出すという形だったら抵抗があったと思います。この曲のあるべき姿、自分が思う一番格好いいものは1曲目で歌ってるものなんです。僕の中では<傷なんて舐め合えば 朝には消えるだろう>っていう一言が言いたくて。ただ、ツアーで歌う中で、場所ごとによって地名を変えたくなったんですよね。それって、自分が好きなバンドのライブを観て嬉しかったことの思い出の中にちゃんとあるものだし。


ーーたしかに、ツアーだとその土地の名前を歌に盛り込んだりしますもんね。それをレコーディングされたパッケージでもやってみよう、と。


金井:ただ、計7回レコーディングして、コーラスを入れるというのは千本ノックのようなレコーディングでした(笑)。ジャケットも7パターンをスタッフと一緒に作ってチェックして、作業は思ったより大変でしたね。


ーーでも、これはやった甲斐はあったと?


金井:思います。手応えはありますね。


・「長く続くバンドって、圧倒的に唯一無二」


ーー最近、地方ごとのバンドシーンの特色が少しずつ明らかになってきていると思うんです。特にここ数年は大阪から出てくるバンドに勢いがあったり、各地で違うバンド文化が形成されている。そのあたりはどう感じます?


金井:そのことについては、僕の中で、逆説的に思うことがありますね。東京は常に多数決が行われているような気がするんです。


ーー常に多数決が行われている?


金井:たくさんの人がいいって言ったものが主流になっていく。でも、その多数決は作られた流行かもしれない。「みんな好きでしょ?」ってところに平均化されて納まりがちだと思うんです。比べると、地方のほうがブレーキがないというか、最適化される以前の目立ちたい、尖りたいという欲求が勝ってる気がします。


ーーなるほど。


金井:場所ごとに流行ってる音楽が違うとは思わないんですよ。それぞれの場所でロックが好きな人がいるし、レゲエが好きな人がいるし、クラブミュージックが好きな人がいる。何が元気かは、そこから出てきたアーティストがいるかどうかにつきると思います。人気のあるアーティストが出てきたら、そのバンドを筆頭にしたピラミッドができるんです。


ーーその土地その土地で、先輩後輩の関係が生まれる。


金井:そうですね。そのバンドに憧れたバンドが出てきて、ちゃんと下の世代に繋がっていくと思うんです。各地方ごとに地元を大切にするいいバンドが出てきて、そういう関係が生まれているんだと思いますね。


ーー地方の音楽シーンということでいえば、今は各地のフェスやイベントも増えてきたし、根付いてきていると思います。そのあたりに関してはどういうことを思いますか?


金井:今、日本中のいろんなフェスやイベントに呼んでいただくようになって、そこで思うのは「僕らは独立遊軍にならなきゃいけない」ということなんです。


ーー独立遊軍?


金井:さっき話したピラミッドの構造みたいに、各地で素晴らしいバンドが出てくると、それに憧れるたくさんのバンドが出てくるわけですよね。でも、僕らとしては、誰かとの比較対象になってはダメだなと思ってるんです。やっぱり、長く続くバンドって、圧倒的に唯一無二だと思うんです。僕としても、主観的にも客観的にも唯一無二に見える音楽を鳴らせてないと格好よく思えなくなってきていて。それを自分たちにも強く言い聞かせるようになったのが『Roclassick』を作り始めた時期だったんですね。で、今は2時間のショーを作る時も、イベントに呼んでもらって30~40分でダイジェストにするときも、ロックバンドとして奇をてらわずに気持ちのいい違和感を作ることを意識して実践できている。だから、サマソニに出た時にも、洋楽のバンドと邦楽のバンドがいる中で、ちゃんと孤立できてる実感があったんですよね。


ーー今、俯瞰で見ても、BIGMAMAというバンドはたしかに独自なことをやっている感じはありますね。


金井:最近、感動ってどうやったら生まれるのかを研究しているんです。どうやったら感情を動かすことができるのか。それをメンバー5人で、誰にも真似できないやり方で音楽にしていくことがBIGMAMAのやることだと思っていて。そうやってアルバムを作って、ツアーをまわって、その中で足りなかったピースとして「MUTOPIA」を作った。自分の中ではBIGMAMAというバンドが完成してきている感じがあるんです。


ーー完成してきているというと?


金井:いろんな道を歩んできて肝が据わったというか、自分たちのバンドとしての欲求がどこに向かってるかわかったという。何万人が押し寄せてもおかしくない音楽を鳴らしていると思うけれど、人を集めるために音楽を作っているというより、いかに純粋な気持ちを突き詰められるか。そこに没頭していることが単純にミュージシャンとして一番楽しいんですよね。


ーーそのための大切な一曲として今回のシングルをリリースしたわけですね。


金井:そうですね。それと同時に、このシングルはいかに今の自分たちがCDで遊べるか、面白いことができるかという試みでもあって。というのも、それこそ、CDに対していまだに期待をしている反面、悲観もあるんです。


ーー悲観もある?


金井:僕は昔レンタルビデオのショップで働いていたことがあったんですけど、当時はひたすらVHSをDVDに変えていく作業をしてたんですよ。ビデオテープがなくなって、同じ作品のDVDが入荷するところに立ち会ってたんですね。今はCDもそうなのかなと思うんです。


ーー定額制のストリーミング配信が普及してきましたからね。


金井:でも、それって、もともと音楽に価値があって、単にプラスチックのケースと円盤というガワが古くなってきただけの話なのかなと思っていて。そう思ったら、「今は今できることを楽しもう」という考え方に切り替わったんですよ。今ならまだ、作品ごとにジャケットを作って、それを全国各地で限定盤として出すということを楽しめる。ひょっとしたらそれは今しかできないかもしれない。そう思ったら、自分でもOKのスイッチが入った、期待もしてるけど、悲観もしてるっていうのはそういう意味なんです。


ーーここからは未来の話をしたいと思うんですが、まず、音楽を巡る環境はどんどん変わっていくと思うんですけれど、そこに対しては金井さんはどう思いますか?


金井:たぶん自分の生きているうちに音楽のあり方は何度か変わると思っていて。でも、スマートフォンやPCで聴くときに、どんなにいい音質でレコーディングしたとしても、どうしてもよさが伝わりきらない瞬間はあって。そういうときに、いかにアナログと向き合っていくかも、アーティストのこれからのバランス感覚としてすごく必要なんじゃないかと思います。デジタルなものが増えてきたら、アナログなものに欲求が戻る瞬間がある。


ーーそうですね。アナログの価値は見直されていくと思います。


金井:楽器を手で触って、実際に音が鳴るということにも体験の価値がありますからね。あと、体験ということで言えば、やっぱりディズニーランドってすごいですよ。僕らが出るフェスって何万人集まったというのがニュースになるわけだけれど、それを毎日やっている。


ーーそうですよね。


金井:何かを体験するっていうことにはすごい価値があるんですよね。僕らも、僕らなりにちゃんとバンドで、音楽でそれを用意したい。そもそも、お金を使って、休みを作って何かを楽しむってことに関しては全部のエンターテイメントがライバルだと思うんです。だから、そういうディズニーランドみたいなものも、自分と関係ない世界の話だと思ってたらダメだなと思いますね。


ーーそこでできることは、まだバンドにもたくさんある。


金井:自分は今の現状に満足していることは一度もないんですけど、少なくとも、どんな未来が待っていようと怖くはないですね。緊張感もあるけど、ちゃんとワクワクとドキドキを用意できてる実感が自分の中にある。僕だけじゃなくて、BIGMAMAの5人でそれをできているんだと思います。


(取材・文=柴那典/撮影=下屋敷和文)