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江口洋介や本木雅弘らアラフィフ俳優の魅力とは? 『天空の蜂』役柄から考える

2015年09月05日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2015「天空の蜂」製作委員会

 昨今は、西島秀俊(44)や、大泉洋(42)や、長谷川博己(38)など、アラフォーの俳優の主演作に注目が集まることが多く、ネットのニュースでも注目を集めることが多い。しかし、その上の世代、アラフィフの俳優たちは、どんな活動をしているのだろうか。


参考:竹野内豊のコミカルな魅力から探る、「アラフォー俳優」サバイバルの条件


 9月12日から公開の東野圭吾原作の『天空の蜂』には、江口洋介(47)や本木雅弘(49)などのアラフィフ俳優と、綾野剛(33)、向井理(33)といったアラサー俳優がメインキャストとして出演していて、アラフォー世代はほぼ出演していない。しかし、この映画を見ると、アラフォーとアラフィフの担う役割が違うことに気づかされる。


 CMでも顕著だが、昨今のアラフォー俳優というのは、ちょっと頼りなげな中間管理職を演じることが多い。例えば、「JT Roots」の竹野内豊の、失敗するとすぐに凹んでしまう上司や、西島秀俊の「日清ラ王」の妻にラ王を食べたいと言えない夫、「ダイハツムーヴ」で小松奈々に冷たくあしらわれてしまう長谷川博己の姿などを思い出すと、イメージできるだろうか。


 対して、アラフィフは「まだまだ現役」とばかりに、ちょっとギラギラした部分を残す役を演じることが多い。本木雅弘の「トヨタ アルファード」のCMのロケ地は、第一弾が高層ビルが立ち並ぶドバイで、第二弾は欲望と情熱の街、ブエノスアイレスであった。ブエノスアイレス編では北川景子とタンゴを踊り、まだまだ大人の色気が顕在であることを匂わせる。ちなみに、このCMのキャッチコピーは「高級車をヒーローに。」である。また、「トヨタ マークX」のCMの佐藤浩市(54)もまた、女性の部下から「ずっと部長の部下でいること、でしょうか」と告白され、「無理言うなよ……」と困った表情を見せるシーンへと続く。


 それは、彼らの年代の社会的な役割ともリンクしていて、そのために、映画やドラマで求められる役も変わってきているのだろう。アラフィフ俳優は、人に頼られるとますます頑張れるし、かっこもつけられる役を演じられる。かっこつける自分を、自分でつっこんでしまったり、ヒーローに憧れる気持ちはあるけれど、それはしゃらくさいと思っているアラフォー俳優にできる役とはまた違うのだ(個人的には、同年代のため、そういうアラフォー世代の気持ちのほうがしっくりくるが)。


 『天空の蜂』のアラフィフたちは、いろんなものを背負っている。何と言っても、全長34メートル、総重量25トンもの巨大ヘリコプターのビッグBと、その真下にある原発が彼らの敵である。江口演じる湯原はビッグBの設計士として、本木演じる三島は原発の設計士として、危機を回避しないといけない。ぼんやりしたり失敗したりしてはいられないのだ。特に江口は、この危機を救うために、『ミッション・インポッシブル』のトム・クルーズ張りのアクションも演じている。


 ビッグBと原発に対峙するのは、何も江口や本木だけではない。“天空の蜂”と名乗るハイジャック犯を追う刑事を演じた江本明(66)、原発の所長を演じた國村隼(59)演じる原発の所長、そのほか佐藤二朗(46)、光石研(53)、手塚とおる(53)、竹中直人(59)、石橋蓮司(74)、そして唯一のアラフォーである、やべきょうすけ(41)など、大人の俳優たちそれぞれに、それぞれの葛藤と役割があるのも映画の魅力である。江本演じる刑事の発する「これは俺たちの仕事だ!」というセリフや、江口演じる湯原の「でもやるんだよ!」という、根本敬の『因果鉄道の旅』を彷彿させるセリフも印象深い。


 ちなみに、綾野剛演じる謎の男や、原作にはなかったが、重要な役を演じる向井理といったアラサー俳優陣や、航空自衛隊員を演じた永瀬匡(22)、江本明演じる刑事の部下を演じた落合モトキ(25)も、映画の中でそれぞれが、仕事をまっとうしている。この作品は、さまざまなキャラクターが、やるべきことをやる姿が描かれた映画だともいえるだろう。


 劇中の江口洋介は、巨大ヘリと原発に立ち向かうために、技術者であるというのに、果敢に現場に乗り込み危機を救う。その姿に迷いがないのを見て、これはヒーローになることに照れのあるアラフォー世代ではなく、そんな照れを感じないアラフィフが演じて輝くタイプの映画だなと感じた。(西森路代)