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乃木坂46が掴みつつある「らしさ」とは? 神宮2Days公演に見たグループの成長

2015年09月04日 22:11  リアルサウンド

リアルサウンド

乃木坂46『真夏の全国ツアー2015』明治神宮野球場公演の様子。

 乃木坂46が8月いっぱいをかけて催してきた『真夏の全国ツアー2015』は、8月30・31日の明治神宮野球場での公演でファイナルを迎えた。明治神宮野球場は昨年のツアーファイナル以来、一年ぶりの会場である。昨年のライブでは経験と自信をつけてきたアンダーメンバーの躍進や、センターポジションを背負った西野七瀬の頼もしさなどの見どころが随所にあったが、今年はまたグループ総体としての成熟度に、昨年からの大きな進化が見られた。


 昨年との比較でいうならば、アンダーライブの経験値によってパフォーマンスを牽引したアンダーメンバーにせよ、センター経験者たちが蓄えてきた力強さにせよ、去年の段階では、まだそれらの要因はグループ全体としてひとつに溶け合ってはいなかったのかもしれない。だからこそアンダーはライブ経験を武器に、選抜メンバーに対抗する存在として目を引いたし、またシングル表題曲では、センター経験者各々の頼もしさが際立った。しかし今年のツアーファイナル2公演は、いわばメンバー個々の要素よりも“乃木坂46”というグループ総体としての統一的なレベルアップの方が強く印象に残った。それは、この一年を通じて選抜、アンダーそれぞれが徐々に対等の役割を獲得していくなかで、個々の武器がひとつのグループとして溶け合ってきたということのように思える。12thシングル『太陽ノック』リリースに際して、リアルサウンドに掲載した伊藤万理華・中元日芽香インタビューでは、二人がともに、選抜/アンダーと分かれるのではなくグループ全体としての活躍を意識した発言をしていたが、このツアーではそうした意志が結実していたともいえそうだ。


 昨年のライブではアンダーの象徴としての意味合いが圧倒的に強かった「ここにいる理由」も、30日にのみ披露された10thシングルのアンダー楽曲「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」も、今年はアンダーメンバーを際立たせるための楽曲というよりも、乃木坂46というグループ全体の一パートを担う印象になっていた。それはセットリストの中で、「ガールズルール」「夏のFree&Easy」「気づいたら片想い」といった表題曲と並列されることでより明確になる。このツアーのセットリストでは、アンダー楽曲は選抜表題曲に対抗するものではなく、表題曲と同格にグループを支えるものになっている。二期生を含めた全員が正規メンバーになっている環境を含め、全員が横一線に並んでひとつの統一感を作れていることが大きい。


 個々のメンバーのことよりも、グループ一体となってのレベルアップの達成について書いてきたが、それでも乃木坂46の軸として常に意識せざるを得ないメンバーがいる。それが12thシングル時点でのセンター、生駒里奈だ。開演すると、ライブ1曲目の「太陽ノック」を控えて、彼女は花道が交差する中央点にただ一人で立ち、静かにメンバーを待つ。その佇まいの気高さは、彼女がただ最新シングルのセンターであるだけでなく、ここまでに乃木坂46が築いてきたグループとしての厚みを象徴する人物でもあることを思わせるものだった。そして、デビュー以来どのポジションにいようと、乃木坂46の絶対的なシンボルであり続けてきた生駒を基点にして、周囲のメンバーにも光が当てられるように感じる。生駒がセンターポジションを離れていた6thから11thシングルまでのおよそ2年間、白石麻衣、堀未央奈、西野七瀬、生田絵梨花といったメンバーがそれぞれに葛藤しながらセンターポジションを経験してきた。そのことによって、グループの顔になるメンバーの数は確実に増えている。ライブ後半のパートでは生駒以外のメンバーがセンターを務めた楽曲が続いたが、巨大な求心力を持つ生駒が存在するうえで、さらに主役を張れるメンバーが他に幾人も存在していることを示す時間でもあった。乃木坂46というグループの層はいま、かつてなく厚い。彼女たちがフロントとしての安定感を盤石にしたことで、今度は次なるフロントメンバー候補の動きも楽しみになる。かねてより存在感の強い衛藤美彩、「魚たちのLOVE SONG」で普段の柔らかなイメージとは違う強い表情を見せた深川麻衣、といったメンバーは、センター経験者に伍するだけの準備ができているように見えた。こうした「次」をうかがうメンバーたちの活躍はグループ全体を昨年とは一段違うレベルに上げていく。


 今回のツアーは全体を通じて、「乃木坂らしさ」というフレーズがキーになっていた。もっとも、ここで追求されている「らしさ」にはあらかじめ明確なイメージはない。思えば乃木坂46は、これまでも形の定かでないものを追いかけてきたグループだった。「AKB48の公式ライバル」というデビュー前からの肩書きは現在でも生きているが、当初すでに巨大な存在だったAKB48に対して、生まれたばかりの乃木坂46は一体何で対抗すればいいのか、ビジョンは見えていなかった。AKB48の姉妹グループのように常設劇場という拠点もないなかで、「ライバル」たりえる方向性を模索するほかなかった。言ってみれば、その独自の方向性が「乃木坂らしさ」になるはずのものなのだろう。


 その独自の方向性はとくにこの一年ほどで、イメージやトータルのコンセプトよりも先に個別の要素として花開き始めた。「君の名は希望」「何度目の青空か?」に代表されるミディアムバラードは、いつしかグループを代表する楽曲レパートリーとして認知されてきた。また、長期間をかけてファッション誌との関わりを築いて、モデル業に進むメンバーを輩出してきた流れや、演劇活動への傾斜を本格化させていく兆候も今年に入って明確になった。それらのいずれも、瞬発力でファンをつかむ性格のものではない。落ち着いた環境でゆっくり時間をかけてその特性、魅力を伝えていくような持ち味の活動である。そして、そうした性格は昨今、乃木坂46独自のブランディングを方向づける基調になってきたように感じられる。あらかじめコンセプトや特定のカルチャーを当てはめられていたわけではない乃木坂46の場合、「らしさ」とはこのように後から生まれ出てくるしかないものなのだろう。その意味では、独自のブランディングを築きつつある今年だからこそ、「らしさ」という一見当て所のない言葉をテーマにすることにも意味があるのかもしれない。


 実のところ、ライブ本編終盤の展開は、とても周到に「乃木坂らしさ」を用意したものであるように見えた。生田絵梨花の弾くピアノとフルオーケストラをバックに歌われる「何度目の青空か?」「君の名は希望」は今ではグループのトレードマークになっている。そして本編ラストの「悲しみの忘れ方」もまた、その2曲を引き継いでフルオーケストラでライブを締める。先に述べた、落ち着いた環境でゆっくりその魅力を伝えていく乃木坂46の基調が、この本編大詰めを迎えて最大限に発揮されていた。本編最終盤のこのパートがもたらしたインパクトは、この先の乃木坂46のライブパフォーマンスにとって重要な先例になるに違いない。


 模索をしながらグループに合う方向性をようやく探り当てたからこそ、いま掴みかけている「乃木坂らしさ」は強い。日常的にライブを行なうAKB48とは、そもそも「らしさ」を作っていくための前提も大きく異なるだろう。しかしそれでも、乃木坂46の性格をフルに押し出すことで、荘厳なインパクトの強さを見せつけるライブを成し遂げることができる。細かな完成度はまだいくらも高める余地はあるはずだが、今後につながる形を見つけたこのツアーは、グループが順調に成熟していることをうかがわせるものだった。(香月孝史)