トップへ

Awesome City Club×CAMPFIRE・石田光平対談 メジャーバンドがクラウドファンディングを使う意義とは?

2015年09月04日 22:11  リアルサウンド

リアルサウンド

左から、atagiAwesome City Club)、石田氏、PORIN(Awesome City Club)。

 Awesome City Club(以下、ACC)が『CAMPFIRE』にて、7inch&CDシングル『アウトサイダー』制作プロジェクトのクラウドファンディングを成功させた。同企画は、ACCがファンへ向けてシングル制作にあたっての資金支援を求めたもので、パトロンとなったファンには、メンバーそれぞれからのリターンメニューや、メンバー全員とのバーベキュー、「あなたのために1曲どこでもライブやります」企画、オリジナル曲の書き下ろしなど、金額に応じてさまざまな特典を用意した。リアルサウンドでは、ACCが9月16日にリリースする2ndアルバム『Awesome City Tracks 2』のリリースに伴い、インタビュー&対談企画を実施。第一弾となる今回は、メンバーのatagi&PORINと『CAMPFIRE』を運営する株式会社ハイパーインターネッツの代表取締役・石田光平氏による対談を行い、ACCがクラウドファンディングシングルを作った理由や、メジャーレーベル所属のバンドが同サービスを利用する意味、インターネット社会におけるサバイブの仕方など、音楽とサービスの接点について、存分に語り合ってもらった。


・「クラウドファンディングで受注生産的に作るのが合理的なのではないかと考えた」(atagi)


――まずはACCがクラウドファンディングで作品を制作することになった理由を教えてください。


atagi:僕自身に、かねてから7inchレコードを作りたいという憧れがあったことが大きいです。近年は、海外や国内、ベテラン・若手問わず、7inchレコードをリリースしていますし。ただ、具体的にどうすればよいか、何枚生産すればいいかなどがわからず…。欲しい人に確実にレコードが行き渡るようにするには、クラウドファンディングで受注生産的に作るのが合理的なのではないかと考えたんです。


――ではここで石田さんにいくつか質問です。様々な人が多様な目的でクラウドファンディングを利用しますが、そのなかで音楽に関わるプロジェクトの割合はどれくらいでしょう?


石田光平(以下、石田):『CAMPFIRE』のプロジェクトは19カテゴリに分類されるのですが、そのなかで音楽の占める割合は全体の25%ほどですね。「音楽」というジャンル内では、「CDなどの音源を制作する」「ライブ・イベントを開催する」プロジェクトが多いです。アイドルに関するプロジェクトもあります。


――そのなかで、受注生産的な使い方をするのは全体の何%くらいですか。


石田:三分の一くらいですかね。僕個人として、ACCの取り組みは、ただCDやアルバムなどを制作するだけでなく、一歩進んだ「遊び心」があるプロジェクトだったので、すごく面白いと感じました。もちろん、実験的な分、上手くいかなかったときのリスクもあるわけですが、今回のように大きくサクセスしたことに意義もあると思います。


――なるほど。なぜACCは数あるクラウドファンディングサービスから『CAMPFIRE』を選んだのでしょう。


atagi:面白い試みや若手のミュージシャンたちがよく『CAMPFIRE』を利用しているのを目にしていて、自分たちの企画もお任せしたらスムーズに行くのではないかと想像できたし期待が持てたからです。石田さんは、なぜこういうサービスを始めたんですか?


石田:僕自身はミュージシャンでもアーティストでもありませんし、曲も作れないし絵も画けないしプロデュース的なこともできません。でも、世の中を見渡すと、そんなアーティスト達にお金を出資することで関わりをもっている人たちがいることに気付いたんです。そこにより多くの人が関われば、何百万円・何十万円単位ではなく、数百円程度から関われるようなシステムになって面白いなと思って、『Kickstarter』などのクラウドファンディングサービスに目を付けましたが、日本にはまだそのシステムがありませんでした。それなら自分がやろうと思ったのがきっかけですね。僕自身もお金を出すことでアーティストと関わりたいという気持ちが強いため、『CAMPFIRE』内だけでもこれまで100件以上のプロジェクトに、数十万円単位で支援を続けています。


atagi:「やろう!」と思って作れるノウハウはあったのでしょうか。


石田:全然ありませんでしたし、日本では法律的にこのようなシステムは違法なのではと思ったところで一度躓きました。調べてみたら、日本では出資法や金融商品取引法などが存在しますが、『CAMPFIRE』は“お金を出して物をもらう”、つまり単なるECサイトと同じものなので、それらの法律は当てはまらないということがわかり、あとはスムーズに行きました。


atagi:僕たちも、実際に『CAMPFIRE』のシステムを使わせてもらう立場になって、音楽以外にも様々なプロジェクトを見たのですが、「これを今まで見逃していたのか…」というくらい面白い企画が沢山ありましたね。


石田:クラウドファンディングの良いところは、「CDや本の裏に自分の名前が載る」や「映画のエンドロールに自分の名前が載る」といったように、普通に購入するだけでは得られない、作品に関わっているという思い入れや、体験を共有できることだと思います。


――PORINさんは今回のプロジェクトを通して、何を感じましたか?


PORIN:音源を新しい形で提案できたことは、一番良かったことだと思います。また、ファンの方にとっては、リターンの大きさに応じてメンバーとの距離感が近くなるというのも面白かったです。もっと反対意見が出てくると思っていましたが、良い感じに盛り上がって安心しました。


・「目的意識を持って利用してくれる方のほうが、原盤制作費支援を募るより多い」(石田)


――今回、ACCが行った取り組みについては、一部から「なぜメジャーアーティストがクラウドファンディングを使うのか」という意見もありました。


atagi:クラウドファンディングに対して、「原盤制作費がないから投資してください」という目的でサービスを使っているというイメージを持っている方が多いからだと思うのですが、冒頭に言ったように、僕らは「受注生産」のような形を提示するためにこのプロジェクトを始めたという経緯があります。CDを購入するだけなら1500円、7inchシングルもセットなら3000円というように、店舗展開されているような大きな流通規模よりは多少高価になりますが、それでも欲しがってくれる人だけに届けたかったから。規模の感覚の違いが伝わっていれば、そういう問題は起きなかったと思うし、上手く伝えきれなかったのかなと悔しい気持ちになります。


PORIN:私たち自身も、「プロジェクトを単純に楽しんでもらえたらいい」という気持ちでやっているので、「お金がない」とか「メジャーだから」とか、そういうことに拘りたくありませんでした。今回の取り組みをきっかけとして、同じようなやり方がどんどん広まって、主流になっていけばいいと思っています。


――では石田さん、ACCのように、実際に原盤制作費支援以外の目的で、音源を作りたいというアーティストはどのくらいいるのでしょうか。


石田:「何かを一緒にやっていきたいし、新しい取り組みをしたい」という目的意識のうえで利用してくれる方のほうが、単純に原盤制作費支援を募る方より多いです。通常やっていることにプラスアルファをして、より楽しんでもらうための企画を立て、それを一緒に実現するために支援を募るという形ですね。そのため、プロジェクト自体にもただ作るだけではない、支援するに値するような実験的なものなどが少なくありません。


――クラウドファンディングシングルとしてリリースする楽曲は、9月16日リリースの2ndアルバムにも収録されている「アウトサイダー」ですね。同曲はストリングスを多用したアレンジなど、バンドとしてより広い地平へ踏み出そうとしているのが伝わってくる楽曲です。


Atagi:まさに、バンドとして一皮むけたいと思って作ったんです。今までにないアプローチや、これまでの自分では出てこなかったような感覚で曲を作りたくて、いろいろ試行錯誤をしていました。メロディーとコードと簡単なアレンジをモリシー(Gu)に聴かせたところ、「この曲のリアレンジをしたい」と提案してくれて、数日後に上がってきたトラックを聴いたら、ストリングスがたっぷり入っていてとても新鮮でしたね。意外とゴリゴリのR&Bっぽいストリングスのアレンジではなく、少し室内楽っぽい、温かみを感じるアレンジになったことが、個人的には良かったと思っています。クレジットには載っていないのですが、メロディーも歌詞も、メンバーがいろいろと首を突っ込んだりしているので、みんなで作った曲というイメージが強いかもしれません。


PORIN:「アウトサイダー」という曲名は、私のアイデアだしね。歌詞に関しては、主宰のマツザカが、「SNSが定着した世の中での、人と人の繋がりあい」をテーマに書いています。


――それは今回のクラウドファンディングプロジェクトを意識して?


atagi:いえ、作った当初は意識していませんでしたが、結果的にかなり密接な曲になりましたね(笑)。僕らはSNSをすごく活用して、寄り添って生きているタイプなので、そこに対して否定的な感情はなくて。ただ、特殊なものだなとは感じていたので、その不思議な感覚を歌にしました。


PORIN:実際に会っていなくても会った気になるもんね。


石田:僕も、完全にインターネットが当たり前にある環境の人間なので、同じ感覚ですね。Facebookこそ最近見ませんが、Twitterは毎日見ていますし。今日も、ここに来る前に「今からの取材が最高に楽しそうだ」とつぶやいてきました(笑)。本当にSNS上の距離感って不思議で、知らない人がすごくフレンドリーに話しかけてくるなと思ったら、その人がTwitterのフォロワーさんだった、みたいなことも頻繁にありますし。でも、ネット上とリアルで人格が違う人がいるから、気を付けた方がいいですよ(笑)。


atagi:結果的に、良いとか悪いとかの話ではないと言いつつも、実際に会って話しをするのがやっぱり一番早くて間違いがないですよね。


・「みんな“素”を出せるようになったし、メンバー間の会話も増えた」(PORIN)


――ACCに関しては、デビュー前からの戦略的な動き方を含め、かなりプロモーションすることに自覚的なバンドだというイメージがあります。2ndアルバムをリリースするいま、価値観はどう変わっていますか?


atagi:4月に1stアルバム『Awesome City Tracks』をリリースしたことで、メンバー全員の肩の力がすごく抜けました。今までは先が見えなくて不安だったから、どうしても「尖ってなきゃいけないし、話すことも斬新じゃなきゃいけない」と思ってたんですよね。そういう意味では、煩悩がなくなったというか…。


――肩肘を張らず、自然体で取り組めるようになりましたか。


atagi:はい、その結果として全員が「良い音楽とは何か」という禅問答にぶつかるようになりました(笑)。もちろん、今も答えは見つかっていないですが、人から「良い音楽だね」と言われるのはすごく嬉しいですし、そのように思われたいという欲求は実際あります。いまは2ndアルバムの制作を終えて、音楽に対して真面目な態度の自分と、どうせやるなら面白楽しくやりたいという態度の自分が混在しています。今回のクラウドファンディングに関しては、後者の自分が顔を出したというか。


PORIN:当初のACCにあった、ガチガチに決められていたコンセプト感は段々無くなってきていて、人間味溢れるバンドになってきたと思います…(笑)。どんどんみんな“素”を出せるようになったし、メンバー間の会話も増えました。atagiくんも言っていますが、良い音楽を作ることと、自分たちが楽しむことに集中できているんです。内面から変わっていっているというか。


atagi:結局はバランス感覚で、どちらかだけやっていれば済むという訳ではないんですよね。音楽をやっていくことも、自分たちがどのように見てもらいたいのか考えることも好きなのは変わらずに、いまは音楽側に重心が傾いているといえます。


――支援する側として、石田さんが感じる「良い音楽」ってどういうものなのでしょう。


石田:「売れる音楽」だと思います。「売れるもの=良いもの」と考えたときに、何が良かったから売れたのかという要因は、音が良いとか、マーケティングが良いとか、コンセプトが良いとか、一つじゃない。特に今の時代は色んな要素を含んでいるのではないでしょうか。


――ちなみに、石田さんは音楽業界のプロモーションについてどう感じているのでしょうか。


石田:一番勿体ないと感じるのは、Twitterで気になって、プロフィールからHPに飛んだけど、重くて見れないとか、デザインに凝りすぎて表示が遅いとか。まずは良い曲があることが大切ですが、インターネットに関してはその先にあるものもまた重要視されると考えています。それと、僕はファンにもグラデーションのようなものがあると思っていて。ライブハウスにも足繁く通い、音源も毎回買ってくれるような“濃い”ファンと、興味をもてばライブに来てくれるくらいの“薄い”ファンがいる。全員に対して均一なものを投げかけるのではなく、そのグラデーションに合うようなプロモーションをすれば、もっと面白くなるのではないでしょうか。ファンのなかにも、自分の好みのアーティストにもっと関わりたくてお金を出す人もいれば、そうでない人もいるわけなので、それぞれに合ったやり方の必要性を感じています。濃いファンばかり集めれば経済的には問題ないと思いますが、それだけじゃ上手く行かないから難しいですよね。


――ACCは濃いファンに向けたプロモーションが多いイメージです。インディー時代にまったく音源をリリースしないという施策も含めて。


石田:すごい。故意的にそうしたんですか?

atagi:何となく、勿体ぶっていればジワジワと熱も高まるだろうと思って。


石田:なるほど。そうやって飢餓感を煽ったんですね。


PORIN:あと、きちんとした環境で音源を作ってから広めたいという気持ちもありました。


石田:音源を安易に出してしまうことで、自分たちの力を出し切っていない作品を世に広めて、それがマイナスに働くという恐れがあったと。


atagi:そうなったら嫌だなと思って。結成当初の環境下では、音質を突き詰めることもできませんでしたから…。あと、グラデーションの薄い部分のファンを増やすという話は面白いですね。


石田:濃いファンより、薄いファンを増やすことの方が難しいと思います。僕はアイドルが好きなのですが、彼女たちはまず視覚でパッとわかるから、比較的軽いファンも付きやすいですよね。バンドだと、アーティスト写真とかMVがその役割を果たすのかも。


PORIN:ACCは、結成当初からアーティスト写真に強い思い入れがあって。知らない人の目にまず映るのがそこだと思っているので、かなり突き詰めたものを作り続けています。


atagi:音楽的なところでいうと、自分の趣味が1、2年で変わってしまうので、特定のジャンルに対する固執はないんですよね。良い曲が作れればそれでいいというか。


――その“良い”かどうかの判断基準は?


atagi:メロディーが良いかどうか、あとはその良いメロディーに言葉がしっかり嵌まっているかどうかですね。この核に関しては、自分が音楽を作り始めてからずっと変わっていないと思います。


石田:ちなみに、メジャーデビュー前と後ではどういう変化があったのでしょうか。


atagi:根っこの基本的な部分は変わってなくて、それぞれの場所に適しているかどうかなんだと思います。お茶の間に受け入れられたいと思うアーティストにはメジャーが向いているし、“分かる人にだけ理解されれば”と考えているのならインディーのほうが適正はあるのかなと考えています。


PORIN:私の場合は、メジャーデビューしたことで「これで一生ご飯を食べて行こう」という覚悟が決まりましたね。自分のやりたいことをやって、お金が発生してそれを受け取る、という経験は初めてだったので。もちろん、色んな人が関わってくれることによって、自分にも責任感が増してきたというのもあります。


atagi:確かに、インディーのままだったらまだ青しけたことを言っていたかも。そういうプロ意識というか、マインドの部分での差は出るかもしれないですね。


石田:なるほど。あと、クラウドファンディングを利用して、どれくらい新しい人たちに知ってもらえたと感じていますか?


atagi:クラウドファンディングを利用してシングルCDをリリースしますと発表したこと自体がニュースになったりして、プロモーションの役目を果たしたと思います。ただ、それでどれくらいの人にまで伝わったのかということは分かりませんが、SNSでも色んな方からの反応が目立ったので、ある程度広まった実感はあります。


・「最終的には “Awesome City”を作ります(笑)!」(PORIN)


――『CAMPFIRE』として、スタートしたプロジェクトに対する支援は行っているのでしょうか。


石田:会員やフォロワーに対しては、『CAMPFIRE』のfacebookやTwitter、ニュースレターで情報発信を行っています。が、主目的はプロモーションをすることではないため、あくまでプラットフォームとして利用していただくことを重要視しています。音楽に例えると…拡散する力が大きなライブハウスがあれば、そこに出演したくなるという感じでしょうか。サイトに対するユーザーやファンはこれからもどんどん増やしていきたいなとは考えています。


atagi:一度支援してやり方がわかると、次以降はやりやすいですよね。今回僕たちのプロジェクトに支援して下さった皆さんも、抵抗は無くなったと思います。


石田:そういう意味では『Re:animation』が良い例かもしれません。最初は、新宿のコマ劇場で野外型のアニソン・レイブ・フェスを行うというプロジェクトだったのですが、回を重ねるごとに会場規模と支援金額が大きくなり、次回は中野駅前と区役所前を巻き込んだ一大イベントになるようです。


――数回重ねて規模を拡大するというやり方もありますね。ACCは今後どのような面白い企画やチャレンジをしたいと考えていますか?


Atagi:もちろん、回を重ねて…とは思っているのですが、惰性になってしまうのも怖くて。「こういう目的で、こういう面白みがあるから絶対にやってみたい」というものがあれば是非、といったところです。ただ、ファン目線で言うと「おおっ!」と感動させるようなものにはストーリーがあると思っているので、ファンの方にきちんと伝わる形であればいいなと考えています。


PORIN:私はもう一回、クラウドファンディングをやりたいです。どんどん規模を大きくしていきたいですね。


――大きくした先には、何が待っているのでしょう。


PORIN:ミュージックビデオとか・・・。


atagi:意外と普通! まあ、段階的に積み重ねていくのも悪くないかもね。


PORIN:うーん…最終的には “Awesome City”を作ります(笑)!


atagi:おお! 達成されたらグループが解散しちゃいそう(笑)。


(取材・文=中村拓海)